富士通本社が入居する汐留シティセンター(「Wikipedia」より)

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 富士通が秋葉原の風雲児に敗れた。

 ジャスダック上場の独立系電子部品商社、ソレキアをめぐるTOB(株式公開買い付け)で富士通は、東証2部上場のプラスチック押し出し機製造のフリージア・マクロス会長の佐々木ベジ氏個人に敗北を喫した。ホワイトナイト(白馬の騎士)を買って出た大企業が、ポケットマネーで戦った個人に競り負けたのである。

 富士通は5月23日、ソレキアに対するTOBが不成立になったと発表。応募株式総数が買い付け予定枚数の下限を下回った。一方、ソレキアに敵対的買収を仕掛けた佐々木氏は翌24日、ソレキアに対するTOBで28万5499株の応募があったと発表した。応募のあった全株を取得し、議決権ベースで32.9%を保有。佐々木氏が筆頭株主となる。同氏が以前から保有していた分を合わせると、39.64%を占める。約4割の株式を握り、佐々木氏は株主総会で、経営に関する重要な事案を決める特別決議を拒否できるようになった。

 TOB価格は、佐々木氏が1株5450円、富士通は5000円を提示していた。佐々木氏は15億5000万円を投じてソレキアを傘下に収めた。

●6月29日の株主総会で何が飛び出すか

 ソレキアの株主総会は6月29日に開催される。佐々木氏は5月30日付日本経済新聞(投資情報面)で、以下のとおり“勝利宣言”をした。

「基本的に経営陣の変更を要請するつもりはない」
「業績低迷を反省し株主のために働くよう促す」
「富士通との取引は大事にしつつも、頼り切り経営は問題」

 ここからが本音だ。鎧の下から短剣がきらりと光った。

「ソレキア側から理解が得られない場合、6月29日の株主総会で『動機も検討する』。5%超のソレキア株を保有するフリージア・マクロスの会長として出席し、取締役選任議案の修正動機を出すことも想定しているとみられる」(同紙より)

 ソレキア側は「企業価値の向上を目指して佐々木と協議していく」との、建て前だけのコメントを出しているが、6月に開催される多くの株主総会のなかで、にわかにソレキアが注目され始めたことは間違いない。

●富士通がTOB合戦から撤退した理由

 年初まで時価総額が20億円足らずだったソレキア株式が、株式市場の関心を集めたのは、佐々木氏がソレキア側と接触しないまま2月3日、1株2800円でTOBに乗り出したからだ。会社側の了承を得ない「敵対的買収」だ。

 慌てふためいたソレキアは、創業時から取引がある富士通にホワイトナイトを頼んだ。富士通は3月16日、ソレキアを完全子会社にするため、1株3500円でTOBに踏み切った。ここからTOB価格引き上げ合戦が激化する。

 敵対的買収を仕掛けた佐々木氏はTOB価格を2800円から3700円、4500円、5300円、5450円と4回引き上げた。対して、3500円で友好的TOBに踏み出した富士通は4000円、5000円と2回引き上げた。両者はTOB期間を再三延長し、富士通は5月22日、佐々木氏は5月23日をタイムリミットにした。

 佐々木氏がTOBを発表する直前のソレキアの株価は1942円だったが、TOB価格の引き上げ合戦で株価は暴騰。4月13日には年初来高値の5670円を付け、実に3倍弱となった。

 富士通は5000円から買収価格を引き上げなかった。むしろ、できなかったといえる。「投資判断として合理的な水準を超える」というのが、その理由だ。

 ソレキアの17年3月期の連結決算の売上高は前期比1.6%減の198億円、営業利益は2億2000万円の黒字(前期は1億4000万円の赤字)、純利益は1億4000万円の黒字(同1億9000万円の赤字)と黒字転換した。電子カルテなど医療情報システムが伸びた結果だ。

 ソレキアは創業時から富士通製品の販売や保守を手掛け、富士通から40億円の商品を仕入れ、売上高の18%に相当する36億円を富士通の関連会社の富士通エフサスに販売している。16年9月期末現在、富士通はソレキア株の2.7%を所有する第9位の株主にとどまるが、9人の取締役のうち、副社長、専務など4人を送り込んでいる。人的側面から見れば富士通が完全に支配している会社なのである。

 とどのつまり、富士通は、年間取引額が40億円のソレキアを完全子会社にするのに36億円のTOB費用を投じることが合理的な経営判断に基づくものかが問われたわけだ。「メンツや天下り先を失いたくないからだけではないのか」との批判が市場では高まっていた。

●兜町に乗り込んできた佐々木氏の狙い

 佐々木氏は、バブル紳士の生き残りの1人だ。1955年9月26日、東京・青ヶ島の生まれ。村長を務めていた父親が菜食主義者(ベジタリアン)だったことから「ベジ」と名付けられた。15歳で島を離れ、都内の高校を卒業。75年、20歳でフリージア家電を創業。89年度には家電の安売りで年商200億円をあげるまでに急成長。秋葉原の風雲児と評された。

 90年、35歳のとき、米化粧品メーカーのエイボン・プロダクツの日本法人に450億円で買収戦を仕掛けたが、エイボンの株価が急落したため10億円のペナルティーを払って撤退した。91年、36歳で、経営難に陥っていた東証2部上場の谷藤機械工業を買収した。これが現在のフリージア・マクロスである。社長の奥山一寸法師氏は佐々木氏の実弟だ。

 だが、通信販売会社のピーシーネットが97年9月、東京地裁で破産宣告を受けた。個人として560億円の債務保証をしていた佐々木氏も破産宣告を受けた。以降、佐々木氏は経済・産業界の表舞台から消えていた。

 その佐々木氏が兜町に戻ってきた。この間、佐々木氏は民事再生法を申請した企業の再生請負人として、経営破綻企業を次々と買収。現在、佐々木氏が関与する企業はフリージア・マクロスを核として55社に及ぶ。

 佐々木氏がソレキアを買収した狙いは何か。TOB期間中、米通信社ブルームバーグは4月25日付記事でこう報じた。

「佐々木氏は台湾の投資家と組み、日本で経営陣による自社買収(マネジメント・バイアウト、MBO)を支援するファンドの設立を進めている。立ち上げ時のファンドの規模は100億円程度を見込む。(中略)今回のソレキア買収は『1つのテストケースとしている面もある。だから、私は勝たなくてはいけない』と佐々木氏は語った」

 秋葉原の風雲児は、今度は兜町の風雲児としてM&A(合併・買収)旋風を巻き起すことになるのだろうか。

 ちなみに、富士通のTOBに応募した株数は35万7765株あった。富士通がTOBの成立の要件(下限)とした株数は44万5924株で、応募株数が下限に届かなかったため、1株も買わないことにしたわけだ。

 一方、佐々木氏側への応募株数は28万5499株。富士通より少ないが、下限を設けていなかったのでTOBは成立した。

 富士通の本気度が試される結果となったといえるかもしれない。
(文=編集部)