<クアラルンプール国際空港を舞台にした金正男暗殺事件。一時はマレーシアと北朝鮮の間も緊張したが、結局、北朝鮮国籍の容疑者や重要参考人は無事帰国。実行犯として残った女性2人の裁判で幕引きになるのか>

北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏の暗殺事件で実行犯としてマレーシアで逮捕、殺人罪で起訴されているインドネシア国籍とベトナム国籍の2人の女性に対する裁判手続きが5月30日にマレーシアの首都クアラルンプール近郊のセパン地方裁判所で開かれた。

両被告が裁判所に出廷するのはこの日が3回目となるが、入廷の様子が報道陣に公開されるなどその姿が確認されたのは逮捕後初めて。両被告は不測の事態に備えて防弾チョッキを着用、周囲を武装した警察官に囲まれて伏し目がちに裁判所に入る様子が撮影された。

同日の裁判手続きでは、殺人容疑の起訴で有罪判決が下された場合には最高刑が死刑という重罪に当たることから、今後の裁判が地裁ではなく上位の高等裁判所に移管して行われることが決定された。初公判の日程などは1カ月以内に追って決定、通知されるという。

同日の手続きでは両被告は発言の機会がなかったが、弁護側からは検察側が証拠開示に非協力的で公正な裁判に影響を与えるとの不満が表明された。検察側は事件当時の防犯カメラの映像などを証拠として保有しているが、弁護側に開示していないと弁護団は主張した。これに対し検察側は裁判に向けて必要に応じて証拠は開示していく予定で、問題とは考えていないとの姿勢を示した。

2被告はスケープゴート?

起訴状などによると事件は今年2月13日、クアラルンプール国際空港で2人の女性被告が金正男氏の顔面に猛毒神経剤「VXガス」を塗り付けて殺害した。2人の実行犯のほかに北朝鮮国籍の男性、在クアラルンプール北朝鮮大使館員など8人が事件への関与を疑われたもののいずれも証拠不十分などで起訴されずに北朝鮮に全員が帰国したとされている。

金正男暗殺事件に関して逮捕、起訴されたのは結局実行犯の女性2人だけという異例の捜査経過をたどり、2人の裁判が間もなく本格的に始まることとなった。

2被告はこれまで金正男氏の顔面に液体物を塗り付けたことは認めているが、あくまで「日本のテレビのいたずら番組への出演と思っていた」「致命的な毒物とは知らされていなかった」などとして殺意を完全に否定している。しかし、検察側は事前に北朝鮮国籍の男性から手順の説明を受け、空港内で練習をしていたことや、実行直後にトイレで手を念入りに洗っていたことから顔に塗り付けた液体の正体も把握していたなどとした「殺意はあった」と認定、殺人罪での起訴に踏み切った。

インドネシア国籍のシティ・アイシャ被告(25)と暗殺事件に関するインドネシア国内での報道は、逮捕時の「アイシャは国際的陰謀の犠牲者」「アイシャを救済せよ」という同情的でセンセーショナルな論調からは時間の経過とともに沈静化し、現在では事実を淡々と伝える姿勢に変わってきている。

大塚智彦(PanAsiaNews)