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ケータイ西遊記 -第14回- インドネシア/ジャカルタ編

携帯電話研究家・山根康宏が、世界各地でお宝ケータイに出会うまでの七転八倒デジタル放浪記。

「山根康宏のケータイ西遊記」連載記事一覧

【ジャカルタで気になったケータイ】



BlackBerry8830 World Edition

販売価格(当時):約6000円(70万ルピア)

本機は5年前の製品だが、中古品がインドネシアに大量流入、新品ボディーに交換して再販されて人気だった。

隠れたモバイル大国

ジャカルタのスマホ事情



人口2億5千万のインドネシアは世界でも有数のモバイル大国だ。数多くの地元メーカーが低価格なスマートフォンを販売しており、フェイスブックなどSNSサービスの利用者も多い。東南アジアだからIT関連の普及は遅れていると思いきや、都市の街中を歩いてみれば街ゆく人は皆スマートフォンを持っているのだ。

中でも首都ジャカルタは、インドネシア国内の他の都市よりもスマートフォンの普及が早かった。しかも人々が持っていたのは世界中のビジネスパーソンが愛用していたあのブラックベリーだった。今から4~5年前ですら、ジャカルタ市内のショッピングモールに行ってみると、建物の入り口に立つ警備員や掃除のおばちゃんまで、誰もがブラックベリーを持っていたほどである。

筆者も何度かジャカルタを訪れているが、とあるレストランで食事をとっていたところ、その場にいた客のほぼ全員がブラックベリーを使っていて驚いたことがある。ここまで普及した理由は、ブラックベリーのメッセージサービスが格安だったことに加え、先進国でお役御免になった中古ブラックベリーが輸入され格安で販売されていたからなのだ。

先進国ではiPhoneなどがどんどん売れて、ブラックベリーから乗り換える客が急増。買い替えで下取りされたブラックベリー端末がアジアへと輸出されていったというわけだ。おさがり端末とはいえ、先進国のスマートフォン普及がジャカルタの人たちに恩恵を与えていたというわけである。

数度目のジャカルタ訪問時となった2012年は、そのブラックベリーブームが絶好調だったころで、バスターミナルでタバコをくわえながら出発待ちをしているドライバーたち全員が、ブラックベリーを持ってメッセージのやり取りをしながら歓談している姿を見て驚いたものだ。そしてそれを見ながら「ここには何かあるな」と直感が走ったのである。



▲経済成長が著しいジャカルタ。

職人芸の初老の男

ニヤリ街中へと消えた



ジャカルタにはITCビルと呼ばれるショッピングモールがいくつかある。元はパソコンやコピーCDなどが売られていたが、今はフロアのほとんどが携帯電話やスマートフォンを扱う店で埋め尽くされている。大手メーカーの製品を扱う店や中古店、そしてちょっと怪しげな中国製の無名ブランド携帯電話屋など、筆者のようなマニアにとっては1日中いても全く飽きない店だらけなのである。



▲ITCビルの中にはスマホ屋が多数はいっている。

当時はそれらの店の半分がブラックベリー関連の店で、修理店のみならず改造専門店があり、どこも来客で賑わっていた。そんな改造専門店の1つの前を通りがかってみると、女性客がたくさん集まっていた。これは何か安いものでも売っているのか、あるいは店員がイケメンなのかと思って近寄ってみると、カウンター越しに座っていたのは初老の男性だった。

分厚い眼鏡をかけ難しそうな表情をして、右手にはピンセット、左手の指先には宝石のようなものを乗せ、それを接着剤に付けては何かに貼り付けている。よくみるとブラックベリーの本体を装飾しているのだ。ブラックベリーの本体の色は黒。普通の女性が持つにはちょっと色気の無いデザインをしている。ジャカルタの女性たちは、そんなブラックベリーをアクセサリのようにして持ち運びたいのだろう。

自分の端末に装飾をしてもらっている女性は、色を変えてとか、そのキーボードにはこれ、といった具合にいろいろと注文をしている。男性はそれらを黙って聞きながら黙々と仕事をしている。おそらくブラックベリーの改造をやる前は、街中の時計店で修理を長年やっていたのかもしれない。改造も終わり女性が感謝の言葉を述べながらお金を払っても、男性の表情は変わることは無かった。

こんなところにも職人さんはいるものだなあと思い、モールの中をじっくりと回った後、早めの夕食を終えてから再び店の前を通ってみた。先ほどまでいた多数の客は全ていなくなっていた。みんな会社へと戻っていったのだろう。ちょっと気になって再び店のそばまで近づくと、その男性は眼鏡をはずしてこちらを見つめ、ニヤっと笑った。その表情は職人や紳士な老人のものではなかった。

そしてまだ夕方だというのに口笛を吹きながら店のシャッターを下ろし、片手には自分で装飾したブラックベリーを持ちながら足取り軽く店を後にしていった。もしやお客の女性とこれから一緒に夕飯を共にするのだろうか? いくつになっても若さを忘れない改造師がいるかぎり、ジャカルタのITCビルの活況が衰えることはないだろう。

文/山根康宏

やまねやすひろ/香港在住の携帯電話研究家・ジャーナリスト。世界の携帯電話事情を追い求め、1年の約半分を海外で過ごす。携帯電話1400台、SIMカード500枚以上を所有するコレクターでもある。

※『デジモノステーション』2017年7月号より抜粋