人事部企画グループ次長の佐伯哲哉氏(左)と同調査役の武内雄一氏(右)。

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2016年9月16日、政府は「働き方改革実現会議」を設置した。最大の焦点のひとつが「長時間労働の是正」であり、そのカギのひとつが在宅勤務の推進だ。制度導入で私たちの仕事は、暮らしは、どう変わるのか?

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Q. 家で仕事をしてサボったりしないの?

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■「普段よりプレッシャー」

この質問に、三菱東京UFJ銀行人事部企画グループ次長の佐伯哲哉氏は「逆ですね」と断言する。

「成果物の提出が義務づけられていますから。前日までにこれをやります、と上司に宣言するため、普段よりプレッシャーがあります」

勤務を開始するときはメールで上司に報告する。ランチやタバコの休憩も同様。また、在宅勤務中は常時、チャットツールが立ち上がるように設定されているため、PCの前を離れていないかどうか、チームメンバーは一目で確認できるという。

同行では通常、上司が部下の勤務状況を、その都度このようにチェックすることはしていないという。しかし、在宅勤務では管理が徹底されているため、これも生産性の向上につながっているそうだ。

では、在宅勤務日を増やせば企業全体の競争力が上がるのか。「そう上手くはいかないだろう」と同部調査役の武内雄一氏は言う。

「現在、在宅勤務を利用できるのは、週1回まで。勤務状況をその都度管理する上司の負荷、管理される部下のストレスから、これ以上増やすのは、現実的に難しいでしょう」

一方、リクルートで制度を活用している平野愛子氏は、「むしろ、働きすぎに注意が必要」だという。同社の評価制度は「ミッショングレード制」と呼ばれる成果主義で、任されるミッションの難易度とその達成度で報酬が決まる。「求められた成果を出せなければ、評価が下がってしまう。だから、サボる、サボらないではなく、限られた時間の中で、いかに効率よく成果を出すかがポイントになる」と平野氏は話す。

「そもそも、働かされている、という感覚がないんです。成果を出してさえいればいいので、例えば自宅で仕事をする合間に買い物に行っても、家事をしても、後ろめたく感じることはありません。ただし、仕事の進め方や生活リズムをつかむまでに、多少慣れが必要かもしれません」

■「部下に無理にさせなくてもいい」

そうはいっても、自分の部下はサボるんじゃないか。そう訝る上司もいるだろう。

在宅勤務を導入する企業では、入社後一定期間を経た者を対象にするのが一般的だ。だが、日産自動車では入社1年目の社員にも在宅勤務を認めている。

「弊社の在宅勤務は1年に1回、希望者を審査して登録するシステムなので、基本的に自ら手を挙げた人の仕事へのモチベーションは高い。万が一、在宅勤務の状況に問題があれば、登録を取り消すこともできます」と同社ダイバーシティディベロップメントオフィス室長の小林千恵氏は話す。

同社のグローバルマーケティングイニシアティブ部で課長を務める曽山純平氏は、「問題は上司の意識です」と指摘する。

「在宅勤務を希望しないなら、無理にさせる必要はありません。私の部下にも、自宅では仕事がはかどらないからと、在宅勤務をしない者もいます。重要なのは、希望する社員100%が制度を利用するかどうか、選択できるようにすることです」

「メガバンク初の導入」育児・介護目的が7割
――三菱東京UFJ銀行

三菱東京UFJ銀行が、試験運用を経て在宅勤務の制度を本格的に導入したのは2016年7月。正社員約3万人のうち、本部で企画業務に従事する者、育児・介護をする必要がある者など、約4000人が対象。週1回までが条件だ。顧客の信用情報を扱うため、セキュリティにも万全を期す。専用のパソコンを貸与し、端末内に情報を残さないシステムを使用。自宅での作業を義務づけている。

同行は他のメガバンクに先駆けて制度を導入した。「当行では中期経営計画(2015〜17年度)の柱として、安倍政権同様、『働き方改革』を掲げています」(人事部企画グループ次長 佐伯哲哉氏)。

在宅勤務を推進する目的のひとつは女性活用だ。同行の女性社員の離職率は、2.3%と極めて低い。現在、約1500人の女性行員が産休・育休を取得している。

導入から約2カ月、在宅勤務を利用するのは、まだ100人ほど。企画業務の従事者が3割、育児や介護を目的とする者が7割だ。在宅勤務をするためには、初回の誓約書への署名とEラーニングの受講、そして前日までに上司への在宅ワーク時の業務内容の報告と成果物の提出が必須。同じく7月より導入した「セレクト時差勤務」は、勤務時間を前後に最大1時間ずつずらせるもので、すでに3000人が利用している。

(朽木 誠一郎 撮影=花村謙太朗、大崎えりや)