青柳翔 × レーベルスタッフ特別対談「芝居と音楽、相乗効果で表現力を上げていきたい」

写真拡大

 2016年10月にシングル『泣いたロザリオ』でメジャーデビューを果たした青柳翔が、2ndシングル『そんなんじゃない』を6月7日にリリースした。今回リアルサウンドでは、俳優として精力的に活動する青柳の“アーティストとしての一面”をより深く探るべく、音楽制作を手がけるソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズの井田鉄太郎氏を迎えた対談を企画。同作の制作にまつわるエピソードからは、青柳の“歌”との向き合い方やボーカルとしての特別な魅力を垣間見ることができ、さらには今後青柳が目指すアーティスト像にまで話が及んだ。(編集部)

(関連:青柳翔の歌声にはなぜ説得力があるのか 活動遍歴から“歌手”としての実力を読む

■作詞家・小竹正人が表題曲で描く“悲しみを背負った大人の男性”

ーー2ndシングル表題曲の「そんなんじゃない」は、前作「泣いたロザリオ」に引き続きバラード楽曲ですが、バラードに軸足を置く理由とは?

井田鉄太郎(以下、井田):青柳さんと初めて会った時、プリプロで4曲ぐらい録ったんですけど、バラード曲の時に聴いた第一声がすごく印象的で。この声を生かすんだったらバラード押しでいこう、ということにすぐ決まりました。そしてそこは2ndでもブレずにいこうと。「そんなんじゃない」は、約300の候補曲から10曲ほど選んで仮歌を録ったんですけど、この曲だね、ってすぐ決まりました。

青柳翔(以下、青柳):歌わせていただいて、自分でも「この曲がいいですね」って言いましたし、素晴らしい楽曲に出会わせていただいたなと思いました。

ーー前作に続き小竹正人さんの作詞ですが、まず「そんなんじゃない」というワードの持つ強さがありますね。

青柳:すごく言葉としてインパクトが強いなと思います。

井田:「そんなんじゃない」なんてフレーズ、出てくるのすごいなと思いますね。正直、青柳さんじゃない人が歌うとちょっと恥ずかしいんじゃないかと思うくらいのフレーズなんですけど、青柳さんが歌うとちゃんと説得力がある。

青柳:いや、でも最初歌う時、ちょっと緊張しましたよ(笑)。

井田:(笑)。でもそれぐらいでいいんですよね。それに、小竹さんはおそらく「世の中の人が持っている青柳さんのイメージ」みたいなものを増幅させて書いてるところがあると思うんです。悲しみを背負った大人の男性、というような。

青柳:俺のイメージに合わせて作ってくださってるというのは感じますね。小竹さんは、俳優デビューしたすぐ後ぐらいの頃によく食事もご一緒させてもらっていたし、いろいろ知ってくださってるので、歌詞を読んでいると、俺自身の背中を押してくれるようなメッセージも若干入ってるのかなって感じるんです。歌いやすいように、気持ちが乗りやすいようにと考えて作ってくださってるのかなとは思います。

井田:でも、1stシングル曲の「泣いたロザリオ」の時、青柳さんは初めてのレコーディングということもあって、歌詞の世界観に合っているのかなと思っていたかもしれないですが、僕らはこれくらいのほうがファンタジーとしていいんじゃないかと。音楽があまりにも現実的すぎるとそこに楽しさを見い出せなくなってしまうので、ファンタジー要素もありつつ、その中に青柳さんのキャラクターにも合った世界観がある。一つの作品として楽しんでもらえる絶妙なところを突いてるからいいと思いますよ、って話をして。それで青柳さんも「じゃあいきましょうか」と言ってくれ、レコーディングに臨んだんですよね。

青柳:そうでしたね。

井田:その「泣いたロザリオ」で一回作った青柳さん像というのが基本的には同じ流れで、「そんなんじゃない」に引き継がれてると思います。

ーーその青柳さん像という意味では、「そんなんじゃない」のMVの表現もとても美しく印象的でした。

青柳:今回、MVの撮影は24時間くらいかかったと思います。最後に朝日を狙ったシーンがあって、撮影できる時間帯が限られているので、みんなそこに向かって、いい映像を撮るために一丸となったという感じがします。ただ、かなり寒かったですね(笑)。

