「ひよっこ」54話、みね子がクリームソーダを飲んでない

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連続テレビ小説「ひよっこ」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第9週「小さな星の、小さな光」第54回 6月3日(土)放送より。 
脚本:岡田惠和 演出:田中正


54話はこんな話


昭和40年12月22日、工場は空っぽになり、みね子(有村架純)たちは、乙女寮での最後の時間を過ごす。

クリームソーダ卒業?


みね子と時子(佐久間由衣)と三男(泉澤祐希)が喫茶店で語らっている。
怒涛の53話を経て、徐々に「ひよっこ」土曜日名物になりかかっている、ちょっと特別なゆったりした時間を描く回。
三男と時子はクリームソーダだが、みね子はレモンスカッシュ。もうクリームソーダ(正義)を卒業したってことなのか。それとも、クリームソーダを飲むとまだ胸がきゅっとなるからだろうか。
みね子の服もレモンイエローだった。

正月は帰らないという話を、三男にするみね子と時子。
みね子は、再就職が決まったとはいえ、まだ不安なので、心配させられないから帰らないと言う。
それを、変装して聞き耳立てている、米屋の娘(伊藤沙莉)。
米屋の人間関係の面倒臭さに悩む三男に、女子ふたりは、その娘は、三男に惚れているんじゃないの、跡継ぎに婿養子にしたいんじゃないの、と囃し立てる。
「農家の三男坊から婿養子って日陰過ぎだろ。もっと日の当たる人生を歩みたいよ」
時子が有名女優になって、三男がその夫になれる日は来るだろうか・・・。

みんな去ってゆく


乙女寮の、みね子たちの部屋は「こすもす」という名前だった。
部屋を片付けながら、舟を漕いでる澄子(松本穂香)の場面のあと、
うとうとしてる愛子(和久井映見)の場面に切り替わる。
自分でぶつけて痛いよーって誰にともなく怒る「コントみたいな」「可愛い」(by増田明美によるナレーション)愛子。
こういう人いるなあ・・・。

和夫(陰山泰)は 別れが苦手と、ひとりでそっと去って行く。
「小林旭の映画気取りですね」(増田明美によるナレーション)
小林旭は“ギターを持った渡り鳥”で、和夫はアコーディオン。

残った、みね子と澄子と愛子がとんかつ(愛子の好物)を食べていると、誰かがやって来る・・・。
で、新展開の10週に続く! いろいろありそうで、楽しみです!

「ひよっこ」の特別な時間


脚本家の岡田惠和は、拙著「みんなの朝ドラ」の中のインタビューで、「朝ドラはごく普通の人間の生活という、地味な素材が長く書ける」と語り、10分くらい、登場人物たちがしゃべっているだけの場面でも許容されるという話をしている。
実際、1話分稲刈りしていたり、10分くらい女子会トークしていたり、取り立てて何も起こらない回がある。それを話が進まないと考える人もいる。
“話が進む”とはどういうことなのか。1話の間に、事件が起こって、それを解決することや、病気が発覚し、手術して助かったり、亡くなったりすることか、人に恋して成就もしくは失恋することか。
喫茶店でだらだら会話していたり、部屋の片付けをしながら、居眠りしている子がいたり、残りの会計を片付けながら居眠りしていたりすることは決して話が進んでないわけではない。時間はちゃんと動いている。そして、少しずつ、人の心も動いている。この積み重ねが、物語(人生)になる。
こういった何気ない時間を描くことが、一時期、演劇で注目されたことがあった。00年代のことだ。そこで、
ただだらだら登場人物がしゃべっているだけで一本の芝居を作って台頭してきたひとりに、向田邦子賞を受賞している前田司郎がいる。


テレビドラマや映画が、そういった新しい才能を起用するようになっていく一方で、手っ取り早く、劇的なイベントがどんどん起こって、何も考えずに消費できる物語も増えている。
てっとり早くイベントが起こるドラマに慣れた目には、「ひよっこ」は無駄な時間に見えることもあるだろう。
限られた時間のなかで、バイキング方式に、美味しいものをちょっとずつ、かいつまんで観たいという要求もまちがってはいない。
だが、ひとつのメニューをゆっくり、時間をかけて味わうこと(すずふり亭のビーフコロッケのような)が、実はとても豊かな時間を作り出す。「ひよっこ」は、何もないように見える日常の会話にも物語がたくさんあることを描いているのだ。
(木俣冬/「みんなの朝ドラ」発売中)