「柏のプリンス」と謳われた現役時代と変わらず、爽やかな笑顔を見せてくれた酒井直樹監督。日体大柏を全国へ導けるか。写真:川端暁彦

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「強かったですよね……?」
 
 試合後、昌平高校の藤島崇之監督が念のため確認しておきたいとでも言いたげな口ぶりで、そう問いかけてきた。6月3日、埼玉スタジアム・第二グラウンドで開催された関東高校サッカー大会1回戦。優勝候補筆頭と目される昌平は、延長戦までもつれ込んだ死闘を3-2のスコアで辛くも制し、2回戦進出を決めた。

 
 これを「全国制覇を狙うチームにしては不甲斐ない試合ぶり」と評するのは的外れだろう。対戦相手の日本体育大学柏高校は、十分に「強かった」からだ。巧みにパスが繋げて、フィジカルでも戦えて、なによりチームワークを感じさせる。そういう試合内容だった。
 
 日体大柏は千葉県内では強豪校のひとつに数えられるが、県を一歩出てしまえば、そういった認識は薄いかもしれない。高校として県レベルを超えた大会での実績がそもそも乏しく、習志野や八千代といった伝統ある公立校はもちろん、何と言っても千葉の二大巨頭たる市立船橋と流経大柏のインパクトが強すぎるからだ。
 
 ただ、静かに千葉県内での足場を固めてきたチームは、今年、関東大会予選で千葉県を制覇。着実にその存在感が増しつつある。
 
 背景にあるのは柏レイソルとの提携だ。
 
 元より、U-18チームに所属する選手を広く受け入れていた縁があり、2015年から相互支援を目的とした提携契約を締結。日体大柏は、在籍するレイソルU-18の選手がサッカーに集中できるようにサポートを行なう一方で、レイソルからはコーチの派遣を受けている。さらにサッカー部の選手がレイソルU-18の練習に参加する機会を設けるなど、互いにメリットを模索しながら、スムーズな連携を実現している。今年から中学生のセレクションを合同で行なうなど、レイソルアカデミーの大枠の中で日体大柏も活動を続ける、独特のシステムなのだ。
 
 そんな仕組みの下で、昨年から日体大柏にやって来たのが元日本代表MFの酒井直樹氏である。
 
 レイソルではその涼やかな風貌と華麗なテクニックから「貴公子」「プリンス」と称され、コンサドーレ札幌で引退したあとの2004年から、レイソルアカデミーの各年代で指導をスタート。小・中学年代を主に担当してきたが、昨年から新たなトライをすることになった。ヘッドコーチとして1年間の指導を経た今年、日体大柏の監督に就任したのだ。
 
「仕事としては昨年とほとんど変わらないんですよ」と話す酒井監督だが、「でも結果の責任は僕にあるわけで、そこがずっしり重くなりました。やり甲斐もある」とも言う。前監督である片野慶輝総監督からは「遠慮せず、思いっきりやってほしい」と「監督」の肩書きを託されたそうで、その重さを感じながらの日々だ。
 日立サッカースクール(レイソルU-18の前身チーム)出身である酒井監督は、「高校サッカー」とは縁のないサッカー人生を送ってきた指導者である。ただ、だからこそ感じるものもあるようだ。
 
「日々発見があるし、僕の中にある伸びしろみたいなのが見えてきた感覚がある。サッカーのいろいろ新しいところが見えてきて、(指導者としての)引き出しが増えた実感もあるんです」
 
 たとえば、球際の戦い方がそうだと言う。
 
「これまで僕は『できるだけ当たられないようにする』サッカーをやってきました。でも、そこのボールに行くところ、当たり方の駆け引きとかにすごいこだわりがあって、これもサッカーの魅力だと思うようになりましたし、『こういう主導権の獲り方もあるんだ』と学びましたね」
 
 酒井監督が志向し、選手に課しているスタイルは、ボールを大事にしながらスペースを使っていくレイソルのそれだ。ただ、一方的にやり方を押しつけるのではなく、従来から日体大柏が持っていたベースも大事にしながら、より強いチームへと化学変化を起こせるように模索している。その成果が着実に見えたのが、関東大会千葉県予選の優勝だろう。
 
「市立船橋や流経大柏の出ていない大会と言っても、タイトルを獲ることは簡単じゃないですから。昨年から出ている選手が大半ですし、みんな同じような絵を頭の中に描いてサッカーをすることができている」
 
 チームとしての手ごたえはある。それだけに終了間際のセットプレーで敗れた関東大会初戦については「自分の責任です」と率直に認めた。事前の準備でも交代策でもコーチングでも、なにかできることがあったはず。そういう思いが湧いてくるのも、「いまは選手たちと一緒に戦っている感覚がある」からだろう。
 
 目前に迫るインターハイ予選、そして高校選手権予選に向けて、酒井監督は「足下を見つめて出直してきます」とさらなるレベルアップを誓った。
 
 どうしても二大巨頭に注目が集まる千葉県だが、若き指揮官の下で新たな芽が育ち、元より激戦区の千葉県は、さらなる大激戦区となっていきそうだ。
 
取材・文:川端暁彦(フリーライター)