警察内部で自らの正義を通そうと悪戦苦闘する主人公たちの姿を描く日曜劇場『小さな巨人』。準強姦の疑惑がある首相と仲良しのジャーナリストが、証拠も揃って成田空港で逮捕されるはずだったのに、警察上層部から指示があって急遽逮捕は取りやめ、捜査員の前を悠々と通り過ぎていった……という報道を目にして、『小さな巨人』を思い出した人もいるんじゃないだろうか。現実もドラマもすっきり解決してほしいものだ。


山田逮捕! でも、すぐに釈放!?


「香坂さんに早く報告すればよかった……」と子どものような泣き言を言って逮捕されてしまった山田(岡田将生)。「やまだ! やまだ! や〜まだ!」と『ドカベン』の岩鬼のように叫ぶ香坂(長谷川博己)。果たして山田の運命は……!? と誰もが思っていた第7話。ところが、冒頭であっさり容疑が晴れてしまった! じゃ、どうして現場から逃げたんだよ、山田……。

容疑者として指名手配されたのは早明学園の経理課長・横沢(井上芳雄)だった。学園の金を横領した横沢が内偵捜査をしていた江口(ユースケ・サンタマリア)を殺したというのが捜査一課の見解。ところが、山田は横沢と江口が協力して学園の不正を暴こうとしていたと香坂に語っていた。

「山田が殺害容疑で捕まる! 潔白を信じる香坂は独自に捜査を進めるが、またも捜査一課長に阻まれる!!」というTBSによるあらすじはちょっと違うと思う。筆者はこういうストーリーが展開するとすっかり思い込んでいたので、冒頭の展開を理解するのにちょっと時間がかかってしまった。高いところから鉄骨を落として殺害するという方法もかなり無理がある。

香坂へのお中元を欠かさない山田


香坂は山田から詳しい話を聞きたいが、山田は勾留されたまま。山田は早く香坂さんに会いたい! と留置場でプンスカしてる。そこで香坂は、山田の父で内閣官房副長官の山田勲(高橋英樹)に直訴するという乱暴な手段を取る。めでたく山田は釈放され、なぜ山田が江口の内偵捜査に協力していたかが明らかになる。早明学園の不正な土地取引に山田の父が関わっていたのだ!

山田の父はかつて警察庁の刑事局長を務めていた。その頃、山田の父の下で働いていたのが捜査一課長だった富永(梅沢富美男)である。富永はその後、早明学園の専務となり、山田の父は官房副長官になった。両者は不正な土地売買を介して癒着関係にあったのだ。

警察庁の刑事局長とは、全国の刑事警察(警察の犯罪の捜査を行う部門)を指導統括する役職で実際に捜査は行わない。浅見光彦シリーズの浅見光彦は刑事局長の弟だった。刑事部長と名前が似ているが、まったく違う(刑事部長は警視庁の中で捜査一課長より上。『警視庁捜査一課長』の本田博太郎、『相棒』の片桐竜次がこの役職)。

帰宅した香坂は、妻・美沙(市川実日子)から4万円相当の高級松阪牛がお中元で届いたと知らされる。送り主は……山田! 山田が早く拘置所から出たがっていたのは、香坂にお中元を贈るためだった? このシーンはコミカルなトーンなので、たぶん伏線じゃないんだろう。山田は香坂が好きすぎる……。

想像を映像にしちゃうのってどうなの?


それにしても早明学園の事件は複雑だ。ただし、森友学園問題のように忖度があったから複雑になっているのではなく、脚本の手際があまりよろしくないから複雑になっているのだ。香坂がしかめ面で「情報を整理します」と言っていたが、視聴者も同じ気分だ。

まず、江口に学園を内偵させたのは、富永専務だった。表向きは横沢の不正(実はでっち上げ)を暴くためだ。しかし、江口は富永専務のでっち上げを知ったので消されることになる。富永専務は横沢に罪をかぶせるため、ロッカールームで横沢の毛髪を採取して、江口殺害現場に置いておいたという。「富永専務は捜査一課長になる前、鑑識課長を務めていた」という香坂のセリフには思わず笑ってしまった。都合良すぎ! 鑑識課長が現場にペンを落として放置しておくなよ! 

