香川真司【写真:Getty Images】

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 香川真司が苦しく長かったシーズンを終えて日本代表の欧州組合宿に合流した。来季はいよいよW杯イヤーに突入する。代表でもクラブでも新たな競争に臨まなければならない日本の“10番”は、ブラジルでの雪辱を晴らすため、待ち受ける戦いに向けて決意を新たにする。(取材:文:元川悦子)

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香川、歓喜忘れ日本代表に集中

 6月の日本代表2連戦(7日=シリア戦、13日=イラク戦)に向け、5月28日から千葉県内で行われている欧州組合宿。6日目の2日は前夜に宿舎入りした香川真司(ドルトムント)と長友佑都(インテル)の2人が午前練習から参加した。

 午後には右足首痛で別メニュー調整の続いていた乾貴士(エイバル)、サポートメンバーの宇佐美貴史(アウグスブルク)を含む15人全員が揃い、チームとして本格的な臨戦態勢に入った。

 午前練習での香川と長友はは、21分間走やインターバルトレーニング、体幹強化を1時間半にわたってこなした。午後は他のメンバーとともにボールコントロールや狭いエリアでの7対7、ミニゴールを使った1対1、シュートの組み立て確認、ハーフコートでの7対7+GKなどを精力的に消化した。

 27日のDFBポカール決勝・フランクフルト戦後の祝勝会から数日しか経っていないせいか、香川は少しミスが多く、初招集の加藤恒平(ベロエ・スタラ・ザゴラ)にボールを奪われるシーンも見られた。

「決勝はすごく嬉しかった。でも自分の中では切り替わってるんで、もうあの話は忘れたいっていうか、次に向かって進まないといけないんで。全く別物ですし、次のためにしっかりといい準備をしていきたい」と香川自身も今一度、気持ちを引き締めるいいきっかけになった様子だ。

 今季のドルトムントでは最後のポカール決勝こそフル出場してタイトル獲得に直接的貢献を見せたが、ブンデスリーガは21試合出場1得点。UEFAチャンピオンズリーグ(CL)も10試合中出場が5試合、先発4試合と、シーズンを通してコンスタントな活躍を見せたとは言い切れないところがあった。

 バイエルン・ミュンヘン、ライプツィヒなど強豪相手のビッグマッチで起用されないケースも目立ち、就任2年目のトーマス・トゥヘル監督からの信頼の薄さを本人もひしひしと感じたはず。ポジションもトップ下かと思いきや、インサイドハーフやボランチまで任されるなど、まさに便利屋的な扱いを受けた。

 そんな状況ゆえに、一時は「トゥヘルが去るか、香川が去るか。そのどちらしか状況は改善されない」という見方をする現地メディアもあり、香川自身も難しい立場に置かれていたのは確かだろう。

「いい2年間だった」トゥヘル体制での経験

 そのトゥヘル監督が契約を1年残して退任することが今週、正式に決定した。香川にとっては大きなニュースに違いない。

「自分の口から監督に対しての総括は難しいんですけど、まあチームが決めたことなんで。僕は一緒にやって学ぶものはたくさんあったし、逆に悔しい部分もたくさんあった。それは自分のこれからのサッカー人生においていい経験になると思ってるし、何よりいろんな監督といろんなトップレベルの場所でやることはプラスしかない。そういう意味ではいい2年間だったと思ってます」と複雑な感情を全て封印して大人の対応を見せた。

 後任はかつてボルシアMGを指揮して古豪復活の立役者となったルシアン・ファブレ監督(現ニース)が最有力と見られるが、誰が来るにせよ、来季は再びゼロからの競争を強いられる。

 加えて言うと、来季は2018年ロシアW杯を直後に控えた重要な1年となる。マンチェスター・ユナイテッドに在籍した4年前はサー・アレックス・ファーガソンからデビッド・モイーズへ監督が交代したことで立場が危うくなり、出場機会が激減。シーズン通算得点ゼロという最悪の状態で2014年ブラジルW杯に突入して、全くいいところを出せなかった。

 来季も同じ轍を踏んでしまっては4年前の苦い経験が無駄になってしまう。出場機会と得点数を伸ばすべく、自らを進化させていくことが肝要だ。

 まずは今回の日本代表2連戦でその布石を打ちたい。これまでトップ下のポジション争いを演じてきた清武弘嗣(C大阪)が落選し、倉田秋(G大阪)が新たな競争相手に浮上するなど、エースナンバー10を取り巻く環境にも変化が生じている。

「キヨやモリゲ(森重真人=FC東京)くんが入れ替わる形になりましたけど、みんな危機感を持ってやらなきゃいけない。日本代表は結果を残しているやつが出る場所。それが監督のメッセージだと思います」と香川自身も神妙な面持ちで言う。

W杯イヤーへ。待ち受ける2つの新たな競争

 新たなライバル・倉田は、3月のUAE戦(アルアイン)で後半途中に香川との交代でピッチに立った。持ち前のアグレッシブさを前面に押し出し、ボスニア人指揮官にポジティブな印象を残すことに成功している。とはいえ、国際経験や実績はまだまだ乏しいところがあり、日本の命運を左右する重要なイラク戦で先発抜擢というわけにはいかない。やはりここは香川がしっかりとゴールに直結する役割を果たし、存在感を示す必要がある。

「僕は明らかにイラク戦に向けて準備したいし、勝っていくことが大事だと思っている。イラク戦はアウェイでピッチも悪いし、暑さもあって、すごくタフなゲームが待っている。ピッチコンディションは行ってみないと分からないところはあるけど、1本のミスでやられる世界。そこは1人ひとりがより厳しく詰めていけばいいんじゃないか」と10番を背負う28歳のアタッカーは細部ににこだわり、緻密なプレーを心がけていく。

 3月のタイ戦(埼玉)では今回の最終予選で初めてとなる得点を叩き出しており、シリア戦、イラク戦でも連発が期待される香川は、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が就任してから2015年9月のロシアW杯アジア2次予選のカンボジア戦(埼玉)とアフガニスタン戦(テヘラン)、あるいは2016年3月の同シリア戦(埼玉)と6月のブルガリア戦(豊田)と連続ゴールを決めるケースが続いている。

 今回もその流れを持続し、シリア戦、イラク戦と得点を奪い続けていけば、ドルトムント側の評価も自ずと上がる。そのまま来季に突入して再ブレイクしてくれれば、ロシアの大舞台へ踏み出そうとしている日本代表にとっても理想的なシナリオだ。香川には今回の2連戦を特に大事にしてほしい。

「前回のイラク戦(2016年10月=埼玉)は出番なしに終わりましたけど、別に苦くはないですし、チームが勝ったんで問題はないと思ってます。その試合を振り返りながら、次のイラク戦に向けてどう勝つかというのをみんなで徹底していければいい」と香川は全てを前向きにつなげようとしている。

 こうした姿勢は、何か起きるたびに精神的なダメージを受けて落ち込んでいた以前の彼とは明らかに異なる。たくましさとタフさを身に着けた日本代表の攻撃の要に、チームを力強くけん引していってもらいたいものだ。

(取材・文:元川悦子)

text by 元川悦子