京都で育った私は、京の町並みや風情に温かさを感じる。新幹線が東山トンネルから出た途端に広がる瓦屋根の民家の風景に、いつ行ってもやすらぎを憶える。

写真拡大

京都で育った私は、京の町並みや風情に温かさを感じる。新幹線が東山トンネルから出た途端に広がる瓦屋根の民家の風景に、いつ行ってもやすらぎを憶える。京都はお寺が多い。そのためか四季を愛でることがたやすくできるのが都会人にとってはうらやましい限りである。

一月は初詣、二月は節分、天神の梅花祭、三月は涅槃会、四月は都をどり、五月は葵祭、鴨川、七月は祇園祭、八月は大文字、十月は時代祭、十二月は顔見世で始まり、最後は三十一日のお寺参りで新しい年を迎える。まさに文化の凝縮した町なのである。

中でも葵祭りは中心的な存在。日本で最古の祭りで、飛鳥時代の舒明天皇の御代に始まった。今年も、かげろうたつ都大路を行く牛車の音ものどかに華やかな行粧が練った。斎王さまをはじめ女人列の優雅さは王朝の再現として注目された。

今年は下鴨神社の式年遷宮の年でもある。伊勢神宮や出雲大社と同様の伝統行事で興味深い。下鴨神社の式年遷宮は21年に一度。今回は30億円が投じられ、うち8億円が経済界を中心とした寄付で賄われる。

私にとって顔見世は毎年の恒例行事である。ただ顔見せも昨今の歌舞伎ブームで役者が東西に分かれ、昔のように勢ぞろいする豪華さが無くなってしまっているのは残念である。招きの名前が二段というのもこの結果なのであろう。また昔のマス席は小さくて四人座れるぐらいがちようどの広さで、午前の部が九時半ごろから始まって夕方五時ぐらいまで興行があったという。それぞれ家紋を付けたお重のお弁当を作り、女性たちはわざわざ晴着をつくり顔見世に奮発したそうである。

役者が出演後、先斗町・祇園に繰り出し、釀し出す華やいだ世界も京都ならではである。芸舞妓による踊りの公演「都をどり」などの会場となっている祇園甲部歌舞練場の本館が、昨年10月の公演「温習会」の終了後耐震調査などのために一時休館しているのは寂しい限り。数年かけて建物を調べたり、必要な改修をしたりするというが、今春の「都をどり」は京都造形芸術大(左京区)の京都芸術劇場春秋座で行ったが、祇園から離れた場所なので、稽古や公演には不便をかこつという。

ところが、四条大橋東詰の日本最古の劇場、南座が2015年から耐震診断が行われたが、改正耐震改修促進法の耐震基準を満たしていないことが判明し、昨年2月から一時休館となっているのは残念なことである。
耐震診断の結果なのでいたしかたないが、京都だけでなく日本の歌舞伎はじめ伝統芸能の中心的な存在だけに、耐震補強工事を行った上で、一刻も早い再開を望みたい。

四季折々におりなす文化をいつまでも抱擁する京都であってほしいものである。

◆立石信雄(たていし・のぶお) 1936年大阪府生まれ。1959年同志社大学卒業後、立石電機販売に入社。1962年米国コロンビア大学大学院に留学。1965年立石電機(現オムロン)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。日本経団連・国際労働委員会委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。南開大学、中山大学、復旦大学、上海交通大学各顧問教授、北京大学日本研究センター、華南大学日本研究所各顧問。