―美人じゃないのに、なぜかモテる。

あなたの周りに少なからず、そういう女性はいないだろうか?

引き立て役だと思って連れて行った食事会で、全てを持って行かれる。他の女性がいないかのように、彼女の周りだけ盛り上がる。

「クラスで3番目に可愛い」と言われる化粧品会社勤務・莉乃(27)も、まさにそんな女だった。

健太郎は莉乃に、陽菜と2人で会っていたのには事情があったこと、そして莉乃を1度ふったのは海外留学をするためであったことを伝え、改めて告白した。遠距離恋愛からスタートした2人の、2年後とは。




健太郎が留学に行ってから、2年後


春と夏の間の、湿り気を帯びた6月はじめの夕方。

昼過ぎに雨はやんでいたが、アスファルトに溶けこんだ生温かな匂いは、まだ残っている。莉乃は、雨が残していくこの優しい気配が、とても好きだ。

軽やかな足取りで、『オーボンヴュータン』の扉を開けて、店内を見渡す。

「…もう、来てたんだ」

嬉しそうにつぶやく莉乃の視線の先には、コーヒーをゆっくりと味わうように飲む健太郎の姿があった。莉乃の声に健太郎がふり向き、ほほ笑む。

「一便、早められたんだ」

健太郎の柔らかい声に、莉乃は喉の奥がじんとするような、たまらない気持ちになる。

おかえりなさい、と、ひと言だけ発するのがやっとだった。

健太郎を待つ2年間は、終わってみるとあっという間だった気がするが、やはり、とてもとても長かった。

「日本での再会の場所をここにできて、よかったよ」

健太郎は嬉しそうにそう言って、店内を見渡す。

ここは、莉乃が2年前に健太郎に渡した手紙の中で一緒に行こうと誘っていた、あのお店だ。結局、記念イベントが終わった後は留学準備が忙しくて時間が取れず、行けずじまいになっていた。

「2年越しに約束を果たすというのも、なんだかすてきだよね」

莉乃も、照れたように笑いながら、オーダーをしてくるね、と席を立つ。


健太郎はついに、莉乃に告げる。


この2年間、寂しく辛いときも多々あったが、それでも別れるという選択肢を一度も持つことはなく、2人は日本とニューヨークの遠距離で関係を育んできた。

その間、健太郎が日本に帰ってくることがなかったため、4ヶ月〜半年に1度ほどの頻度で、莉乃は健太郎に会いにニューヨークに行った。

そんなわずかな逢瀬でも2人がつながり続けられたのは、健太郎が毎日欠かさず送ってくれるメッセージやスカイプのおかげだった、と莉乃は思う。デザインの勉強に没頭しながらも、健太郎は莉乃への想いや関係をないがしろにすることは、1日もなかった。

「お待たせ」

オーダーを終え、莉乃は健太郎の向かいの席につく。

「改めて、ただいま」

健太郎は優しく言い、柔らかな表情で莉乃を見つめる。

ふと、ひざの上に置いていた莉乃の手に、何かが触れた。

健太郎がテーブルの下で、そっと莉乃の手を握ってきたのだ。

「この2年間、待っていてくれて本当にありがとう」

健太郎はそう言い、ほんのわずかだけ指に力をこめて、続けた。

「莉乃、結婚しよう」




健太郎にプロポーズされた後の、莉乃の胸の内とは?


4ヶ月前。そんな風に、健太郎さんからプロポーズをされました。

返事はもちろん、「よろしくお願いします」と答えました。

西日がきれいな夕暮れに、2人がずっと行きたかったカフェでプロポーズを受けるというのは、本当に感慨深いものがありました。あのときの、穏やかで幸せな気持ちはたぶん、一生忘れないと思います。

その後、1ヶ月も経たないうちに、大分のわたしの実家に挨拶に行きました。

両親も兄も、「莉乃にはもったいないひとだ!」とすごく喜んでくれていて。「ちょっと!」なんてつっこみを入れながらも、結婚を家族に受け入れてもらえるって幸せなことだな…と、しみじみ感動してしまいました。

東京の、健太郎さんのご両親にもお会いしました。上品な佇まいのお二人でとても緊張しましたが、優しくわたしを受け入れてくださったので、ほっとしています。

入籍は、来月です。11月22日、ベタですがいい夫婦の日にしようかな…と。

挙式は、来年の春に挙げる予定です。ウェディングドレスはもちろん楽しみですけど、健太郎さん、タキシードが似合うだろうな…と今からドキドキしています。

29歳と32歳が夫婦になるのに、あまりに初々しすぎる…とあきれられるかもしれませんが、つきあってすぐに遠距離恋愛になったカップルなんて、そんなものじゃないでしょうか。

あ、そうだ。他の皆さんはその後どうしているかも、お伝えしておきますね。


陽菜、真央、それぞれの今は…?


目の前の気持ちを大切にしたものが、幸せをつかむ。


陽菜さんは、会社の後輩とつきあっています。イベントの打ち上げのときに、陽菜さんの手を引っぱって連れて行った、あの男の子。

あのときすでに、「この2人、つきあいそうだな」って何となく思いました。結構当たるんですよね、わたしの勘。

もうつきあって、1年半くらいかな?順調みたいです。

真央さんによれば、陽菜さんはもともと年上が好みらしいんですが、意外に波長が合っているみたい。

真央さんはなんと、平岡さんと最近婚約したんですよ!

1年ほど前に、「つきあうことになったの」って報告を受けたときには、あまりにびっくりして、「えー!」と大声を出してしまいました。

あの2人はお食事会でも気のおけない友達という感じだったから、まさかそんなことになっているなんて…。濁してあまり教えてくれなかったんですが、一体、きっかけは何だったんだろう?

いずれにしろ、みんな楽しく過ごしています。2年前のイベント準備の時期には本当に色々あったので、感慨深いですね(笑)。

なぜ、自分が健太郎さんに選ばれたと思うか、ですか?

うーん…男のひとに好かれる理由は、以前偉そうに「聞き上手」とか「余裕があること」とか言ったこともありましたけど…(笑)

「素直に好意を出すこと」。好かれる1番の理由って、結局これにつきるのかな、って思っています。

恋愛って、大人になるほど、自分をどうよく見せようとか、相手の気をどう引こうとか、かけ引きばかりが増えてしまうじゃないですか。告白は男からさせる…とか。

健太郎さんに対して、そういうプライドをあまり考えずにわたしから「好き」っていう気持ちをストレートに伝えたことが、心に響いてくれたのかなと思います。

モテてきた男性って、女性のかけ引き的なアプローチは飽きるほど見ていますから。意外とそういう真っ直ぐな気持ちこそ、刺さったりするんですよ。

…健太郎さんがいなかった2年間、他の男性と全くデートしたりはしなかったのか、って?

それは、秘密です。

―Fin.