井田:寒かった(笑)。映像チームのメンバーが「MVって過酷だなって改めて思った」と言っていましたから、かなり大変だったと思います。映像がああいう形になったのは、「そんなんじゃない」というタイトル、メロディ、歌詞がある意味泥臭い日本的なものだったからだと思うんです。曲の雰囲気をそのまま映像にすると、ベタなものになってしまう……そこを監督がアート作品的な方向にもっていってくれて、いいものが仕上がったなと思います。

ーー青柳さんがMV制作に携わる際は、「アーティスト・青柳翔」ではありながら、「俳優・青柳翔」の部分が前に出てくる感覚でしょうか?

青柳:監督からアドリブで好きな感じでやっていいよ、と言われたので、普段の芝居の感じが生かせるのかなと思ったんですけど、自分的に切り替えできてなかった部分もある。「あ、照れてるな俺」みたいな(笑)。

ーー終盤のセリフのやりとりが生かされてる部分では、まさにドラマのような仕上がりでした。

井田:実は、現場では決まってなかったんです。

青柳:そうですね。芝居の部分は、どこにどう入ってくるか、わからない状況で撮影をしていて。

井田:編集のオフラインを見て、なるほどここに入ったんだって。

青柳:思いました思いました。

ーー音楽活動オンリーでやってらっしゃる方だったら、あそこまでの芝居を求めることはできないと思うので、青柳さんならではの映像かと。

井田:役者さんをやってるからこその映像作りですね。

■青柳「谷中さんのセクシーな世界を表現するのは、自分ではまだ若造すぎるかなと」

ーー今回、リード曲はバラードですが、カップリングにはアッパーな楽曲も。青柳さん自身はバラードとアップナンバー、向き合い方が違ったりするものですか?

青柳:向き合い方自体は変わらないと思います。ただ、自分の中でアップナンバーへの対応力はまだまだ足りないかもしれないです。

井田:青柳さんはロックっぽいものを歌ってもらってもカッコいいんですけど、とにかく声が素晴らしいので、バラードがズバ抜けていいんですよね。なので制作の方向性としても、自然とそちらに向かっていきました。ただ、バラードばかりになってもボーカリストとして幅が狭くなってしまうので、青柳さんに合ったアップミディアムって何だろうと、青柳さんとも話したりしてたんです。その中でスカパラのような曲、いいですよね、という話になって……スーツを着て、ちょっと大人っぽい世界。スカっぽいものに挑戦してみようということで、仮歌を録ってみたらすごく良かったんです。

ーーそれが今回のカップリング曲「欲望のゆくえ」ですね。作詞は東京スカパラダイスオーケストラの谷中敦さん。

井田:面識はなかったんですけど、快く受けてくださったんです。歌詞が届いた瞬間、あまりにも素晴らしいものだったので、「直すところないですよ」って返したら、「HIROさんから青柳さんの情報をもらったんだよ」とおっしゃってて驚きました。谷中さん自身、HIROさんとお知り合いだったので、「オファーもらったんですけど、青柳さんってどういう人ですか?」ということをHIROさんに聞かれてたらしいんですよね。HIROさんがどう答えられたかはわからないんですけど(笑)。

青柳:確かにちょっと気になりますね(笑)。

ーー青柳さんはこの「欲望のゆくえ」を歌われていかがでしたか?

青柳:谷中さんのセクシーな世界を表現するのは、自分ではまだ若造すぎるかなと思っていたんですけど、アップテンポの曲を歌うということで勉強することも多かったですし、本当に楽しくレコーディングさせていただきました。

井田:谷中さん、めちゃめちゃ褒めてましたよ。「青柳さんの声カッコいいじゃないですか」って。

青柳:本当に光栄です。挑戦させていただいてよかったなと思います。

井田:こういう“青柳翔”像をいつも青柳さんは見事に作り上げてくれるんですけど、多分、本当の青柳さんとは違う部分もあるんですよね?

