(上)大宮のサテライトオフィスで働く平野愛子氏。(下)林宏昌氏と栗崎恵実氏。本社オフィスにはフリーアドレスのエリアも。

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2016年9月16日、政府は「働き方改革実現会議」を設置した。最大の焦点のひとつが「長時間労働の是正」であり、そのカギのひとつが在宅勤務の推進だ。制度導入で私たちの仕事は、暮らしは、どう変わるのか?

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Q. リモートワーク制度導入で仕事や暮らしはどう変わった?

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■「子どもへの罪悪感が減った」

「元の生活にはもう戻れない」――そう話すのはリクルートホールディングスの平野愛子氏 。平野氏が丸の内にある本社ビルへ行くのは週2日ほど。残りは埼玉県大宮市にある同社のサテライトオフィスで働く。

「何より、ギュウギュウの電車に乗らなくていい、というのがうれしいです。それに、通勤にかかる1時間で洗濯機が回せるし、掃除機も掛けられる。かなり家事が楽になるんです」

平野氏の所属は内部監査室。以前は監査法人に勤めていたが、機密情報を扱うため自宅に仕事を持ち帰ることができず、深夜残業も多かった。2016年3月にリクルートへ転職し、働き方が一変したという。

「デメリット? 正直、ないですね。海外の関連企業と早朝や深夜に打ち合わせをすることもありますが、わざわざ会社に行かなくてもいい。スカイプを使って自宅やリモートオフィスで話をしていますね」

2歳の子どもを持つ同社広報部の栗崎恵実氏は、「罪悪感が減ったことが大きい」と話す。

「いつも子どもと一緒にいたいと思いながら働いています。でも、朝や夕方はどうしてもバタバタしてしまい、子どもに余裕をもって接することが難しい。リモートワークをするようになって時間のゆとりができたことで、心理的な負担が減りました」

平野氏と栗崎氏にはそれぞれ、自らすすんで制度を活用する男性上司がいる。

「私の上司はとてもイクメンで、夕方からの会議は、ほぼスカイプでやります。上司がずっと会社にいるタイプだと、制度を利用するのは難しいと思いますね」(平野氏)

■「電話が鳴らないので集中できる」

「在宅勤務は生産性向上の効果がある」と話すのは、三菱東京UFJ銀行人事部企画グループ次長の佐伯哲哉氏。

「たとえば、在宅勤務では社外からの電話を取らなくてよくなります。ちょっとした雑務がなくなることで、集中して仕事ができるようになったという声も多くあがっています」

佐伯氏と同部調査役の武内雄一氏に、制度を利用した感想を聞いたところ――。

「実は、まだ利用できていないんです。そろそろ……」

と口をそろえた。運用開始から2カ月。制度の利用者をどうやって増やしていくか。特に、どうやって管理職に制度を積極的に利用してもらうかが、同社の課題だという。

日産自動車ダイバーシティディベロップメントオフィス室長の小林千恵氏は、「弊社の社員の7割は、(働き方を変えにくい)機械系エンジニア」と前置きをしたうえで、「だからこそ、在宅勤務制度はあえて、実験部や生産部など、より在宅勤務を取り入れにくい部署から導入しました」と話す。そうすると、ほかの部署が「できない」と言いにくくなるからだ。

「利用者への調査では、98%が、生産性が『向上した』『(在宅勤務でも)変わらない』と回答しています」(小林氏)

「在宅」以外もOK! サテライトは40カ所
――リクルートホールディングス

リクルートホールディングスでは、2016年1月から全社員を対象とし、上限日数がなく、育児や介護などの理由がなくても利用できるリモートワーク制度を導入した。在宅だけでなく、サテライトオフィスなど社外での業務も認めている。育児や介護などを目的とした在宅勤務の規定は以前からあったが、周囲に遠慮して利用しづらい雰囲気があったこと、制度の利用者に男性がほとんどいなかったことが問題だった。

これからの社会では、女性だけでなく男性も、仕事と家事を両立しながら働き続ける必要がある――制度導入には、このように多様な働き方を目指す背景があった。また、ハードワークが習慣化する中で、仕事以外に自分の成長につながる時間をどう確保するのか、ということも課題になっていた。

制度の有効性を検証するために実証実験を行った際の社員アンケートでは、回答者の3割が生産性が上がったと回答。時間を効率よく使う意識が高まり、大学院に通い始めるなど、新しいチャレンジをする者も出てきたという。

現在、不動産会社ザイマックス、東急電鉄と共同でサテライトオフィスの整備を進めており、拠点は40カ所。

(朽木 誠一郎 撮影=花村謙太朗、大崎えりや)