加計学園問題 工事進む岡山理大獣医学部(写真=Rod Walters/アフロ)

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「新聞の社説はつまらない」。そう断じるのはもったいない。社説は、読み比べることで、ニュースへの深い理解を助けるものだからだ。現在、「加計学園問題」について納得できる社説を書いているのはどの社か。ジャーナリストの沙鴎一歩氏が、徹底的に読み比べる――。

■朝日は「眞子さま」より「加計学園」

森友学園に対する国有地売却問題に続いて、加計(かけ)学園をめぐる問題が火を噴いている。一連の報道のなかで大きな節目となったのが、朝日新聞の5月17日付朝刊1面の記事である。

「加計学園計画 文科省に記録文書 新学部『総理の意向』」との見出しを付け、そのリードは「安倍晋三首相の知人が理事長を務める学校法人『加計学園』(岡山市)が国家戦略特区に獣医学部を新設する計画について、文部科学省が、特区を担当する内閣府から『官邸の最高レベルが言っている』『総理のご意向だと聞いている』などと言われたとする記録を文書にしていたことがわかった」とまとめている。

加計学園の獣医学部新設に安倍首相の意向が働いたかどうか。この最大の疑惑を解く「記録文書」が文科省の中にあったというのだから大きな特ダネだ。朝日新聞も意識してか、「秋篠宮ご夫婦の長女、眞子さまが婚約される」とのニュースを2番手にしてこの加計学園問題の特ダネを1面トップに添えた。

■「首相は自ら真相を語れ」

翌日18日付の朝日新聞の社説は冒頭で「政府はすべての国民に公正・公平に向き合い、首相との距離によって対応に差が出るようなことがあってはならない。民主主義国会の当たり前の原則が掘り崩されているのではないか。そう疑わせる問題が、朝日新聞が入手した文部科学省作成の文書で明らかになった」と書き出し、「記載が事実であれば、内閣府が『総理のご意向』をかざして首相の友人に便宜をはかろうと動いたととれる。首相と政府の信頼に関わる重大な事態だ。事実関係をすみやかに調べ、国民に説明する責任が首相と関係省庁にはある」と主張する。

朝日新聞の特ダネを17日付夕刊ですぐに追いかけた毎日新聞も18日付社説で「事実の解明が必要だ」との見出しを掲げ、「政府は、今回の文書の存在について確認をすべきだ。いきさつや背景も調査して、明らかにすべきだ。特区を巡って内閣府と官邸、および文科省の3者でどのようなやりとりがあったのか、問題の核心だ」と訴えている。

東京新聞も朝日や毎日と同様、18日付社説で「首相は自ら真相を語れ」と強調している。

加計学園の獣医学部新設に安倍首相の意向が働いたかどうか。この疑惑解明に大きな手掛かりとなる記録文書の存在が明らかになった以上、朝日も毎日も東京も国民の納得を得る社説を書いていると思う。

■安倍政権の擁護を「巧みに書く」

ところが、政府は明らかになった記録文書を信用性のない怪文書として扱う。17日午前、菅義偉官房長官は「どういう文書か。作成日時だとか、作成部局だとか明確になってないんじゃないか。通常、役所の文書はそういう文書じゃないと思う」と述べ、その後、文科省も松野博一文科相が「文書の存在は確認できなかった」と答弁している。

こうした政府の対応に朝日新聞は25日付朝刊で、文科省の前川喜平前事務次官の「事務次官在職中、問題の記録文書を確認している」との証言を掲載する。さらに同日、前川氏は記者会見まで行い、「記録文書は本物だ」と説明した。

朝日の社説は「前次官の証言 国会の場で解明せよ」(26日付)、「論点をすり替えるな」(31日付)と勢いづく。毎日の社説も「もう怪文書とは言えない」(26日付)、「『加計』の解明拒む安倍政権 その姿勢が行政ゆがめる」(31日付)と鋭い主張を展開する。

ところがである。朝日や毎日のような安倍政権を批判する社説に対し、保守色の強い読売新聞や産経新聞の記事や社説は安倍政権擁護の姿勢を貫く。単純に貫くのではなく、論を展開しながら巧みに貫くのである。