『小さな巨人』は香坂が想像すると、その想像をそのまま映像で示すという演出を何度か行っている。第5話では三笠署長(春風亭昇太)がUSBメモリのカケラを拾って立ち去るシーンを香坂たちが想像し、実際にその通りだった。今回は富永専務が横沢の毛髪を採取するシーンを香坂たちが想像して、実際に映像で描かれる。これがややこしい。あくまで想像だから事実かどうかはわからない。だが、映像で描かれると事実のように見えてしまう。後から「そんなことやってない」と本人(三笠や富永)が主張しても、視聴者は映像を見てしまっているから「お前やってたじゃん」と思う。だが、それはやっぱり香坂たちの想像でしかないので、どこかで立証されないと腑に落ちないのだ。『小さな巨人』は脚本の穴が取りざたされるが、このような演出もややこしさを増している気がする。

200という数字は100の2倍だぞ?


証拠を集めた香坂は、小野田義信捜査一課長(香川照之)に頭を下げて、富永専務の任意同行の許可を求める。

「香坂、今お前が話したことはすべて仮説だろ? それでも仮説は仮説に過ぎん。アリバイがないというだけで、富永専務がやったという証拠にはならない」

という小野田の言い分はもっともだ。それでも香坂は富永専務が嘘をついていることを確信している。

「たしかに100%の証拠はありません。しかし、200%の覚悟はあります!」

『キン肉マン』で言うところの「ことばの意味はわからんがとにかくすごい自信だ!」という感じに近い。それに対する小野田のセリフも最高だった。

「200%の覚悟があるとはよく言った。知ってると思うが、200という数字は100の2倍だぞ? わかっているか?」

その昔、プロレスラーの小島聡が「1+1は2じゃないぞ。オレたちは1+1で200だ。10倍だぞ10倍」と言い放ったことを思い出してしまう名セリフだ。香川照之はよくぞこのセリフを真面目な顔で言い切った。さすが名優。

「では、その200だという根拠は?」
「私の勘です(ドーン)」


納得した小野田は自ら富永専務の元に出向いて任意同行を求める。しかし、香坂たちは柳沢監察官(手塚とおる)による情報で、江口に内偵を命じていたことが小野田自身であったことを知る。そして、任意同行した富永専務はすぐに釈放されてしまった! 小野田と富永は通じていたのだ! ……って、まぁ、そうだよね。小野田と富永専務は以前から師弟関係にあったわけだし。

ん? でも、だったらどうして江口に内偵を命じていたんだ? この謎はこの先、明らかになると思うのだが、香坂たちがあっさりスルーした(釈放のショックのほうが大きかった)ので視聴者にはモヤモヤが残ってしまうことになった。これは今明かさなくても良かったような気がする……。それはともかく、事件の核心にいるのは、やっぱり小野田だ。

「癒着などというのはあって当たり前のことだ。真面目に政治を通そうとして膨大な時間と労力を無駄にするくらいなら、金で一瞬で解決したほうがいいこともある。癒着のどこが悪い? 時には必要なことだ。警察組織の中には、皆が知っていて知らないふりをしていることがたくさんある。だから組織が成り立っている。絶対に触れてはならんものがここにはあるんだ」

これは小野田が香坂と山田に言って聞かせたセリフ。小野田は具体的な悪事を働いていない(とりあえず今のところは)。だが、香坂たちが正義を貫き通そうとすると、必ず立ちはだかる。それは小野田自身というより、小野田の周囲にある空気とか常識のようなもの。政治家、官僚、企業トップ、教育機関、警察にまでそれははびこっている。香坂たちの敵は、目に見えないものなのだ。

今夜放送の第8話では、小野田そのものに焦点が当たる気配。細かい話はいいから、香坂と小野田がどう決着をつけるのかが見たい!

(大山くまお イラスト/Morimori no moRi