シリア戦は1失点も、お互いの考えを刷り合わせることはできた。イラク戦に向け、吉田(22番)は「また源と組むとしたら、さらにいいものを作り上げられるように」と語る。(C)SOCCER DIGEST

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[キリンチャレンジカップ2017]日本 1-1 シリア/6月7日/東京スタジアム
 
 いつもよりも敵を近くに感じていた。普段のJリーグとは違う感覚だ。だから、早めにボールを放す。だが、「よくよく見たら、あんまり近くなかった」。昌子源は正直に話す。「ちょっとあがっていたのかな」。
 
 日本代表での先発出場は、初キャップを刻んだ2年前の3月のウズベキスタン戦以来のこと。奇しくも、場所は当時と同じ東京スタジアム。「初めてスタメンで出た時よりは、落ち着いてできた」。緊張もなかった。それでも、「最初の入りは、自分でも硬いなと思った」。
 
 ただ、時間の経過とともに、徐々にリラックスできたと言う。CBでコンビを組む吉田麻也や、同じサイドの長友佑都との連係も取れるようになってきた。相手の特長を掴み、1対1でも落ち着いて対応する。危ない場面があれば、すぐに吉田と意見交換をした。
 
「俺が麻也くんに声をかけて、『今のナイス』と言ってくれることもあった。それで感覚が掴めた部分もあった」
 
 それだけに、48分の失点に関与したことが悔やまれる。セットプレーの守備で、ゴールを決めたシリアのマルドキアンは昌子が見るべき相手だった。
 
 放り込まれたクロスに対し、身体を投げ出して撥ね返そうとした。届くと思った――だが、ボールは無情にも昌子の頭上を通り越すと、背後にいるマルドキアンが完璧なタイミングでヘディングシュートをねじ込んだ。
 
 ショートコーナーを簡単に許したチームとしてのミスはあったとはいえ、昌子が空中戦で競り負けて先制を許したのは、誰の目にも明らかだった。
 
 キリンチャレンジカップのシリア戦、ロシア・ワールドカップ・アジア最終予選のイラク戦が組まれた今回の6月シリーズでは、代表のレギュラーCBだった森重真人が選外となっている。怪我ではなく、純粋にそのパフォーマンスが指揮官のお眼鏡にかなわなかった。
 
 つまり、最終ラインの軸である吉田は別にして、CBでは現時点で森重より、昌子や槙野智章、三浦弦太が評価されて、代表入りを果たした。
 
 森重不在の状況で、誰が吉田のパートナーを務めるかはひとつの注目だった。そして、シリア戦では昌子が先発に抜擢される。代表のレギュラーを掴む大きなチャンス。周囲の期待も決して小さくはない。それに応えられたかと報道陣から問われると、昌子は次のように応じた。

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「いや、応えられていないんじゃないかな」
 
 本来の実力を出し切れたとは言い難い。「もっとできたと思う」と唇を噛む。何よりも、失点に直接、関与してしまった。納得できるパフォーマンスでなかったのはあきらかだった。
 
 それでも、昌子自身にとっては、さらなる成長につながる貴重なゲームでもあった。改めて記すまでもないが、失点については誰よりも深く反省している。アウェーでのイラク戦でまたピッチに立てれば、「意地でも次は無失点で」と意気込む。
 
 シリア戦の失点後、昌子が真っ先に考えたのは「クヨクヨする必要はない」ということだ。責任逃れではない。下を向くことの危険性を熟知しているからだ。
 
「引きずったら、またやられる。そういう経験はあるんで。過去には1試合で2失点、絡んだこともある。そうならないためにも、切り替えるしかない」
 
 成長するためには、苦い経験が必要であることも知っている。自らの失態の後、前を向くのはそう簡単ではない。それでも「失点に絡んだことのないCBなんて絶対におらんと思う」と言い聞かせて、普段通りのプレーを貫こうとする。
 
 そのメンタルの強さこそ、昌子の強みだろう。「2段上がって、1段下がる。そういうサッカー人生」を歩んできた。高卒で加入した鹿島では、最初の頃は「ボロカス言われた」。そこで潰されるようなヤワな男ではないからこそ、代表の舞台に立つことができている。
 
「それでも応援してくれる人は絶対にいる。そういう人らのためにも、もっともっと活躍して、堂々としている姿を見せたい」
 
 もがきながら、這い上がってきた。そして、日本代表の肩書きも手に入れた。その成功体験があるからこそ、「痛い想いをして、強くなっていく」と言い切れる。
 
「失点してナンボ、叩かれてナンボ。(CBは)やられて成長するポジションだとも思っている。勝負の世界である以上、勝つ人もいれば、やられる人もいる。そのなかで、自分もちょっとずつ強くなっていければ」
 
 イラク戦で先発から外されるかもしれないが、それで「俺もええわと、投げ出すほどカッコ悪いことはない」というスタンスだ。シリア戦のミスで評価を下げたとしても、「またJリーグで結果を出せば、選んでもらえるはず」とあきらめるつもりはまったくない。
 
 ピッチ上のプレーと同様に、粘り強く、貪欲に上を目指そうとする。チームに迷惑をかけたのは重々承知している。だからといって、落ち込んでいる場合ではない。この経験を糧に、さらに逞しく成長することが、結果的にチームを強くする。
 
 次世代を担うべき24歳のCBは今、大きな飛躍を遂げようとしている。
 
取材・文:広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)