月面探査レースに挑むインドチームの「ビジネス力」

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「インドのスタートアップの象徴的存在」。インドのモディ首相がそう言って、自身の外遊に同行させたこともあるのが、TeamIndus(チーム・インダス)だ。

彼らはHAKUTOと同じく、人類初の月面探査レースGoogle Lunar XPRIZEに挑戦する。しかも、HAKUTOのローバー「SORATO(ソラト)」は、TeamIndusのランダー(着陸機)によって月面をめざす。いわばライバルの「船」に乗り、呉越同舟のかたちとなるわけだが、この間の経緯などを含め、来日したTeamIndusの事業開発担当者Sridhar Ramasubban氏への直撃スペシャル・インタビュー。

──最初、Google Lunar XPRIZEに挑戦を表明しているチームは世界中で34ありました。ミッション達成のためには、今年末までに月へと出発しなければなりませんが、ライバルチームがひとつ減り、ふたつ減り、いま残っているのは、TeamIndusやHAKUTOを含め、5チーム。単刀直入にうかがいますが、今回のGoogle Lunar XPRIZEへの勝算は?

Ramasubban:まず、打ち上げについては成功の確信があります。その後のレースでも優勝できる勝算は高いと考えています。

──日本のチームであるHAKUTOは、インドのTeamIndusのランダーに乗って月面をめざします。いわば「相乗り契約」をHAKUTOと結んでいるわけですが、同じ月面探査レースに参戦しているライバルと、そのような契約を結んだ経緯は?

Ramasubban:HAKUTOのリーダーである袴田武史さんとは、契約交渉以前から付き合いがありました。それまでも宇宙ビジネスについて語り合ってきた仲でしたし、互いのチームのこともよく知っている間柄だったんです。

当時、私たちはそれぞれ、レースやその後のビジネス展開を含め重大な決断の場に立っていました。どんな仕事でもそうだと思うのですが、ひと晩話をしたとても、重要な事柄は簡単に決められません。ただ袴田さんやHAKUTOのメンバーとは、何度も会話を交わしていて、互いの可能性に気づき始めていたんです。このようなそれまでの積み重ねが、今回、スムースにパートナーシップを締結するのにたいへん役に立ったと思います。

──去年12月、HAKUTOは月までの相乗り契約をしていたアメリカのチーム「Astrobotic」がGoogle Lunar Xprizeをリタイヤしたため、月への移動手段を失いました。HAKUTOの関係者も、当時を振り返って自分たちも岐路に立たされていたと証言しています。かたやTeamIndusは、どのような立場だったのでしょうか?

Ramasubban:私たちはランダー(着陸機)を保有しているのですが、必要機材以外に、そこに約15圓諒資を運べるスペースを確保しようと努めてきました。というのも、レース後には宇宙空間におけるビジネスを本格的に見据えていて、袴田さんやHAKUTOが月面データの収集や宇宙資源開発事業をビジネスとして構想しているように、われわれは軌道輸送事業を展開しようと考えていたからです。

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来日したTeamIndus 事業開発担当者のSridhar Ramasubban氏(左)

──今回のレースでも、すでにビジネスを考えていたということですね。
 
Ramasubban:そうです。われわれは今回のGoogle Lunar XPRIZEで、ランダーがレース以外のユースにも使えるということをアピールしたかった。言いかえれば、レースを宇宙ビジネスのデモンストレーションの場として活用することを当初は検討していたのです。

例えば、その15塋のペイロード(可搬重量)を利用して、レースとはまた異なる有意義な科学的実験を実施するとか、大学の研究をビジネスとして請け負うことなどを構想していました。HAKUTOの相乗りの話が進んだのは、ちょうどそれらのプロジェクトを検討しているタイミングだったのです。ローバーを相乗りさせるという提案を受けた時、とても面白いペイロードの使い途であり、ビジネスにもつながると思いました。

月面への着陸技術は「機密事項」

──ビジネス面からのみ判断して、今回のHAKUTOからのオファーを受諾したのですか?

