あらゆるスポーツシーンを振り返っても、13歳の少年がこれだけ世界を驚嘆させたのは初めてではないだろうか。史上最年少の日本代表として世界選手権の舞台に乗り込んだ張本智和は、シングルス2回戦でリオデジャネイロ五輪シングルス銅メダリストの水谷隼を破る大金星をあげると、一気にベスト8にまで上り詰めた。


水谷に勝利するなど、史上最年少の13歳で8強入りした張本 怪物、神童、100年にひとりの逸材……。さまざまな看板を背中に貼り付けられた少年の未来は、日本卓球界の悲願である”中国越え”につながっていくのだろうか。

「東京五輪で中国を倒すには、僕を超える才能が必要です」

 水谷隼がそう語ったのは今年3月。卓球専門誌が企画し、筆者がホスト役を務めた”天才・怪物対談”の場だった。水谷は「今のところ、その才能として思い当たるのは張本しかいません」と言葉をつなぐと、世界ジュニア選手権を最年少で制したばかりの張本は、憧れのメダリストの隣で照れ笑いを浮かべた。

 同じ13歳の時、水谷は自らの人生に卓球を重ねて考えることさえなかった。生まれ育った静岡の中学から青森山田中に転校し、武者修行のためにドイツへ渡るのは14歳になってからである。

「13歳当時の僕と張本では、比べものにならないぐらい張本が上です。おそらく、僕の3年先を走っている感覚でしょう」

 対談の中で、水谷はそうも言った。実際、2005年世界選手権上海大会に初出場し、シングルス2回戦で当時の世界ランキング8位の莊智渕(チュワン・チーユエン/台湾)を4-3で破って世界中の卓球ファンを驚かせたのは、水谷が15歳10カ月の時。世界ランキングは183位だった。

 強引な言い方をすれば、卓球は番狂わせが起きやすい競技である。負けて失うものが大きいビッグネームが、捨て身で攻めてくるランキング下位の選手に足をすくわれることは決して珍しくはない。張本もまた、昨年の全国中学校選手権準々決勝で、相手にマッチポイントを握られる窮地を経験している。

 そうしたことをふまえて、水谷は才能を認めた後輩に「僕より3年以上も先を走っているんだから、張本もそろそろ張継斗(ジャン・ジーカ)や馬龍(マー・ロン)に勝たないといけない」と話を振った。今だからこそ、中国のトップ選手に勝つ”大物食い”のチャンスがある、と。

 まさか、自らが世界選手権で張本と対戦し、大金星を献上するとは思ってもいなかっただろうが、水谷はかつて自らが成し遂げた番狂わせを卓球の競技性と重ねてこう振り返ったことがある。

「莊選手に勝った時は怖いもの知らずで、どんどん攻めていけた。今、あの時のプレーをもう一度やれと言われても、できない。あの時よりも技術も経験も上乗せしているはずなのに、同じプレーができないんです。心のありようがそのままプレーに反映されるところも、卓球の奥深いところだと思います」

 張本と初めて戦う前夜、水谷はツイッターに「今日もきっと緊張して寝れないんだろうな…だって明日は張本だ」と書き込んだ。受け身にならざるをえないシチュエーションを予測した時点で、味わったことのない不安が胸に差し込んできたのかもしれない。

 そしておそらく、張本が現時点で身につけているさまざまな技術とパワー、そして勝負度胸は、水谷の想定を大きく上回った。

 リオ五輪を目前に控えた昨年6月、仙台から上京し、JOCエリートアカデミーに所属して間もない張本に話を聞いたことがある。卓球には実戦形式で打ち合う「オール」と呼ばれる練習があるが、インタビュー直前に初めて水谷とオールの練習をした張本は、そのときの印象をこう語った。

「大学生や社会人のナショナルチームの先輩たちとオールをやっても、ある程度はポイントを取れる展開に持ち込めるんですが、水谷さんだけは全然違うんです。台から離れてもミスはしないし、どうやったらポイントを奪えるのか、まったくわかりませんでした」

 それからわずか1年後、張本はデュッセルドルフのコートで別人のように進化した姿を披露したのである。

 台から下がらずに攻め続け、やわらかいリストをいかしてあらゆる角度にボールを散らす。水谷は多彩な技術を駆使して勢いを止めようとするが、張本はことごとく対応し、憧れのメダリストを飲み込んだのだ。

 潔く敗北を認めた日本のエースは試合後、ツイッターにこう書き込んだ。

「彼のためにも自分がさらに強くならないと」

 それは過去に何度も苦杯をなめ、その悔しさを糧にして栄光を手にした水谷だから口にできる矜恃(きょうじ)である。

 アスリートとしての成長には、技術とメンタル、そして競技に向き合う姿勢など、さまざまな要素が複雑に重なり合う。東京五輪を迎えた時、17歳になった怪物はどんなメンタルで卓球という競技に向き合っているのだろうか。その心象風景こそが、日本の卓球界の未来を映す鏡かもしれない。

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