青柳:そうですね(笑)。

ーーちなみに、本当の“青柳翔”像というのは?

青柳:もっとすごくサバサバしていると思います(笑)。

井田:そうかもしれないですね(笑)。

ーーでも、作られた世界でありながら、その中に本当の青柳さんが入ってるに違いないと思わせる絶妙さが各楽曲にありますね。

井田:ありますね。きっと、あると思うんですよ。この歌詞の世界のような部分も。

青柳:確かに、(カップリングの)「ナツノニオイ」の歌詞なんかもそうですけど、作詞の小竹さんと一緒に飲んでたあの頃の出来事がモチーフになってるのかな? と思ったりもするんです。小竹さんはニヤっとしてるのかなって、思ったりします。

井田:現実の要素も入ってるなと。

青柳:そう捉えることも出来るなという感じがします。

井田:これ、青柳さんなのかな? 誰なんだろう? って思いながら聴いたけどね(笑)。

青柳:まぁ、いろいろあるんですよ(笑)。

井田:あはは(笑)。リアルストーリーじゃないとしても、この「ナツノニオイ」はすごく画が浮かぶので、ファンタジーというよりは、どこかノンフィクションぽいところもあって、いいなと思いました。

ーー1stシングルで大きな反響を得て、この2ndへ。変化した部分、成長した部分というのは?

井田:まず、レコーディングが慣れましたよね。最初は「レコーディングとは?」、「プリプロって何ですか?」ぐらいなところから始まったので、それが今回は流れがわかった上でしたから大きく変わったんじゃないかと思います。

青柳:そこは大きな変化ですね。

井田:1stの経験が生きた、という意味では、最初1stの時はサビのトップノート(最高音)をギリギリの高さに設定して録らせてもらったんですけど、それによって、歌声に切なさが生まれてカッコ良かったんです。聴いた関係各位も「これいいね」って反応があって。ただ、デモでワンコーラス録るだけならいいけど、フル尺で歌うとなるとかなり厳しいんじゃないかって話になって、キーを下げたんです。でも、下げたからといって曲の魅力が損なわれることはなかったので、そういう部分を踏まえて今回の2ndは無理なく、でも一番表情も出しやすく、一番気持ちいい青柳さんの声の魅力が出る高さ、キー設定をかなりシビアに決めてから、耐久性がある曲を目指して録音しました。

■井田「濃いバラードを歌えるボーカリストが青柳さんの年代ではあまりいない」

ーー俳優としての活動がミュージシャン、ボーカリストの活動に生きているなと思うことはありますか?

青柳:正直、まだわからないです。現段階では、何か芝居の仕事をやりながら、ライブが入ってくるというスケジュールはまだないので、切り替えは出来る時間をいただいてるので、ありがたいことだなと思っています。今後は芝居と音楽、相乗効果で上げていけるような表現力を見い出せればとは思います。

井田:制作から見ると、青柳さんはやっぱり俳優をやってる方だな、と思うことがあるんです。「泣いたロザリオ」の時、ボーカルを録ってくれたスタッフ誰もが言ってたんですけど、「こういうふうに歌ってほしい」と指示を出すと、見事にその意図をくみ取って歌ってくれるんです。とくに、すごく細かく指定するわけではなくて、「ちょっとここは強めに歌って、ここは伸ばして」みたいなことなんですけど、イメージ通りの声を出してくれる。役者の現場で、「このセリフはこういうふうにして欲しい」って言われることをすぐに対応するスキルがあるからなんだろうなと思いました。なかなかいないんですよね、具現化して出してくれる人は。

ーー稀有な存在。

井田:滅多にいないです。上手く歌おうとする人はいるんです。例えばカラオケで100点を取れるような歌で、何が悪いとも言えないけどすごく良いわけでもない、みたいなタイプはいるんですけど、青柳さんはそれとは違って、強弱、息遣い、その一つ一つがドラマチックになるんです。

