呼ぶ方にも、呼ばれる方にもお作法があるホームパーティー。

人格やマナーが試される場でもあるが、その正解を知らぬ者も多い。

都内の様々な会に参加し、その累計回数は約100回にものぼる29歳の優子が、多角的な視点でホームパーティーを評論してゆく。




「おもてなし」のお作法


あらためて考えると、ホームパーティーとは不思議な会である。

気の合う友人、もしくは全く知らない者同士がプライベートな空間に集い、宴を楽しむ。

そこに参加している人たちの目的は千差万別で、ビジネス目的の人もいれば、恋の出会いを求めて参加する人もいる。

一見、爽やかで楽しい時間が流れているように見えるが、主催者側の思惑と、ゲスト側の計算が見え隠れしている場合も、少なからずある。



「いらっしゃい。」

朗らかな笑顔で迎え入れてくれた今日の家主・須藤徹36歳。数年前に証券会社から独立し、現在は経営コンサルタントとして活躍している。

実年齢より若く見えるのは、カモシカのような脚が見えるハーフ丈のパンツに麻のシャツという、カジュアルな装いのせいだろうか。

部屋へ一歩足を踏み入れると、ふんわりとシトラス系のアロマの香りに包まれる。綺麗に整えられた部屋はシンプルモダンな内装で、家主のセンスが垣間見えた。

「何か、飲みたい物ある?一応ワインとシャンパン、あとソフトドリンク系ならお水とオレンジジュースがあるよ。」

家主自らが扉を開け、出迎える。そして自らが動き回る。

一見当たり前のように感じるこの光景だが、すべての家主にホスピタリティスキルが備わっているとは、限らない。

須藤の行動を見ながらふと、前回出くわした“動かぬ家主”を思い出した。


家主の正しい「おもてなし」とは?話す or 裏方に徹する?


自ら会話の舵を切り、皆を盛り上げるのがもてなす側の流儀?


前回参加したのは、西麻布の交差点にほど近いタワーマンションの一室で行われた会だった。

主催者は42歳・独身の平田。職業は医師だ。

家に上がると、革張りの大きなソファーが目に入った。家の広さは約80崋紂リビングは約30屬らいだろうか。

女性4名、男性5名の会だった。

白シャツに黒のジレを着ていた平田は、人の良さそうな雰囲気を醸し出す。ずらりと並ぶ顔ぶれも皆上品で、この界隈でもそれなりに遊んでいるであろう人たちだ。

「最初はシャンパンから飲もうか。誰かグラスをキッチンから持ってきてもらえるかな?」

平田の一声で、そそくさと女性二人が動く。

それにつられるかの如く、残りの人たちはテーブルの上に置いてあった(オーダーしたと思われる)お寿司やサラダをパックから取り出し、お皿を並べる。

まるで皆の共同作業のようなその光景。しかしその間、平田は隣に座る女性とのお喋りに夢中だった。




平田は率先して話を振ってくれた。

「優子ちゃんは、商社勤務だよね?別の会で知り合ったんだけど、この界隈では顔が広くて有名だから、みんな繋がっておいたほうがいいよ。」

冗談を交えながらも皆を紹介し、平田自らが輪の中心となり会話が進んでいく。そして次第に、各々楽しそうに談笑を始めた。

何の問題もなく、スムーズに時間は流れる。しかし、中盤から気になって仕方がないことがあった。

-溜まりゆくグラス、汚れていくお皿...

食べ終わった後のお皿が、ダイニングテーブルの隅に次々とミルフィーユ状に重ねられていく。

女性陣のリップの跡がついた、飲み終わったグラスが無造作に散乱し始め、新しい飲み物用のグラスも底をついてきた。

「平田さん、もうグラスがなくなりそうです。」

見兼ねて平田に話しかけるが、家主が動く気配は全くない。

「あ、じゃあ各自で適当に洗ってくれるかな?それより、面白い話があってさ...」


家主として正解な行動とは?


ゲストにもてなされているような家主


性格的に、汚れたグラスやお皿がそのまま放置されている光景は黙って見ていられない。

この後家主が一人で片付けることになるのかと思うと申し訳なく思う。

食洗機に放り込むだけだとしても、“置いといていいよ”という一言もないので、気になって仕方がない。

話に夢中の平田を横目に、散らかっているお皿をキッチンの流し台へ運ぶ。

「みんな、気にならないのかしら...」

お気に入りのカルティエの指輪を外し、軽くグラスを流そうとした時に、同じような行動に出た男性がもう一人いることに気がついた。

平田の後輩だと名乗る啓介は、最初から皆に気を遣ってくれており、誰かのグラスが空くと率先してお酒を注いでくれていた。

「優子さん、置いといてください。僕、やりますから。」

少し気の弱そうな、人の良さそうな啓介は、笑顔を浮かべながらグラスを洗い始めた。

何となく、彼一人に洗い物を任せるのは申し訳なくて、彼が水で流したグラスを食洗機に入れていく。




「啓介!何か飲み物持ってきてくれない?女の子たちのグラスが空いてるから。」

「分かりました。何がいいですか?」

洗い物の手を止め、啓介は平田の方へお酒を運ぶ。その間に、また別の女性が洗い物を手伝いに来た。

別に頼まれたわけではないから、文句を言う気はない。しかし、さっきから平田は話に夢中で、気がつけば遊びに来たゲストの方が気を遣って動いている。

「ありがとう。優子ちゃんって良い子だね〜。助かるよ!ちなみに、これも洗ってもらえないかな?ごめんね!楽しんでる?」

ふと顔を上げると、平田が早口で話しながら、空いたグラスを持ってキッチンの前に立っていた。

決して、本人に悪気はないのだろう。しかし楽しげに談笑している平田の横で、ゲストが動き回っている。

そんな参加者とは裏腹に、本人は至って満足げだ。

「いや〜今日はみんな、仲良くなってくれて良かったよ!誰か、ビジネスで繋がりそうかな?必要であれば、LINEのグループでも作ろうか!」

平田邸を後にし、エレベーターに乗ると同時に、洗い物でキンと冷えた手をそっと握りしめた。

「あれ?私今日、何しに行ったんだっけ...」

平田の、場を盛り上げる能力は抜群だった。だからこそ余計に、残念な会に思えてしまったのだった。



「優子ちゃん、飲んでる?お酒嫌いだったら、無理しなくていいからね。」

須藤の一言でハッと我に返る。

須藤は私に話しかけながらも、空になったグラスをキッチンへ運ぼうとしていた。

「みんな、どれくらいお腹空いてるかなぁ?メインディッシュがあるけど、食べられるかな?」

キッチンからちょこんと顔を出しながら、須藤が皆に尋ねる。

会話に混じりながらもタイミングを見計らってキッチンへ下がり、お酒を補充し、料理を出してくれる。

須藤のその姿は、ホームパーティの本来あるべき姿を思い出させてくれた。

▶NEXT:6月15日 木曜更新予定
主催者の人格・人望が露骨に現れる、ゲストの顔ぶれ