どうすれば自転車による事故は減少するのか?(depositphotos.com)

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 自転車の事故を防ぐため警視庁と東京都などは、車道に自転車が走る場所や方向を示す「自転車ナビマーク」の整備をすすめています。2020年の東京オリンピック/パラリンピックまでに、都内全域に広げたいという方針です。

 自転車ナビマークには2つの狙いがあります。1つは、自転車が歩行者を巻き込む事故を防ぐため、本来の通行場所である「車道を走る」よう促すこと。もう1つは、自転車が自動車と同じ進行方向で走る「左側通行」を促すもの。

 自転車利用者は、自らが自動車(四輪車)と衝突する危険があるだけでなく、歩行者などを傷つける恐れもあります。交通社会参加者としての自覚を持つことはもちろん、「自転車ナビマーク」の存在を知っておくことが重要でしょう。

自転車の死亡事故を分析してわかったこと

 どのようにすれば自転車の死亡事故を削減できるか科学的に検討するため、滋賀県内で発生した交通死亡事故を詳細に分析してみました。

 滋賀県の平成26(2014)年の交通事故死者(24時問以内死亡)は63人、そのうち14人が自転車乗員でした。14人のうち四輪車との衝突例は9人であり、残りの4人は用水路や側溝への転落例、1人は遮断機を越えて軌道内に侵入した例でした。

 用水路や側溝への転落例を細かく調べると、4人とも血液中からアルコールが検出されていました。すなわち、アルコールの影響で正常な運転ができなくなって転落し、頚椎や頚髄に損傷が生じたり、水路に落ちて溺れたりしていました。しかも、この4人はすべて57歳以上でした。

 また、平成26年に発生した、自転車が関与する交通事故について、都道府県別の傾向を調べました。

 第1当事者では、発生件数が最も多いのは東京都(2403件)で、以下、兵庫県(2361件)、愛知県(1947件)。第2当事者では、大阪府が1万2638件と最も多く、以下、東京都(1万975件)、愛知県(7857件)と続きました。

 このように、事故は都市部に多いことが分かりますので、特に都市部の人は十分な自覚を持って自転車を利用してください。

半数近くが左右確認をせずに交差点に進入

 前述のように、第1当事者と第2当事者を合わせた事故件数は、東京都で最も多いことが分かりました。そこで、自転車利用者の実態を調査するため、東京都某市においてビデオカメラで自転車の走行状態を確認しました。

 商業店舗と住宅地が混在する地域の信号機のない交差点で、朝の通勤時問帯に自転車乗員がどのような行動をとるか確認したのです。

 その結果、合計250台の平均走行速度は時速11km。この交差点への進入時に左右確認した人は52%に過ぎず、半数近くの人は左右確認をせずに交差点に進入していました。しかも、左右確認をしない自転車は、平均よりも高速で走行していました。

 そこで平成23年に警察庁は「良好な自転車交通秩序の実現のための総合対策の推進について」(警察庁丙交企発第85号等)を発し、自転車は原則として車道を走ることが周知されました。

 本当ならば自転車利用者の行動変容を促すべきだったのでしょうが、それを待つ余裕もなかったのです。
ドライブ・レコーダーを解析すると......

 次に自転車と四輪車との事故について調べてみました。

 タクシーに装着されたドライブ・レコーダーのデータを元に、自転車乗員が事故および危うく事故になりそうになった「ヒヤリ・ハット例」のデータを解析しました。その結果、ヒヤリ・ハット例の6割以上が「単路を車両が直進し、その前方を自転車が横断する」という状況でした。

 自転車が見通しの良い所から飛び出してきた例では、自転車までの平均距離は19.5mで、その時の車両の平均速度は時速24.7km。見通しが悪く物陰から自転車が飛び出してきた場合、自転車までの平均距離は10.5mで、車両の平均速度は時速21.1kmでした。

 これらの例では、車両の運転者がプロのタクシー運転手であったため、直ちにブレーキをかけて事故を回避することができました。これが一般の運転者で、しかも高齢者であったならば、回避できないかもしれません。

 自転車が道路を横断する時に、しっかり左右確認を行えば、このような事態が予防できるのですが、前述のように多くの自転車利用者は左右確認をしていません。それではどのようにして事故を防げばよいのでしょうか。

自動技術に頼ることは有効か

 車両走行中に、自転車が前方に飛び出してきたことを検知したら、ただちにブレーキをかける――。これが有用な事故予防策と考えられます。

 最近、アクティブセーフティと呼ばれる自動ブレーキの技術に期待が寄せられます。しかし、自転車は歩行者とは異なった挙動をとり、自転車自体も高速で運転されている場合があります。

 そのため、歩行者と同じようなシステムでは事故を防げません。まだ、実用化できる有用な予防システムはないといえます。

 先に紹介した自転車乗員の死亡例でも、飲酒後の自転車利用、一時停止や左右確認の無視などが原因となっている例が見られます。やはり、最も求められていることは、自転車利用者に対して、交通社会参加者としての自覚を持ってもらうことでしょう。


連載「死の真実が"生"を処方する」バックナンバー

一杉正仁(ひとすぎ・まさひと)

滋賀医科大学社会医学講座(法医学)教授、京都府立医科大学客員教授、東京都市大学客員教授。厚生労働省死体解剖資格認定医、日本法医学会指導医・認定医、専門は外因死の予防医学、交通外傷分析、血栓症突然死の病態解析。東京慈恵会医科大学卒業後、内科医として研修。東京慈恵会医科大学大学院医学研究科博士課程(社会医学系法医学)を修了。獨協医科大学法医学講座准教授などを経て現職。1999〜2014年、警視庁嘱託警察医、栃木県警察本部嘱託警察医として、数多くの司法解剖や死因究明に携わる。日本交通科学学会(副会長)、日本法医学会、日本犯罪学会(ともに評議員)、日本バイオレオロジー学会(理事)、日本医学英語教育学会(副理事長)など。

一杉正仁(ひとすぎ・まさひと)
滋賀医科大学社会医学講座(法医学)教授、京都府立医科大学客員教授、東京都市大学客員教授。厚生労働省死体解剖資格認定医、日本法医学会指導医・認定医、専門は外因死の予防医学、交通外傷分析、血栓症突然死の病態解析。東京慈恵会医科大学卒業後、内科医として研修。東京慈恵会医科大学大学院医学研究科博士課程(社会医学系法医学)を修了。獨協医科大学法医学講座准教授などを経て現職。1999〜2014年、警視庁嘱託警察医、栃木県警察本部嘱託警察医として、数多くの司法解剖や死因究明に携わる。日本交通科学学会(副会長)、日本法医学会、日本犯罪学会(ともに評議員)、日本バイオレオロジー学会(理事)、日本医学英語教育学会(副理事長)など。