未来を予測するための"設計図"の作り方

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■ビジネスモデルの構造化

売り上げと利益のシミュレーション。どうすればいいんだ……

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【STORY】
仕事ぶりが認められ、販売店の課長に任命されたあなた。「君が担当するA店の売り上げと利益は、これから3年でどう変わるか。最高のシナリオと最悪のシナリオを教えてほしい」。さっそく部長からのオーダーが。数字にはめっぽう弱いあなた。期限は3日後。さあ、どうする?

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外資系金融の世界では入社1年目からさまざまなビジネスの収益を予測しなければなりません。そのために、財務モデルと呼ばれる表を作成します。この知識は金融の世界に限らず、今回の自動車販売店のケースなど多くの人に役立ちます。

しかし参考書などを片手に財務モデルを作成しようとしても、何から始めたらいいかわからない人も多いでしょう。

こういうときはいきなりExcelに手をつけるのではなく、まずシミュレーションのための設計図を作成します。これはどのような要因で収益が生まれているか、ビジネスモデルの構造をツリー状にまとめたものです。

【ビジネスの構成図を描こう】

いきなりエクセルを始める前に、ビジネスモデルの収益構成をきちんと把握することが重要。構成図を作ることによって、利益を生み出す要因が何かを見つけやすくなる。今回のケースでは、売り上げの要素は自動車販売とサービスメンテナンスの2つ。人件費、販売管理費など必要な費用も入れていく。これらから利益を生むための構成要素が見えてくる。

上の構成図を見てください。一番右側のオレンジ色の部分が決まると、それ以外の項目が右から左に向かって自動的に計算され、利益が決まることがわかります。裏を返すと、利益のシミュレーションはオレンジ部分の数字次第になるわけです。これらの利益を生み出す要因となっている数字をバリュードライバーと呼んでいます。バリュードライバーとは利益を生み出す構成要素。何がバリュードライバーかが明確にならないとシミュレーションはできません。

【財務モデルの基本を身につけよう】

作成した収益構成(ビジネスの構成図)を、エクセルでシミュレーションするための財務モデルに落とし込む。同図でオレンジ色だったバリュードライバーは、下の表の青字の部分。つまり、青字を変更することで利益のシミュレーションができるということになる。

上の財務モデルでは「サービスメンテナンスの売上」は、バリュードライバーの一つです。この数字をいじることで、利益がどれくらい変わるかシミュレーションすることができます。

バリュードライバーを見付けるには、自社のビジネスを注視し、その事業の鍵となる数字を探ったり、過去の数字の推移を見て分析したりする方法がありますが、そう簡単ではありません。まず、自社の競合やよく似た会社が重視している数字を参考にするとよいでしょう。

ビジネスモデルの収益構造を考えるうえで大切なのは、最初から構成を細かくしすぎないこと。そして会計的な概念にとらわれすぎず、ビジネスの現場で関係がありそうな数字を柔軟な発想で連動させることです。

また、最初に作成した財務モデルは、予測と現実がずれ、外れる場合がほとんどです。しかし、その反省を生かしてモデルを何度かつくり直していくと、精度は上がっていきます。大切なことは改善の繰り返しです。

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POINT●構成図作成の3カ条
1 バリュードライバー(※)をはっきりさせる
2 構成を細かく設定しすぎない
3 関係がありそうな数値を連動させる

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※バリュードライバー
売上成長率や人件費など、企業価値を決定する構成要素として重要な数値指標。最終的に求めたい数値によってバリュードライバーは異なり、適切なバリュードライバーを見つけることが、より精巧な将来予測を導き出せる。

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■シナリオの作成

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課長「この予測結果だけじゃ、何とも言えないな。いくつかパターンを考えてみてくれ」
 ⇒いろんなケースの収益予測。どう想定すればいいんだろう……

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収益をシミュレーションするには複数のパターンをつくる必要があります。一つのパターンだけでは収益がどのくらい変わるのかわからず、事業リスクをマネジメントできているとはいえないからです。

さまざまなシナリオを想定してバリュードライバーを変えていくと、うまくいったケースではどれくらいの黒字になるのか、逆に最悪のケースではどれだけの赤字になるのかが見えてくるようになります。

シナリオの数については最低でも普通ケース、楽観ケース、悲観ケースの3つは作成したほうがよいでしょう。

一般的に、普通ケースとは「実現可能なケース」であり、過去の収益トレンドをそのまま維持することが多いです。楽観ケースは普通ケースより収益を伸ばしたパターン、悲観ケースは最悪の状態を想定した場合です。

多くの人が悩むのが、楽観ケースと悲観ケースは、具体的にどの程度の成長率を想定すればよいかという点です。例えば、過去に起きた最高・最悪の事態を参考にしたり、他社の事例を自社に当てはめてみたりするといいでしょう。

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POINT●3つのシナリオの設定法
普通ケース 実現可能なケース。過去の収益トレンドをそのまま維持すると想定
楽観ケース 過去に大きな成長をしたときや他社の成功時の収益を想定
悲観ケース 過去に大きな損失を出したときや他社の失敗時の収益を想定

