イ・ジョンソクが“非現実”というものを、ここまで素敵に体現させてしまった ― 「W -君と僕の世界-」鑑賞コラム

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※この記事にはドラマのストーリーに関する内容が含まれています。
すらりとした長身に長い手脚。線は細く見えるが、ノースリーブのTシャツから見える腕の筋肉は意外にしっかりあり、細長い首の上にちょこんと乗ったお顔の小さいこと、美しいこと。その横顔は憂いが漂い、ふいに見せる笑顔は無邪気な子供のごとし。加えて、元オリンピック金メダル選手という卓越した運動神経、ベンチャー事業を起こし成功させてしまう頭脳。この完璧なスペックは、漫画のキャラクターでもない限りありえない。そして、その男こそ、大ヒット漫画「W」の主人公カン・チョル(イ・ジョンソク) だ。

誰しも一度くらい、漫画やアニメの主人公に恋をした経験はあるだろう。一国の皇子だったり、意地悪な同級生(陸上部のエースとか) だったりと様々だが、99.9%イケメンで、心の奥で何かと戦っている人々だ。彼がつらい目に遭えば本気で心配するし、彼とヒロインの恋の成就を願う。まるで実在している人かのように、“彼”の人生に感情移入してしまう。なぜなら、“彼”が魅力的だから。そして、まさにカン・チョルがそうなのだ。

彼は、ドラマ『W -君と僕の世界-』の主人公だ。厳密にいえば、このドラマの中で、“連載7年目を迎え、結末に関心が集まるウェブ漫画「W」の主人公”である。そして、ドラマは、「W」の作者ソンムの娘で「W」ファンであるヨンジュ(ハン・ヒョジュ) が、チョルが生きる漫画「W」の世界に引き込まれてしまうところから始まる。やがて、ヨンジュとチョルは現実世界と漫画の世界を行き来しながら、「W」の結末に迫っていく……と、まぁ、簡単にいえばそんな話なのだが、実際はそう簡単に説明できないのが、このドラマの面白さ。そこは見ていただくとして。

注目すべきは、チョルの人気ぶりだ。それこそ、いい大人であるヨンジュの上司(なんと胸部外科教授!) でさえが夢中になり、「男から見てもカッコいい。根性があり、セクシーだ」と熱く語るほど。「W」を読んでいない私には、彼の“根性”がどうかはわからないが、女子目線からも、漫画の主人公ならではの“予想のつかないリアクション”(大胆さ含む)は瞬殺されるほど魅力的だ。

例えば、物語序盤、漫画の世界に入り込んでしまったヨンジュの謎の行動に対し、おそろしくクールに反応する様。何の脈略もなく彼女から突然ビンタされ、キスされ、銃をつきつけられても、表情ひとつ変えず、さらりと受け流す。滅多なことでは動じず、なんどきも気の利いた冗談で淡々とかわすチョルのカッコよさは、実はイ・ジョンソクの十八番。ツンデレとも違う、この淡白な口調は、なぜか妙な色気を感じさせ、「それで動揺するとでも?」なんて言われた日には、むしろ“ずきゅん”と来る。

そんなチョルが出張に出かける際に、突飛な行動ばかりだったヨンジュから「気をつけて。あなたのハッピーエンディングを願ってる」と言われ、初めて彼女に心動かされる場面がまた見もの!ここで、改めてヨンジュの年齢を確認し、唐突に「結婚してる?」と訊ねるチョルの明らかな感情の変化ににやり。さらに、「していない」と答えるヨンジュに表情を緩ませ、「よかった」とつぶやく(しかもさりげなく) →エレベーターのドアが閉まる間際にウインク!(不意打ち) という流れに、こちらまでノックダウン。茶目っ気たっぷりなのに、なんともいえずセクシー!クールさの中に、1〜2滴、甘さを落としてくる高テクニック!

さらに、倒れていたヨンジュをすっと抱き上げ、立ち去る様。刑事の前では、腕の中で意識を失ったままの彼女の顔をさっと自分の胸に引き寄せ、ナチュラルに守る様の素敵なこと!あぁ、漫画の主人公はレベルが高いのだ。

とまぁ、ここまでは、漫画の主人公的素敵さであり、きゃ〜♡ レベルのところ。実は、チョルに本気で心奪われるのは、この先にある。彼があることをきっかけに、自分が漫画の主人公、虚構のキャラクターであることを知ってしまってからの展開だ。自分の選択に迷いなく生きていたチョルの、全世界が崩れ落ちるかのような衝撃と困惑の表情。足を踏み入れた現実世界で、自分の顔が描かれた漫画「W」の広告を呆然と見つめる、その揺れる眼差し。さらに、作者であるソンムと対峙した彼は、これまで自分の意志で生きてきたはずの人生が、すべて作者の作った設定だと否定され、瞳いっぱいに涙を浮かべ、静かに感情を荒げていくのだ。そう、私はこの時点で、漫画のキャラクターであるチョルを、まるで生きている人物かのように憐れみ、この先の彼の選択と行動を、はらはらと祈るように見つめていくことになる。これは恋なのか?

この先も物語は予測できない怒涛の展開が続いていくのだが、「自らの意志で」ヨンジュを愛し始めたチョルの彼女を守るための行動は、切なさに胸締め付けられるものもあり。詳しくはネタバレになるので言えないのだが、一つだけ。漫画の世界では、物語においてキャラクターの存在意味がなくなれば消滅していくルールがあり、主人公のチョルさえも消えてしまう可能性を秘めている。物語を自分の意志で動かすためには、主人公であり続けなければならず、そのための戦いもドキドキものなのだ。また、チョルが冷静な洞察力と分析力で、「W」と現実世界の因果を解き、先の先まで読んで物語を緻密に操作していく様は、痛快かつ圧巻。加えて、「作家と主人公」であり、「愛する者の父と、娘の恋人」という関係でもあるチョル×ソンムのやり取りもスリリングかつ胸に迫る。

というように、はじめは「カン・チョル、カッコいい〜♡」と軽い気持ちでキュンキュンしていたはずが、いつの間にか、彼がどのような「W」の結末を導くのか、その大胆な決断と逆転劇に胸をグッとさせながら見入ってしまった次第。

それにしても、イ・ジョンソクである。漫画から抜け出してきたようなビジュアルもさることながら、現実世界と漫画の世界を行き来しながら、混線していく世界をぎゅっと束ねていく力強い存在感たるや!“非現実”というものを、ここまで素敵に体現させてしまったジョンソクの圧倒的ヒーロー感に脱帽。御曹司や皇子のオーラを発する俳優はこれまでも多く見てきたが、漫画の主人公オーラというものもあるのだ。この体験は新しい。

というわけで。絶望の淵から静かに立ち上がり(すごくすごくカッコいいのです!)、ヒロインを守り、自らの物語を終結させるべく動き出すカン・チョル。もはや漫画の主人公を超えた、生きたキャラクターに夢中です。

エンタメライター:高橋尚子

■作品情報
「W -君と僕の世界-」
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