5月27日から31日にかけて、さいたま市記念総合体育館で行なわれた「バドミントン日本ランキングサーキット大会」。男子シングルス決勝で日本代表の上田拓馬(日本ユニシス)を下した桃田賢斗(NTT東日本)は、相手のシャトルがラインを割って勝利が決まると、両手でガッツポーズをしたあとにコートへうずくまり、しばらく涙を流し続けた。


多くの注目を集めるなか、桃田賢斗は復帰戦を優勝で飾った 違法賭博行為で無期限の出場停止処分を受けてから、1年半ぶりに復帰した大会。桃田は27日の1回戦から硬い表情を崩さなかった。初戦はかつて同じNTT東日本に所属していた和田周(JTEKT)。互いに手のうちを知っている相手だが、21-7、21-8とわずか27分で決着をつけた。

 余裕のあるプレーぶりに見えたが、桃田の心の中は違った。

「名前をコールされたときはまだアップ中だったので気にならなかったですが、主審から『試合だよ』と呼ばれたときになって、自分がこれから試合をするというのが現実的になり、一気に緊張してきました。今までに感じたことがないような複雑な緊張だったし、試合でも点数的には離れていましたが、本当に最後の最後まで余裕がなく、気持ちはすごくいっぱいいっぱいでした」

 そんな緊張感は、2回戦の小野寺雅之(早稲田大)を21-14、21-12で破り、準々決勝の古賀穂(早稲田大)を21-19、21-7で下しても消えなかった。

 だが、自分の動きが速くなっていることにも気がついた。最初は以前より早くシャトルの下に身体が入って戸惑う場面もあったが、動きが速くなったことで細かいショットが少しずつコントロールできるようになったという。その要因は、謹慎中に苦手なランニングやウエイトトレーニングを積極的にやるようになったからだと桃田は考えている。

「以前はフィジカルよりも技術で勝負している自分がいたし、練習も自分の思ったままにやっていました。でも、バドミントンを続けられる環境を作ってくれた会社の人たちや、支えてくれる人、応援してくれる人たちのためにもがんばろうと思って真剣に自分と向き合ったとき、技術だけで勝負しているところが自分の弱さかなと思い、苦手なものにも取り組んでいこうと思いました」

 準決勝の相手は、元日本代表の武下利一(トナミ運輸)。第1ゲームは武下が少し引いた感じでミスをしたために、前半でしっかりリードして21-15で先取したが、第2ゲームでは5-9とリードされる展開になった。だが、そこからリズムを取り直して追いつくと、中盤からは優位に試合を進め、最後は1点差まで追いつかれたが21-19で勝利した。

「長いラリーになるのは覚悟していましたが、自分が甘い球を出すとすぐに決められるから、あと半歩、一歩足を前に出していかなければダメだと思って戦いました。前までは長いラリーになると体幹が振れて耐えられなくなっていましたが、今回はそういう場面でもしっかり足を出せた。

 勝因は18-16になったところで、今回のベストショットといえる、しっかり身体を入れてタメを作れるスマッシュを打てたところ。今まではテクニックで勝負していましたが、決めるだけではなく相手のミスを引き出すようなプレーができるようになったのはひとつの成長かなと思うし、自分の戦い方がひとつ増えたのは強みになると思う」

 対戦した武下も「桃田は動きのキレとラケットワークがすごい選手だが、スピードとスタミナ面に穴があった。だが今回は、最後までスピードが落ちなかった」と評価する。

 決勝の相手は、2014年のトマス杯(世界男子バドミントン選手権)で一緒に戦い、日本が史上初の優勝を勝ち取ったときのチームメイトの上田拓馬。第1ゲームは「自分らしい積極的なプレーができた」という桃田が序盤で大きくリードして21-13で取ったが、第2ゲームになると「1ゲーム目は簡単に負けたので、このまま負けるわけにはいかないと思い、相手の動きを見ながら反対側に球を返してタイミングをずらすようにした」という上田が21-14で奪い返した。

 そして迎えたファイナルゲームは、序盤から競り合ってお互いが主導権を握ろうとする戦いになった。13-14から桃田が3連続得点で16-14にすると、今度は上田が4連続得点で18-16と2点リードする。だが桃田は、そこから4連続得点でふたたび逆転。最後は1点差まで迫られながらも上田のミスを誘い、21-19で復帰戦の優勝を決めた。

 試合後、桃田のプレーについて敗者の上田はこう語った。

「桃田はもともとネット前がうまい選手。今回は僕もネット勝負では負けていなかったが、桃田はネット勝負にこだわるのではなく、きっちり回して甘い球を打たせようとしてきた。3ゲーム目に入ったときは、1ゲーム目や2ゲーム目より勝ちたいという気持ちが伝わってくる感じだった」

 一方、復帰戦で優勝を飾った桃田は、その想いをこう述べた。

「決勝では上田選手もいいパフォーマンスをしたので体力的にきつかったし、精神的に折れそうになるときもあった。そんなときでもコートに立たせてもらった感謝の気持ちが自分を奮い立たせ、1球1球を返す気持ちにつながったと思う。試合が終わった瞬間は、支えてくれた会社の人たちやチームメイトたちがかけてくれた何気ない言葉の数々が頭のなかに浮かんできました。優勝がうれしいというより、コートのなかでの振る舞いや、相手への感謝の気持ちなどを見てもらえたのがうれしい」

 試合中の桃田の表情は、最後まで緊張に包まれた硬いものだった。以前はスーパーシリーズで戦うときも、もう少し余裕をもって戦えていたという。だが今回は、1回戦から決勝まで緊張しきった戦いを続けたことで、疲労感は今まで以上に大きかったと振り返る。

 そんな桃田を見て、日本代表チームの朴柱泰(パク・ジュボン)監督はこう評価した。

「一番心配していたのはフィジカル面だが、身体がちょっと細くなった感じで動きは軽いイメージがしたし、しっかり練習してきていると感じた。技術面では、彼はもともとネット前のうまい選手でそこは世界のトップレベルだが、今回はネット勝負ができていなかった。1年間、試合に出ていなかったことで感覚が戻っていないこともあるだろうが、勝ちたいという気持ちが強くあるので、攻めるときにはまだ余裕がなく、硬さもあって単調になっている部分も感じた」

 このあと桃田は、7月の全日本実業団に出場後、特例の自費参加でカナダオープンとUSオープンに出場する予定だ。朴監督は「ナショナルBが出場する予定なので、桃田の状況に関してはコーチングスタッフから情報をもらう」と話すが、「今はポイントが0点でランキングがないので、ランキング上位の選手が出てきて出場枠の空きがなくなれば桃田は出場できない状態」ともいう。

 日本バドミントン協会のルールでは、国際大会に出場するためにはナショナルチーム入りすることが必要条件だが、その選考は11月末から行なわれる全日本総合選手権後になる。桃田に必要なのは、そこまでにしっかりと実績を積み上げ、もし国際大会に出られるようならそこでキッチリとポイントを獲得し、世界ランキングを得ることだ。

 かつては身につけていたアクセサリーも、桃田は自らの意思で外した。復帰戦では柔らかなラケットワークなど彼らしさを見せていたが、まだまだ全体的には硬さもあった。桃田特有のしなやかで奔放なプレースタイルを取り戻せるかどうかは、これからの戦いにかかっている。

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