慢性化した脊柱管狭窄症は「漢方薬」で改善(depositphotos.com)

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 長期の療養が日常生活に重くのしかかる難治性の腰痛。脊柱管狭窄症はその代表的な疾患だ。」先天的または後天的に神経が通る「脊柱管(せきちゅうかん)」が狭くなり、脊髄や神経が圧迫されるために、「腰椎(ようつい=背骨の腰の部分)」や「頸椎(けいつい=背骨の首の部分)」 の脊柱管に病変が現れる疾患だ。

 百済診療所(東京都中央区)の丁宗鐵(宗鉄)院長(日本薬科大学教授)は、脊柱管狭窄症の痛みがどうしても取れない人や、痛みは辛いけれど余り薬に頼りたくない人に漢方薬の検討をアドバイスしている。

脊柱管狭窄症による慢性的な症状には漢方薬が有効

 腰部脊柱管狭窄症による足腰の痛み・痺れは、慢性化しやすいので、長期にわたって整形外科で治療を続けている人が多い。鎮痛薬を飲んでも効果がない、薬の副作用に悩まされる、薬をやめたら症状がぶり返したなど、一進一退を繰り返して改善しない人が少なくない。

 このように現代西洋医学の治療で行きづまった人に、漢方薬が有効な場合がある。漢方薬は、薬効成分を持つ植物、動物、鉱物などの天然物である生薬(しょうやく)を2種類以上組み合わせて作った薬だ。

 一人ひとりの証(体質や体調)をじっくりと観察し、不調の原因がどこにあるかを見極め、その人に必要な処方を選べるため、症状に対して処方する対症療法の西洋薬とはアプローチが全く異なる。

 つまり、漢方薬は、足が痛む、痺れるという症状だけに目を向けるのではなく、その背景にある根本原因を追求して処方する。たとえば、冷えがあれば温薬や熱薬を、疲労があれば補剤を、消化機能の低下があれば脾胃薬を、精神的・神経的な乱れがあれば気剤を処方し、隠れた原因が解決できるので、症状は驚くほど改善する。

 したがって、漢方薬を処方し、患者の状態から隠れた原因を解決すれば、脊柱管狭窄症の症状も解消できる。

脊柱管狭窄症に有効な漢方薬はコレ

 実証とは、邪気(病因)が盛んで、人体の正気 (生命活動の動力) との抗争の反応が激しい状態をさし、高熱、顔面紅潮、口渇、手足をばたつかせる、うわ言をいうなどの症状がある。

 一方、虚証とは、人体の正気 (生命活動の動力) が不足し,抵抗力や気力が低下し、生理機能が減退している状態で、精力の不足、顔面蒼白、動悸、呼吸過多、寝汗などの症状がある。

 脊柱管狭窄症は特に高齢者に好発する疾患であることから、虚証の人には「八味地黄丸(はちみじおうがん)」「牛車腎気丸(ごしゃじんじきがん)」がよく用いられる。ただ、これらに含まれる地黄が体に合わない場合は「桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)」「桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅつぶとう)」を処方する場合がある。

 一方、疲労感から痛み・痺れが増幅している人には「疎経活血湯(そけいかっけつとう)」を、末梢循環が悪く手足の冷えが強い人には「当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)」を処方するなど、体質・体調・症状に合わせてさまざまな漢方薬が使われる。
牛車腎気丸を服用して約10ヵ月後に仕事に復帰

 丁院長によれば、整形外科で治らなかった痛み・痺れが漢方薬によって改善した症例がある。たとえば、脊柱に沿っている後縦靭帯(こうじゅうじんたい)が骨化し、脊髄や神経を圧迫する後縦靭帯骨化症を併発していたG・Kさん(63歳)の場合だ。

 G・Kさんは、若い頃からボイラー修理の仕事に携わり、毎日足腰を酷使し、事故で腰を痛めたため、加齢とともに足腰の痛み・痺れが強くなり、仕事や日常生活に支障が出た。整形外科では、MRI(磁気共鳴断層撮影)の結果から脊柱管狭窄症と診断され、後縦靭帯骨化症の併発も判明。脊柱管狭窄症の手術を受けたが、快方に向わず、強い痛み・痺れが続いていたため、来院した。

 G・Kさんは、運動はしておらず、身長172cm、体重83kgの肥満体型だったことから、下肢の脱力や痛み・痺れに効果がある「牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)」を処方。鍼治療も行いつつ、食習慣を見直し、減量にも努めるように指導した。その結果、牛車腎気丸を服用して約10ヵ月後に痛みはほぼ消失し、足先の痺れは多少残っているものの、支障なく仕事に復帰した。

冷えとストレスから来る腰の痛み・痺れも改善

 もう一つの症例は、閉経直後から頭痛、脱毛、関節の痛みに加えて腰痛が現れたM・Yさん(50歳)の場合だ。

 M・Yさんは、書店勤務で重い荷物を運ぶことが多かったため、腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症と診断され、体が冷えると足腰の痛み・痺れが絶えないため来院。M・Yさんは家族の病気や介護などの難題を抱えていたため、日々強いストレスに晒されていたことから、顔色は赤黒く、血流が悪化していた。

 この方には体を温め、気や血の巡りをよくする生薬を配合した「疎経活血湯(そけいかっけいとう)」を処方し、同時に鍼治療も行った。その結果、疎経活血湯を服用して約半年後に、腰の痛み・痺れの症状はほぼ解消し、頭痛、脱毛、関節痛はかなり改善した。ただ、相変わらず心労の絶えないストレスフルな日々が続いているので、現在も処方を変えながら、漢方薬を飲み続けている。

 漢方薬の治療では一人ひとり体質や体調をじっくりと観察しながら行なう。必ず専門医に相談して欲しい。

(監修協力=脊柱管狭窄症ひろば)

丁宗鐵(てい・むねてつ)
百済診療所 院長
横浜市立大学医学部大学院修了 医学博士
米国スローン・ケタリング癌研究所に客員研究員として留学
北里研究所東洋医学総合研究所研究部門長、東京大学大学院医学系研究科生体防御機能学講座客員助教授を歴任
現在、日本薬科大学教授
<百済診療所>
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(http://kampochiryou.com/)