Ramasubban:HAKUTOとの提携を決断したもうひとつの理由は、Google Lunar XPRIZEの趣旨にマッチしていたからです。Google Lunar XPRIZEは勝敗を競うレースではありますが、世界中の宇宙ベンチャーが協力しあう場でもあります。

日本企業が運営するチームであるHAKUTOとチーム・インダスが共同してプロジェクトを行うことで、新しい何かが生まれるのではないか。そう考えて決断しました。ほんとうに偶然の出来事が重なった結果ですが、現在ではHAKUTOと縁を結べたことを、とても幸運だと思っています。

──これまでTeamIndusは他国の企業とコラボレーションした例はありましたか?

Ramasubban:いいえ、まったくありませんでした。例えば日本のJAXA(宇宙航空開発機構)とNASA(アメリカ航空宇宙局)とか、JAXAとISRO(インド宇宙研究機関)など国家機関はこれまで協力してきていますが、民間の宇宙企業が共同でプロジェクトにのぞむということは、前例がなかったと思います。

そういう意味で言えば、われわれは非常に先駆的で、画期的なことをしているのだと思います。前人未到のプロジェクトに携わるきっかけをくれたHAKUTOには、感謝しています。

──TeamIndusのランダーは、月面への着陸の方法がたいへんユニークだと聞いています。詳細について、聞かせていただけませんか?

Ramasubban:ランダーの着陸方法は機密事項なので、詳しくは話すことはできません。ただ、月面への着陸はとても複雑で難しい技術のひとつだということを理解いただけたらと思います。大きな宇宙開発企業や政府関連機構でも着陸を成功させるのは至難の技です。われわれとしては、最善を尽くすのみ。今後半年もすれば、われわれのランダーの性能をわかっていいただけることでしょう。われわれは着陸の技術を熟知していますし、良い結果をお見せできるはずです。

──無事に月面に着陸した後には、TeamIndusとHAKUTOはレースを競うライバルにもなるかとも思います。月面を探査するローバーの開発状況はいかがですか?

Ramasubban:TeamIndusのローバーについては品質試験をほぼ終えた段階で、最終フライトモデルの製作を始めています。先日もインドにある複合施設で各種テストを行ないました。

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3年後には膨大な収益が出ている

──TeamIndusは、宇宙関連事業のエキスパートや若きエンジニアたちが集結したインドを代表する天才集団であると聞いていますが、メンバーはどんな人たちから成り立っているのですか?

Ramasubban:TeamIndusは2011年に設立されました。当初、20人ほどのメンバーでプロジェクトをスタートさせましたが、現在では120人近くのチームに成長しています。私たちのチーム構成はとてもユニークです。メンバーのうち、25人ほどは宇宙開発に関する経験が40年以上あるベテラン。そこには、インドでトップクラスの能力を誇る元ISRO職員も含まれています。

宇宙開発の経験年数の合計だけみれば、1000年近い集団なんです。最近では、世界各国の大学を卒業したばかりの優秀なエンジニアも何人か入りました。決断も行動も早い。非常にダイナミックなチームです。

──インド国内ではTeamIndusのブロジェクトはどのように評価されていますか?

Ramasubban:ナレンドラ・モディ首相や州政府関係者は、TeamIndusを「インドにおける宇宙産業の新しいパイオニア企業」と紹介してくれています。おかげで、世界各国で活動する機会も増えています。最近では宇宙事業のみならず、インドのイノベーションを代表するチームとしても注目されています。

──Google Lunar XPRIZE以後のTeamIndusのめざす宇宙ビジネスは?

Ramasubban:今後はより本格的に宇宙関連ビジネスを展開していきたいと考えています。すでに今回のレースでもこのビジネスはスタートしていますが、宇宙船のペイロードの販売が中心になると考えています。すでにTeamIndusの宇宙ビジネスは収益が出始めていて、3年後には膨大な利益を得るまでに成長しているはずです。

*Forbes JAPANは、月面探査用ロボットの打ち上げまで、HAKUTOプロジェクトの動きを追いかけていく。
au HAKUTO MOON CHALLENGE 公式サイト>>