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[これが正解!]
⇒「普通」「楽観」「悲観」の3パターンをグラフ化

販売売り上げの成長率について普通、楽観、悲観の3シナリオを立てて、収益を予測(縦軸は100万円単位)。例えば、楽観ケースでは最大6000万円の利益が見込める結果が出た。しかし、若者の車離れなども加味し、最悪の場合は5%のマイナス成長となっても2400万円の利益を確保できることも部長に報告。リスク管理意識も高いという評価を得ることができた。

【将来の収益を予測しよう】

●普通ケース
これまでの自動車販売売り上げ増3%を、そのまま3年継続した場合を想定。費用やそれ以外の売り上げ要素であるサービスメンテナンスの売り上げなどは現状と同じ状況であると仮定する。

●楽観ケース
景気回復を受け、販売売り上げが2、3年目は5%成長を維持できると想定。年間1000万円かけて新しいオペレーションシステムを導入・運用することで毎年1人ずつ人員削減し、人件費を抑制予定。

●悲観ケース
若者の車離れが顕著になり、販売売り上げが2、3年目は5%減少していくと想定。販売数減少に合わせて営業スタッフ体制も縮小。毎年2人ずつ人員削減し、人件費の抑制を目指す。

■複雑なシミュレーション

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課長「来期はスタッフを40人に増やして売り上げ10%増を狙ったらどうだ」
 ⇒スタッフを増やしたら、利益はどれだけ増えるんだろう……

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【利益のシミュレーション表を作ろう】

今回のケースでは、「従業員数」と「自動車販売の成長率」の2つの数値が変わることで利益も大きく変わる。

収益計画の表(表1)を基に、従業員数を横軸、販売成長率を縦軸に置いた利益シミュレーション表(表2)を同じシート内につくる。想定されるブレ幅に合わせて従業員数は30〜50人、成長率は−10〜+10%に設定。

問題のケースの場合、部長の提案通りに売り上げを10%増加できるならよい話に思えますが、スタッフを現状の35人から5人増やせば人件費も増加します。結局、これだけでは利益が増えるかどうかよくわかりません。売り上げが増えなかった場合、人件費だけ増えて赤字に陥る恐れもあります。

このようにたくさんの想定ケースを考えなければならない場合は、感応度分析が役立ちます。感応度分析とはいくつかの数値が変動したとき、それが利益などの結果にどれだけ影響を与えるかを調べる手法です。

このケースでは「従業員数」と「自動車販売の成長率」が変わると利益がどのように変わるかについて、Excelで感応度分析をしてみると理解しやすくなります。

【感応度分析をマスターしよう】

(図1)
縦軸と横軸が交差するセル(A)に、今回シミュレーションしたい数字(2年目の利益)のセル(B)を参照。感応度分析の対象エリアを選択(C)し、「データ」→「What-if分析」→「データテーブル」を選択(D)すると右下の画面が出てくる。

(図2)
右下図がデータテーブルの画面。「行の代入セル」には、横軸の参照数字となる「2年目の従業員数」セルを元の収益計画表から選択。「列の代入セル」には2年目の自動車販売「利益」セルを選択。

[これが正解!]
⇒相関表で赤字ボーダーを予測

上図は従業員数と販売成長率の相関表。部長の言う「従業員を40人に増やして、売り上げ成長10%」では、利益は2000万円。従業員数を増やさない場合の予測収益の3400万円からは減少することが判明。5人増やしても成長率が3%にとどまると、100万円の赤字に。従業員を減らし、効率的な営業をするほうが得策だということがわかった。

感応度分析を行った表を見ると、まず部長が言っている「営業スタッフを5人増やして販売売り上げ10%増」という条件では、利益は2000万円になります。すると、収益計画の表で予測した「営業スタッフを増やさずに3%成長」した場合の3400万円から利益は減少してしまいます。部長の提案はあまり得策とはいえません。

さらに営業スタッフを5人増やしても売り上げの成長率が普通ケースの3%にとどまった場合、利益はマイナス100万円と赤字に陥ります。そして悲観ケースである売り上げの成長率がマイナス5%になった場合、利益はマイナス2500万円という大赤字になってしまいます。

この表からは営業スタッフを5人増やしただけで思うように売り上げが伸びなければ、赤字になるリスクが高くなることが見てとれます。

逆に営業スタッフを5人減らして30人にした場合、売り上げがマイナス10%まで下がっても、利益は3000万円を確保できることがわかります。

このように見ていくと、利益を出すうえで大事なポイントは「営業スタッフを増やして売り上げを上げる」よりも「営業スタッフを少なくして、できるだけ効率的な営業をする」ことだと考えられます。

以上のように感応度分析の表が一つあるだけで、各要素が変わると利益がどのくらい変動するのかがひと目でわかるので、今後の方針についても非常に議論しやすくなります。

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ビジネスマネージャー 熊野整
モルガン・スタンレー投資銀行で、顧客企業のM&A、資金調達案件に携わる。現在は、インターネット企業の事業マネージャー。全国で「エクセルで学ぶビジネスシミュレーション」のセミナー、企業研修を行う。

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(熊野 整 構成=宮内健 、岩辺みどり)