眉が葛藤を物語る

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 臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になった著名人をピックアップ。記者会見などでの表情や仕草から、その人物の深層心理を推察する「今週の顔」。今回は、宮里藍選手の引退会見を分析。

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 日本女子ゴルフ界をけん引してきた宮里藍が今季限りで現役を引退すると発表した。4月の浅田真央に引き続き、国民的ヒロインの突然の引退にびっくり!である。

 本人にとって現役引退は突然ではなく、発表のタイミングがここだったということらしい。5月中旬に行われたブリジストン・レディースでは64というスコアを出し、今季は調子がいいらしいと思っていた矢先だけに、なぜ?という思いで会見を見た。

 笑顔で登場した宮里選手は、白と黒のジャケットに黒のパンツ。真央ちゃんの引退会見と同じ白と黒の組み合わせで、自分の進退に白黒をはっきりつけるという意思が感じられる。黒のインナーに白のジャケットは1枚仕立てのデザインで白が強調され、晴れやかで清々しい気持ちが強いのだろうという印象を受ける。

 引退を決意した理由は「モチベーションの維持が難しくなった」からだという。だが黒のインナーや黒のパンツは、彼女の精神力の強さや強靭さが戻ってきたことをイメージさせる。ここ数年間の不調を脱し、今シーズン、これから迎える残りの試合に向け、全力で戦おうとする強い意志や決意を感じさせるものだ。

 会見中、宮里選手もそのことに触れ、今シーズンは始めから「手応えは感じていた」と答えている。だがそれは期間限定。終りが見えていればこそのモチベーションアップであり、頑張りだと本人には十分わかっていた。

「理想とする姿はそこにはなかった」
「選手としてピークなのに、メジャー大会で勝てない」
「自分を見失った」

 顔から笑いがすっと消え、そう話した宮里選手。スランプに陥った4〜5年前からストレスを抱え始めたのだろう。いつモチベーションが上がり、自分が理想とする姿に戻れるのかわからない不安や焦り。出口が見つからないことへのいら立ち。終りが見えないことからくる精神的、身体的なストレス。この手のストレスはじわりじわりと積み重なり、気力を萎えさせ、意欲を奪っていく。

 得意なパターがイップスみたいになったと話した。クラブを手に構えると、緊張から手が震えたり、硬直したりしたのだろうが、そう話す彼女の口調は淡々としていて表情も変わらない。すでにこれは過去のこと。今はもう乗り越えているということだ。

 だが、世界ランク1位を取ったプロでさえ、コントロールできていたものがコントロールできなくなる時があるのだ。彼女はそれを「武器だったものが武器でなくなる瞬間がある」と表現したが、その時の驚きや不安はどれほどのものだったのだろう。

「やれていた練習ができなくなっていた」と言いながら微かに頭を横に振った。努力してもできなかった情けなさや悔しさがあったのだろう。初めて自分と向きあえなくなった瞬間について聞かれ、胸元を直し、左手の指で鼻先を2度触った。思い出されそうになったその時の不安から、自分の気持ちをなだめようとしたのだろうか。

 そこからの数年間、試合に向かったものの「求めている姿はそこにない」と黒い瞳が揺れることなく、まっすぐ前を向いた宮里選手。追い求めていたプロとして理想のプレー、確固たる理想の姿が、彼女の脳裏に浮かんでいたのかもしれない。

「プロである以上、結果は残したい」

 こう言いながら、宮里選手は眉間にシワを寄せた。引退ではなく、しばらく休んでまたやれば?という質問に「プロでやる以上、そこまで甘い世界ではない」と答えた時も、眉間に深くシワを寄せた。辛かろうが苦しかろうが、納得のいくプレーや結果が出せないことの方が辛い。眉間のシワは、そんな彼女の心の葛藤や苦悩を露わにしていると思う。

「プロ」という言葉は、彼女にとって特別な意味を持つものらしい。この言葉を口にする度、眉間や眉毛が微妙に動く。楽しかったり、嬉しかった話には眉毛全体が上がり、悩んだり苦しんだことについては眉頭に力が入ってから眉毛が持ち上がる。また、自分と対峙し、向きあった時のことには眉間に力が入りシワを寄せる。

 そして彼女は、「戦い続けるのは無理」と眉頭から先にピクッと眉を持ち上げながら言った。決断した時の心境は想像するしかないが、心のどこかに辛さや哀しさ、寂しさを感じたことは否めない。そんな心の奥底が透けて見えるような眉の動きなのだ。

 だが現役引退を決めたことで、宮里選手は気持ちに区切りがつき、ふっきれたのではと思う。ここまでという期間がわかると、なぜか、そこまではなんとか踏ん張ろうとする気が起きるものだ。こうなると彼女にかかるのはストレスよりも、むしろプレッシャーだ。

 人々の期待に応え成功したい、理想の自分を見せたいと思うことからくる精神的重圧がプレッシャーだと言われるが、一流のプロはプレッシャーをコントロールして、上手く利用することに長けている。彼女もここまで優勝できた要因を、自分と向きあい、自分を信じ自分をコントロールすることだと話しているだけあって、プレッシャーのコントロールは上手いはずだ。

 だからなのだろうか。今シーズンの試合について、記者から、優勝が目標かと問われると「そうです」と笑顔で力強く大きく頷いたのだ。そんな仕草や表情に期待が膨んでいく。

 藍ちゃんが優勝カップにキスする姿が、もう一度見られるはずだ。