青柳:すいません、そんなに言っていただいて。

ーー映画、ドラマの現場で対応力が培われている。

青柳:確かに、現場ではよく「ここは抑えてください」、「ここはちょっと感情的になりましょうか」とか言われて、それに応えられるように努力はしているつもりです。

ーーその積み重ねが何らか生きてる部分があるでしょうね。

井田:絶対あると思います。

ーー青柳さんが「あります」とはちょっと言いづらいとは思いますけれども(笑)。

青柳:自分で「あります」と言うほど寒いことはないですからね(笑)。

ーーちなみに、声の魅力という話が何度か出ていますけれども、それは青柳さんが意識されて作っていった部分もあるんですか?

井田:これ、聞きたいですね。

青柳:いやぁ、どうなんですかね。

井田:最初からそういう声で歌ってた?

青柳:俳優デビューする前にバンドをやってましたけど、それを辞めてお芝居に専念してからは、ずっと歌い続けてたわけではないので。

井田:(出場した)『VOCAL BATTLE AUDITION』の映像を見ると、その当時より今のほうが当然大人の声というか、何か違う感じがするんですよね。

青柳:自分ではわからないんですけど。

井田:俳優をやってて、歌声を寝かせてるうちにそういう声になった?

青柳:だいぶ寝かせましたね(笑)。

井田:でも意識して作ったわけじゃないんだね。

青柳:作ってはいないですね。

ーー2ndシングルがリリースとなり、曲が増えてくると次の展開……ライブやアルバムも楽しみになってきますが。

井田:そうですね。また新たな青柳さんを見つけないと。

ーー基本的には今後もこの1st、2ndシングルで示してきた世界観が軸になってくるということですか?

井田:そうですね。「そんなんじゃない」の様な濃いバラードを歌えるシンガー、ボーカリストが青柳さんの年代ではあまりいないですし、その座席にも玉置浩二さんや徳永英明さんといった大御所の方々が数えるほどしかいないと感じていて。その方々はみな、歌が上手いというのはもちろんなんですけど、声の情報量がとても多くて、歌詞の内容以上のものがにじみ出てくるんですよね。声だけで持っていける凄みがある。青柳さんはそのラインに行ける力量を持っていると思うんです。そこを目指してほしいなと思います。

青柳:恐れ多いですけど、少しでも期待に応えられるように頑張りたいと思います。

井田:歌声だけじゃなく、例えば楽器を演奏もできて、そこに演技もできるという、なかなかいない存在になるんじゃないかと思うんですよね。

ーーこういう曲の世界に挑んでほしい、というのはありますか?

井田:中島みゆきさんの「糸」を歌っているのを聴いたことがあるんですけど、めちゃめちゃいいんですよ。ちょっとそういうフォーキーなものも合いそうな気がするんです。「そんなんじゃない」や「泣いたロザリオ」のようなバラードでは、オケも分厚くなるしストリングスも入って壮大な世界になると思うんですけど、もうちょっとコンパクトなギター1本で世界を作るのもすごく説得力あるし、それもまたいいかなと。

青柳:何曲もいろいろ経験させてもらっていく中で、「これはいいね」「ちょっと違うね」というのはいくつもあって、そういう挑戦をさせていただけるのは本当にありがたいことだと思います。

ーー井田さんの中で青柳さんのライブの構想は?

井田:演出はまだそんなにやらなくていいんじゃないかと思っています。余計なものはなく、青柳さん自身にしっかり歌ってもらえれば。ダンスするとか、そういう方でもないので(笑)。歌で勝負、シンプルに。ただ今後長尺なライブということになった時にはいろいろ考えないといけないとは思いますけど。

ーーそれこそギターとか。

井田:そうですね。そういうのもありますね。

青柳:でも踊ることはないです(笑)。どういう形になるかはまだわからないですけど、ライブでまたそれぞれの曲を表現できることはとても楽しみですし、その時間を多くの方と共有できればうれしいなと思います。

(田部井徹)