初めてのグローブ装着。基本的な用具はジムで貸し出している。

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格闘技をはじめる女性が増えている。美容やストレス発散など目的はさまざまだが、次第に強くなることそのものへの快感に目覚めていくのだとか。今回は、キックとパンチというシンプルな技術を武器にハードな試合が展開されるキックボクシングジムに体験入門。格闘技ど素人の女性ライターが、体を張ってレポートする。

■女30ン才 いざ、初めての格闘技入門へ

「格闘技やってみない?」。担当編集者からお声がかかったとき、「ワ、ワタシが!?」と躊躇したものの、ふたつ返事で承諾してしまった。どうやらここ数年、女性の間で格闘技がはやっているらしい。よく考えてみれば、格闘技なんて30ン年間、まったく関わらずに生きてきた世界だ……。しかも私は痛みと忍耐、争いが苦手。

痛かったらいやだな……。そんな思いが真っ先に頭に浮かんできた。痛い思いをするくらいなら、負けてもいいからすぐに逃げたい……。そんな思いがバレたのか、担当者が言う。「シェイプアップになるし、ストレス発散にもなるよ」。なるほど。確かに最近、身体のラインが“ぼんやり”してきた。見えない将来に悶々とする気持ちもスカッとするかもしれない。この機に、新しい世界をのぞいてみるのもいいのかも。コワさ半分、好奇心半分で、「格闘技入門」の扉を開いた。

さて、第1回は「キックボクシング」。この格闘技、実は日本が発祥の地なのだそうだ。1966年にボクサーでプロモーターの野口修氏が、タイ王国のムエタイに対抗するため、ムエタイをベースにルールを再編成して考案した。主体はパンチとキックの攻撃で、練習ではレッグプロテクター(試合ではつけない)とグローブをつける。投げ技、寝技、関節技は禁止。ここ数年、ハリウッド女優やモデルが始めたことで、女性の間でブームに火がついたという。

さっそく千代田線・乃木坂駅から徒歩1分の「ヨハンボススポーツスクール」へ向かった。ここは、アマチュアボクシングで数々の優秀な成績を収め、K-1を主戦場に戦ってきた田島剛さんと、同じくK-1で世界ヘビー級チャンピオンと戦った経験もある弟の洋さんが主宰するジム。14年前にオープンした当初から「ガールズキック」というクラスがあり、女性キックボクシングのパイオニア的存在だ。

今回は金曜夜の「ベーシックキックボクシングクラス」を無料体験させてもらうことになった。このクラスでは、キックやパンチの基本の打ち方、構えや足さばきを一から教えてもらえるという。

さて、少々不安気味にジムの扉を開けると……。「バシッ! ビシッ! バシッッ……!」パンチの決まる大きな音が響いていた。こ、これベーシッククラスじゃないですよね? 思わずそうたずねると、「あ、彼女はキックボクシングのチャンピオンですよ」とにこやかに田島さんが答えた。

なんと、そこで練習していたのは、美人プロレスラーで総合格闘家でもある朱里選手だった。ナットク。一般向けのクラスの合間に、練習をしに来ているのだという。惚れ惚れするキックとパンチ。強い美女、めちゃくちゃかっこいいじゃないか! 一気にキックボクシングのイメージが「痛そう」から「かっこいい」にチェンジした。

練習の時間が近づくと、会社帰りの30代から40代の男女が徐々に集まってきた。男女比は7対3といったところか。通常ここでは1クラスに15人から20人ほどの生徒がいるそうだ。

■立ち方、足さばき、パンチを学ぶ

まずはストレッチ。ああ、なんだか身体を伸ばすのって久しぶり。軽くランニングをしていると、徐々に汗をかいてきた。身体が温まったら、レッグプロテクターとグローブを装着する。がぜん気分がアガる。

田島剛さんの指導で立ち方、足さばき、パンチを学んでいく。説明を聞いて、すぐに隣の人と実践。2人組になって、相手との距離や間合いを意識しながら技をしかけていった。とにかく展開が早い。私の相手は日本チャンピオンの朱里さんがしてくれた(畏れ多い)。

できていてもいなくても、とにかく見よう見まねで一通りやってみた。ついていくのにかなり必死だ。「ストレート」(まっすぐにパンチを打つ)、「フック」(横からパンチを打つ)、「アッパー」(下からパンチを打つ)……。言われた通り、どんどんやる。よくわからないが、打ちまくる。一歩下がって、パンチ。一歩出て、パンチ。次、キック。バシッ。「お、上手いですね!」と朱里さんが盛り上げてくれる(畏れ多い)。

一通り技を学んだ後は、すべての技を使った「ミット打ち」。先生がランダムに指示する技を続けて打っていく。「フック」と言われて、アッパーを打ちそうになったり、「アッパー」と言われて、「え、なんだっけそれ」と一瞬考えたり。必死である。でも、続けてパンチやキックを打っていると、だんだん“できている”錯覚に陥ってくるもの。リング上にいる気分になってきた。なんだか、爽快……! 最後にパンチの連打をして、今日のレッスンを終えた(実はここで腕がつりそうになった)。あっという間の1時間だった。

「このクラスでは基本を学びますが、初心者だけでなく上級者も出ます。というのも、ちゃんとしたパンチを打てるようになるには、10年、15年の歳月が必要なんです。プロでも常に基本に戻らないと強くなれないんですね。また、ちょっと戦いたくなったら、実践的なスパーリングクラスにも参加できますよ」(田島剛さん)

■思い切り蹴るのって意外と楽しいかも!

ちなみに、ジムに来る女性は30代から40代が中心で、スポーツ自体初めてという人もいるそう。主な目的はストレス解消とダイエット、護身術習得の人が多い。「きちんと正しい身体の動かし方をすれば、きれいに筋肉が付き、ムキムキにもなりません」というから、女性にはうれしい。

今回体験して何よりも楽しかったのは、「普段やってはいけないとされている行為」をルールにのっとって思う存分できたということかもしれない。帰り際、人を思いっきりキックしたのは何年ぶりだったっけか……とふと考えてしまった。もしや小学生のとき、掃除をサボる男子に蹴りを入れたのが最後?

普段やらない行為を思いっきりできる爽快感は新しい感覚だった。しかも、キックボクシングは筋トレと違い、護身術という有益な技術まで身に付く。強くなるって楽しい。パンチとキックができる女ってかっこいい。ちょっと目覚めちゃった……かも。

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【教室情報】
ヨハンボススポーツスクール
東京都港区赤坂8丁目11-19 エクレール乃木坂B1F 
TEL:03-5771-1299
http://www.vosgym.jp/

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宇佐美里圭(うさみ・りか)
1979年、東京都生まれ。ライター、編集者。東京外国語大学スペイン語学科卒。在学中、ペルーにて旅行会社勤務、バルセロナ・ポンペウファブラ大学写真専攻修了。中南米音楽誌、「週刊朝日」編集部、「アサヒカメラ」編集部などで働く。朝日新聞デジタルで、「島めぐり」、「おいしいゲストハウス」、「東京の外国ごはん」、「ワインとごはんの方程式」等を連載中。ウートピにてフォトエッセイ連載「Viva Photodays!」を執筆。旅とワインが好き。心はラテン、働き方はまだ日本人

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(宇佐美 里圭)