極私的! 月報・青学陸上部 第34回

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 関東インカレ初日――。

 男子(2部)1万m決勝が始まろうとしていた。青学からは、橋詰大慧(はしづめ・たいせい/3年)、橋間貴弥(はしま・たかや/3年)、森田歩希(もりた・ほまれ/3年)の3人がエントリーし、スタートラインに並んでいた。このレースにはケニア勢に加え、鈴木健吾(神奈川大・4年)、工藤有生(駒澤大・4年)ら箱根を賑わせた有力選手が参加している。

 その中で只今”絶好調”の橋詰がどのくらいやれるのか。橋詰はトラックシーズン、一番の成長株だ。

 原晋監督は「まだまだでしょ。これからもっと伸びるよ」と今後に大きな期待を寄せ、安藤弘敏コーチも「今年の橋詰はいいよ。箱根3区候補になりえる存在になってきた」と、その力を認めている。


陸上はトラックシーズン。ここでグンと力をつける者もいる
  実際、今年の橋詰は走るたびに自己ベストを更新している。

 ●2月5日  神奈川ハーフマラソン:1時間02分56秒(自己ベスト更新)
 ●3月5日 日本学生ハーフマラソン(立川):1時間02分46秒(自己ベスト更新)
 ●4月1日 金栗記念(5000m):13分58秒(自己ベスト更新)
 ●4月22日 日体大記録会(1万m):29分02秒30(自己ベスト更新)
 ●4月29日 織田記念陸上(5000m):13分49秒47(自己ベスト更新)


 まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだが、2年生だった昨年は「さっぱりでした」という状態だった。それまでケガが多く、昨年の夏の選抜合宿には入っていたが、出雲、全日本のエントリーリストに入ることはできなかった。それでも箱根選考前の1万mは自己ベストを更新し、選抜合宿のメンバーに入り、わずかなチャンスに賭けた。しかし、左足がシンスプリント(過労性骨膜炎)になって練習ができなくなり、箱根は断念せざるを得なかったのだ。

「調子が上がってきていただけに悔しかったです。それからちょっと腐ってしまって……。1年の時の神野(大地)さん、昨年は一色(恭志)さんとか強い選手がいるこのチームで、本当に自分がやっていけるのかと思って。その不安がレースに影響して、タイムも結果も出ない。さらに故障で練習も思い通り走れないことが続いたので……」

 不安と故障で思うように走れないことが、橋詰の気持ちを追い込んでいった主因だが、同学年の選手の成長も精神的なプレッシャーになっていった。

 橋詰の学年(現3年生)は、青学の「黄金世代」ともいえる実力者揃いだ。

 今年の箱根1区を走った梶谷瑠哉、4区の森田、6区を下った小野田勇次、さらに昨年の夏の選抜合宿には富田浩之、林奎介、山田滉介も入っていた。うかうかしているとどんどん置いていかれてしまう怖さもあっただろう。

 だが、今年に入り、橋詰の意識を変えるふたつの出来事があった。


「1月の都道府県駅伝で和歌山県の代表として3区を走ったんですが、その時の監督が和歌山北高校時代の監督だったんです。そこで、『お前のことを応援している人が地元にはたくさんいるから、がんばれ』って言ってくださって。それから自分には応援してくれている人がいる、より一層がんばらないといけないと気持ちが入れ替わりました」

 気持ちが入ると練習に集中できるようになり、結果も出るようになった。

 3月の立川ハーフでは季節外れの暑さの中、自己ベスト(1時間02分46秒)で5位に入る見事な走りを見せた。ここが絶好調男のスタートだと思っていたが、それよりも1ヵ月前に自信となったレースがあったという。

「神奈川ハーフです。タイム自体は、そんなによくなかったですし、僕は4位だったんです。でも、箱根を走った森田が3位でタイム差を10秒以内におさえることができた。そこでいける手ごたえを感じて、調子が上がり始めたんです。今の好調の流れを神奈川ハーフが作ってくれたので、自分にとっては大きなレースになりました」
 
 インカレ1万mのレースは、ケニア勢3人が引っ張り、日本人では橋詰が4番手でついていく。1000mを2分45秒の速いいペースで進み、大会新記録を出す勢いだ。

 橋詰は3000mまでついていったが、そこで先頭集団から離れた。

「そこからついていくのは今の力では無理だと思ったので、余裕を持って自分のペースで走り、後ろに追いつかれた時に切り替えられるようにしようと思っていました」

 橋詰は冷静にレース展開を見て、判断していたのだ。


 第2集団に吸収されても落ちることなく、ついていった。ラストは鈴木と日本人トップの座をかけて競った。鈴木の背後から差す瞬間を狙っていたが、その差は詰まらず、突き離れされて終わった。
 
橋詰:28分56秒06(6位入賞)
森田:29分05秒85(9位)
橋間:30分32秒71(37位)
 
 橋詰の顔には汗が吹き出し、表情には悔しさがにじみ出ている。

「関東インカレに出させていただいて、タイムよりも順位を狙ったんですが、日本人トップの鈴木さんに勝てなかったのが反省点です。ただ、3000mから先頭集団から離れて、普通ならあのまま落ちていっていたんですけど、今回は落ちなかった。3年目にしてようやく自分の粘り強さが出てきたかなと思います」

 現在、学生長距離ランナーでナンバー1ともいわれる鈴木と競り合ったのは自信になるはずだ。このまま故障せず、夏合宿を乗り越えていけば、”実りの秋”となるだろう。勉強が苦手で、それで追い込まれるとテンションが下がるという弱さもあるが、それを乗り切れば、昨年悔しい思いをした箱根も十分狙える。

「昨年の箱根は4区の森田の給水のサポートをしていました。仲のいい森田の走りを見て、その時、より一層箱根を走りたいと思いました。できれば、同じ学年で襷(たすき)
をつなぎたいので、自分が3区を走り、4区の森田につなぐことができたらいいかなと思っています」

 昨年、3連覇を達成した箱根のメンバーの内、4名が卒業した。そこを埋めていく作業が急務だが、橋詰の成長は穴を埋めて余りある存在になるだろう。また、橋詰自身も必要とされる選手になるという自覚をすでに持っている。


「自分たちの代が学年長の富田を中心にチームを引っ張っていくという自覚はあります。ただ、同じ学年でもライバルなのでお互いに食ってやろうという意識もあります。小野田とか(笑)。そうしてお互いに結果を出して、チームとしていい流れを作っていきたいと思っています」

 順調かつ勢いがある3年生に対して、なかなか調子が上がらないのが4年生だ。昨年も同時期、エース一色以外の選手の調子が上がらず、原監督から雷が落ちた。

 今年も故障などでエースの田村和希、下田裕太が万全ではなく、中村祐紀とキャプテンの吉永竜聖の調子もなかなか上がらない状況だ。

「4年生の調子が上がらないとチーム全体の調子が上がらないし、勢いも出ない」

 原監督はそういう。

 関カレ最終日、ハーフマラソンに下田が登場した。はたしてエースとして、4年生健在のアピールができただろうか。

(つづく)

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