紳士の「正しいスーツ」の条件

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ファッションディレクターの森岡 弘とベテラン編集者の小暮昌弘の対談連載「紳士淑女の嗜み」。今回はその特別編として、ファッション界でもにわかに注目を集める「メイド・イン・ジャパン」にフォーカス。

欧米に負けない”つくり”と日本ならではの”感性”の融合が見せるジャパンプロダクトの未来とは─。まずはビジネスパーソンに欠かせないスーツの話から。

森岡 弘(以下、森岡):スーツは男性を格上げしてくれる服の代表です。ビジネスウエアにおいてはなおさらその意味合いは強い。

小暮昌弘(以下、小暮):常々、森岡さんは、スーツはフィット感が大事と仰っていますね。私もそう思いますが、日本では最近はかなり細身のスーツが流行っています。

森岡:そうですね。しかしそれは「諸刃の剣」みたいなもので、単純に細いだけのスーツを着ることがカッコよく見えるというわけではないことをもっと知ってほしいですね。

小暮:90年代の「クラシコイタリアスーツ」ブームのときも「お台場仕上げ」「本切羽」とか、そんなディテールがあれば、いいスーツみたいな図式が広まってしまいましたね。

森岡:スーツでいちばん重要なのは「佇まい」です。いいスーツを着て仕事ができるように見える、安心感が与えられるということがビジネスでは重要。当然、若いときとキャリアアップしてからでは、選ぶスーツは、生地から仕立てまで変わるべきなんです。

小暮:欧米の映画では、会社などに就職した主人公をテーラーに連れて行きドレスアップさせるシーンが登場しますね。

森岡:そういう意味ではテーラーで、自分にフィットするスーツを仕立てるというのは、男を格上げしてくれる有効な手段と言えます。

小暮:パターンオーダーで若いビジネスマンから圧倒的な人気を誇る麻布テーラーですが、その最高峰に位置する「麻布テーラークレスト」というショップがありますね。

森岡:銀座にあるショップですね。ビルの5階にあってちょっと欧米のサロン的なつくりで素敵ですね。「佇まい」を感じます。

小暮:併設する工房では黄綬褒章を受賞した現代の名工鈴木誠二さんがいらっしゃって、縫製はもちろん、ときには生地選びや採寸にも立ち合いフルオーダーのスーツをつくります。まるで英国のサヴィルロウやイタリアのナポリのテーラー。

森岡:サヴィルロウのテーラーって、「話す」ことから派生した「ビスポーク」テーラーと呼ばれているでしょう。着る方とつくる方が話すことでその人が着るべきスーツ、格上げしてくれるスーツの着地点を見い出す。スーツを仕立てる、特にビジネスで着るスーツをつくるうえでは、とてもいいやり方だと思います。

小暮:鈴木氏はスーツの芯地も丸々一日かけて、ご自身でつくるそうですよ。アメリカのテーラーで同じようなことをやっているのを取材しましたが、日本でもやっているテーラーがあったんですね。それに手縫いを基本とする仕立ては、着込むほどに体によりフィットしますね。

森岡:フィット感も見た目も違います。それにこのサロンは予約優先なんですよ。忙しいビジネスマンにも最適じゃないですか。しかもフェアプライス。欧米にも負けない日本の匠の技、それに抜群のプライス感覚。まさに日本らしさが存分に発揮されたオーダースーツです。オーダーのスーツを長くつくってきた麻布テーラーだからこそ、なし得たショップではないでしょうか。

小暮:英国のファッション評論家のポール・キアーズは世の中には2種類の服しかないと言っています。それは変わる服と変わらない服。変わる服は流行に翻弄される服であり、変わらない服はそうでない服。変わらぬ服を正しい服とも言い換えています。正しい服の代表がオーダーで仕立てるスーツで、紳士は常に正しい服を好むものだと彼は書いています。

森岡:日本の「麻布テーラークレスト」のスーツはまさに正しい服じゃないですか。


森岡 弘(左)◎『メンズクラブ』にてファッションエディターの修業を積んだ後、1996年に独立。株式会社グローブを設立し、広告、雑誌、タレント、文化人、政治家、実業家などのスタイリングを行う。ファッションを中心に活躍の場を広げ現在に至る。

小暮昌弘(右)◎1957年生まれ。埼玉県出身。法政大学卒業。1982年、株式会社婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に入社。83年から『メンズクラブ』編集部へ。2006年から07年まで『メンズクラブ』編集長。09年よりフリーランスの編集者に。