天涯孤独の少女・澪(黒木華)が江戸で料理の腕を磨いて奮闘する土曜時代ドラマ『みをつくし料理帖』。ちょっと地味だが、ドラマ好きの間で盛り上がっている隠れた注目作だ。脚本は『ちりとてちん』『ちかえもん』の藤本有紀、演出は『平清盛』で藤本とタッグを組んだ柴田岳志が担当している。全8回。


種市(小日向文世)が営む「つる家」で料理を出すことになった澪。かつお飯の名前を変えた「はてなの飯」が評判となって店は大繁盛となる。盛岡のさわや書店が文庫本の正体を隠して「文庫X」と売り出したのとよく似ている。人は隠されているとかえって興味がそそられるものだ。

しかし、謎めいた侍、小松原(森山未來)の言葉が澪の胸に突き刺さっていた。

「お前の料理は本筋から外れている。本筋に戻れ。そして己の一番の欠点から目をそらすな」

小松原が言う“料理の本筋”とは出汁(だし)のことだった。澪が生まれ育った大坂の料理屋では昆布出汁を使っていたが、江戸の水ではうまく昆布出汁がひけない。「つる家」はもともとそば屋だったので、濃い目のかつお出汁を使っていた。澪も仕方なくかつお出汁を使っていたのだ。

江戸の出汁をよく知るために、ご寮さん(安田成美)はなけなしの金を出して江戸一番の料理店「登龍楼」の料理を味わってくるように澪を促す。みすぼらしい身なりを心配する澪に、亡き夫からもらった高価なかんざしを挿してくれた。これが後半の伏線となる。

天性の舌と努力を続ける才能を持つ少女


長屋にやってきた医師の永田源斉(永山絢斗)に、澪とご寮さんが親子ではないことと、2人が知り合った経緯が語られる。

8歳だった澪は水害によって両親を亡くしていた。孤児となった澪は空腹のあまり屋台のあなご寿司に手を出し、店主に足蹴にされているところを「天満一兆庵」の女将だったご寮さんに助けてもらったのだ。原作では非常に重く、涙なくしては読めないくだりだが、ドラマ版では澪とご寮さんの関係にスポットを当てており、悲惨さは抑えられていた。どこかのどかさを湛えた清水靖晃の音楽の効果も大きい。

澪を足蹴にしていた屋台の店主に向かってご寮さんが言うセリフ、

「料理は料理人の器量次第。お前はんの器量はようわかりました」

はこのドラマの肝になる言葉。

澪は納得のいく出汁をとるため、手本となる料理を自らの舌で味わい、知りたいことがあれば頭を下げて教えを乞う。そして試行錯誤を繰り返し続ける。澪は天性の舌を持つ少女だが、学ぶ姿勢と努力、周囲の人たちの支えに応えようとする気持ちがあって初めて、納得のいく出汁がとれるようになるのだ。

油断をすると飛び出すハゲネタ


後半では、もう一つの擬似親子、種市と澪のかかわりが語られる。愛する一人娘・つるを17の若さで失った種市は、娘の祥月命日に出会った澪を娘の生まれ変わりだと思うようになる。ただ、偶然の出会いを運命だと信じたわけではない。

「あっしは賭けてるんです。お澪坊の清い心根と、料理の才に」

ここでも語られるのは、澪の性格の部分だ。「料理人の器量」の部分である。会話の中で種市のハゲネタをいちいち絡めてくるのは藤本有紀の遊びの部分。重いエピソードの中にふわっと優しい風を送っている。

納得のいく出汁をとるために努力を続ける澪のため、ご寮さんは大事なかんざしを売って上等な昆布とかつおぶしを手に入れる。手を地面につき、種市に澪のことを頼むご寮さんは、母親以上に母親らしい。

さらに努力を重ねた結果、ついに澪は昆布とかつおの合わせ出汁を引くことができるようになる。そして合わせ出汁から作ったのが「とろとろ茶碗蒸し」だ。種市がうますぎるものを食べたときの決め台詞「いけねえよぉ」がちゃんと再現されていてうれしい。エンディングの「澪の献立帖」も、もちろん「とろとろ茶碗蒸し」の作り方だった。

本日放送の第3話は「三つ葉尽くし」。原作では「とろとろ茶碗蒸し」が原因になって澪たちは過酷な試練を味わうことになるが、果たして……?

(大山くまお)