最近、日本代表の試合が近づくたびに楽しみなことがある。

 今度は、いったいどんな”姿”を見せてくれるのか――。6月7日に組まれたシリアとの親善試合でも、13日に開催されるイラクとのロシア・ワールドカップ・アジア最終予選でも、ここ数試合の日本代表とはまた異なる”姿”が披露されるに違いない。


ハリルホジッチはシリア戦でどんなオプションを披露するのだろうか 2015年3月の就任当初から、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は対戦相手やシチュエーションに応じて臨機応変に戦うことを宣言していたが、就任から1年近くは「縦に速い攻撃」や「デュエル」といった言葉に選手がとらわれすぎたり、そうした言葉がひとり歩きしすぎたりして、戦いぶりがギクシャクすることが多かった。

 しかし、昨年10月のオーストラリア戦以降、試合ごとに指揮官の狙いがピッチの上でくっきりと描かれるようになってきた。

 敵地に乗り込んだオーストラリア戦では、ブロックの位置を下げて相手にボールを持たせ、FW本田圭佑(ACミラン)を1トップに、飛び出しに長けたFW小林悠(川崎フロンターレ)とFW原口元気(ヘルタ・ベルリン)をウイングに配してカウンターを繰り出した。

 11月のサウジアラビア戦では、原口に加え、ケルンでレギュラーに定着するFW大迫勇也を1トップに、ヤングボーイズ(当時)でゴールを量産していたFW久保裕也(ゲント)を右ウイングに置く新3トップを採用し、彼らの勢いを生かして積極的にプレスを敢行。ショートカウンターを繰り出し、グループ首位の相手をホームで2-1と撃破した。

 今年3月の2連戦では、さらに異なる戦い方が披露された。

 3月24日のUAEとのアウェーゲームでは、2年ぶりに代表に復帰させたMF今野泰幸(ガンバ大阪)を先発起用しただけでなく、逆三角形となるガンバ大阪の中盤の形をそのまま日本代表でも採用。その今野とDF長友佑都(インテル)が相手のキーマンであるMFオマル・アブドゥルラフマンを封じ込め、2-0と完勝を飾った。

 3月28日のタイ戦では、サイドバックのDF酒井高徳(ハンブルガーSV)をボランチとして起用した。ハンブルガーSVではボランチを務める機会があるが、日本代表で酒井高がボランチに入るのは初めてのことだった。

「UAEとの大一番を制してホームに戻ってくるわけですから、タイ戦では気が緩む可能性があった。そうした状況でヴァイッドがもっとも避けたかったのが、カウンターからの失点でしょう。そこで、中盤は高徳と山口(蛍/セレッソ大阪)のふたりでしっかりと締めて、前線の3人を最大限に活かす――そんなメッセージが感じられました」

 そう語るのは、日本サッカー協会技術委員長、ナショナルチームダイレクターを歴任した霜田正浩氏だ。実際、日本はタイにゴールを許さず、効率よく得点を重ねて4-0と完勝。酒井高は攻撃を組み立てられたわけではなかったが、そもそもゲームメイクを託されてボランチ起用されたわけではない。

 打つ手、打つ手がハマる成功体験の連続によって、ハリルホジッチ監督も自身の判断と決断、選手の戦術理解度と実行力、自身と選手との信頼関係において自信を深めているに違いない。シリア戦とイラク戦に向けたメンバー選考は、そんなことを感じさせるほど、ドラスティックで大胆だった。

 これまでずっと主力だったDF森重真人(FC東京)、GK西川周作(浦和レッズ)、MF清武弘嗣(セレッソ大阪)をメンバーから外し、MF加藤恒平(ベロエ・スタラ・ザゴラ)、GK中村航輔(柏レイソル)、DF宇賀神友弥(浦和レッズ)、DF三浦弦太(ガンバ大阪)を初めて招集。さらにFW乾貴士(エイバル)を2年ぶりに代表に復帰させたのだ。

「よりよい選手に資格がある」
「みんなに門は開かれている」
「よいパフォーマンスでなくても自分に立場があると思っていたら間違い」

 メンバー発表会見で指揮官がそう宣言したように、今回のメンバー変更は現在のパフォーマンスやコンディションが重要視されたものだ。

 一方、こうした大胆な決断ができたのも、イラクとのワールドカップ予選の前にシリアとの親善試合が組まれているおかげだろう。

 振り返ってみれば、大迫や久保が抜擢された昨年11月のサウジアラビア戦の前にも、オマーンとの親善試合が組まれていた。茨城・鹿嶋でじっくりと合宿を積んでから臨んだこのテストマッチでは、大迫や久保だけでなく、FW齋藤学(横浜F・マリノス)、MF永木亮太(鹿島アントラーズ)、DF丸山祐市(FC東京)、MF小林祐希(ヘーレンフェーン)といった選手たちにも出場機会が与えられ、戦術の幅を広げると同時にチーム内の競争意識が一気に高まった。

 今回のシリア戦も、似た位置づけだ。欧州組による千葉合宿、国内組も合流する東京合宿を経て、迎えるシリア戦でも新しいトライが試されるだろう。

 森重不在のセンターバックに起用されるのはDF昌子源(鹿島アントラーズ)か三浦か、左サイドバックの宇賀神とボランチの加藤はワールドカップ予選でも起用に値するクオリティを備えているのか、ケガを抱えている今野と乾はプレー可能なのかどうか、本田のポジションはこのまま右サイドでいいのか……。確認すべきポイントは少なくない。

 指揮官はシリアについて「フィジカルとアグレッシブさを備え、デュエルもものすごく強く、イラクと似ている」とも語っているため、戦術面における確認も行なわれるはずだ。このシリア戦で採用されるシステムが従来の4-2-3-1ではなく、UAE戦で成功した4-3-3だとしても、あるいはまだ見ぬオプションだとしても、もはや驚きはない。

 日本と異なるグループAに属するシリアは現在、2勝2分3敗で4位につけている。次戦は5位の中国とのホームゲームだが、政情不安のシリアはホームゲームを国外で行なうことが義務づけられており、今予選のホームゲームをマレーシアで行なってきた。中国戦もマレーシアで行なわれるため、中国と同じ東アジアのチームである日本と一戦交えて、中国対策を行なう算段だろう。

 どのようなメンバーで、どう戦うか――。対戦相手とシチュエーションに応じて臨機応変に、変幻自在に”姿”を変えることこそ、ハリルジャパンの魅力であり、強みである。このシリア戦は、イラク戦に向けただけでなく、1年後のロシア・ワールドカップに向けて、戦術とメンバー選考の幅を広げるための重要なテストマッチとなる。

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