■読者が思わず納得してしまう書き方

たとえば5月27日付の読売の社説。「前次官が在職中の政策決定を公然と批判する。異例の事態である。政府には、疑惑を払拭する努力が求められよう」と書き出した後、「疑問なのは、前川氏が国家戦略特区による獣医学部新設を『極めて薄弱な根拠の下で規制緩和が行われた』と批判したことだ」と指摘する。

この社説は何を言いたいのだろうかと思って読み進むと、次に「獣医師の需給見通しなどが十分に示されないまま内閣府に押し切られたとして、(前川氏が)『行政のあり方がゆがめられた』とまで語った」と説明し、「これが事実なら、なぜ現役時代に声を上げなかったのか」と書く。

ここで初めてなるほど、読売社説は前川喜平前次官を批判したいのだなと読者は気が付くが、そのときはもう遅い。

「規制改革を主導する内閣府と、業界保護の立場から規制の例外を認めたくない関係省庁が対立することは、ままある」と説明し、加計学園問題に関するこれまでの野党と政府の対立を具体的に並べ、「政府は、特区を指定した経緯や意義について、より丁寧かつ踏み込んだ説明をすべきだろう」と主張する。そして最後には「規制緩和は安倍政権の重要政策であり、仮に首相が緩和の加速を指示しても問題はあるまい」と述べる。読者はその通りだと思わず納得してしまう。

読売新聞はこの社説を出す5日前、「前川前次官出会い系バー通い 文科省在職中、平日夜」との見出しを付け、前川氏のスキャンダルを特ダネとして社会面に掲載する。推測だが、このタイミングでこのニュースを掲載する以上、政府側が読売にたれ込んだ可能性が強い。下ネタで問題の焦点をぼかしして相手を攻撃し、世論を見方にしようとする作戦はこれまでもよく使われた。

■「不毛な論戦」と批判する産経社説

次に産経新聞の社説。前述した読売社説と同じ27日付である。ちなみに産経の場合は社説ではなく、「主張」というタイトルを付けている。

「不毛な泥仕合は見苦しい」との見出しを付け、「まるで泥仕合であり、見苦しくさえある」と書き出す。一見、加計学園の問題を公平中立に書いているように受け取れるが、要は野党と政府与党の争いを止めろと強調しているのに過ぎない。社説中の言葉を借りれば、「野党は前川氏の国会招致を求め、政府側からは前川氏に対する個人攻撃が聞こえてくる。不毛な論戦であるとしか、いいようがない」から止めなさいと忠告しているのだ。

さらに産経社説を読み進めていくと、「加計学園の理事長が安倍晋三首相の友人である個人的関係が許認可に影響を与えたかが疑惑の核心なのだろう。だが文書が存在したとして、首相およびその周辺から具体的指示があったかの証明とはならず、法律上の容疑が生じるわけでもない」と断言する。

■「法律上の容疑が生じるわけでもない」

しかし「法律上の容疑が生じるわけでもない」とまで言い切る根拠はどこにあるのだろうか。ロッキード事件やリクルート事件を立件した検察がじっと観察していることを忘れているのではないか。

さらに「推進の指示があったとしても規制改革は政権の重要政策であり、不自然とはいえない。忖度の有無が焦点となれば、これはもう水掛け論である」と指摘し、「前川氏は会見で『公平、公正であるべき行政のあり方がゆがめられた』と述べたが、事実なら自身の在職中に対処すべきであり、あまりに情けないではないか」と述べる。これも読売社説と同じである。

産経新聞は27日付1面に「混迷文科省 前次官“告発”」というタイトルの企画(上)を掲載している。その企画の主見出しが「義憤の顔は本物か」である。

企画の終盤は「前川は昨秋、『出会い系バー』への出入りについて官房副長官の杉田和博から注意を受けた。今年1月には文科省の組織的天下り問題を受けて引責辞任。こうした経緯から、告発は義憤ではなく政権への意趣返しなのではないか、との見方も出た」と綴られている。

企画としての切り口はおもしろいかもしれない。だが安倍政権擁護が先にあるような気がしてならない。これも読売新聞と同じである。

(沙鴎 一歩 写真=Rod Walters/アフロ)