64歳にして世界中から引っ張りだこの女優イザベル・ユペール

カンヌの陽光にはしゃぎまくり、せっかくヨーロッパ来たんだから生肉だろ!と開幕を前にタルタルステーキを平らげ、さっそくお腹を壊した私です。脳内では、東京にいた頃のクールな仕事人の私が入れてくる、「アホか…アホか…アホか…」という山彦のような突っ込みが響きますが、めげずに生ガキも頂いて3日目。私はカンヌのビーチで最もクラス感のあるマジェスティック・ホテルの7階、「ケリング・スイート」という部屋にいました。

本日のミッションはカンヌ映画祭での目的のひとつ、ファッションコングロマリット「Kering」が主催する「Woman in Motion」というトークイベントにお邪魔すること。今日は今年のメインアイコン、フランスの大女優イザベル・ユペールさんが登壇です。彼女は64歳にしてそのキャリアが先細るどころか、世界中に広がっていくばかり!(今年のカンヌ出品作にも出演作が2本!)その活躍の理由はなぜかといえば、彼女が全く恐れ知らずの女優だから。以前ご紹介した『ピアニスト』では、生まれて初めて男(20歳も年下のイケメン)に迫られ大迷走する"40歳処女"を演じていましたが、8月に日本公開される『エル』ではなんとレイプされるアラ還女性を演じ世界を震撼させています。

さてそんなわけで始まったインタビュー。司会者は「あなたが演じる女性に共通するのは自由であること。もっと言えばクレイジーな役ばっかりですよね」と、すごいことを聞きます。ユペール先生のお答えはこんな感じ。

ひとつかふたつを除けば、私の演じている役が自由だとは思いません。自由の戦いの生き残り、強く見せているけれど、弱点を克服できない女性です。彼女たちは力強く前を向き、侵しがたい何かを持ちながら、同時に本質的には弱い女性なんです。(中略)いくつかのキャラクターは変態じみて見えるかもしれません。でも彼女たちがある意味において愛されるのは、わかりやすく表現されてはいないものの、弱く壊れやすい女性だと認識され、理解されるからだと思います。思うに彼女たちは、自分の自由を脅かされ、自分の領域から脱出を試みる女性、「犠牲者」という状況から逃げようとしているんです。

男を議論に巻き込むには、私たちの金を見せてやるのよ

そもそも「Woman in Motion」って何さという話に触れておきましょう。カンヌ映画祭とともに開催されるこのイベント、「女子は映画界でもっと評価されてもいいはず!」という思いから3年前に始まったものです。一昨年「白すぎるオスカー」の流れで、ハリウッドでは女子も地位が低すぎ……という事実がクローズアップされましたが、それはフランスの映画界でも同じこと。製作本数における女性監督の割合は、2012年には25%だったのに、2015年には14%にまで減少しているんだとか。女性の社会進出!とか言われますが、進んでいるようで意外とそうでもないんですね……。

そんなわけで立ち上がった「Kering」が開催するのがこのイベント。映画界で活躍する女性たちを招き、その生き方や考え方などを聞き、意識改革や連帯につなげようというものなのですが、この裏にはある女傑の存在が。それが映画『フリーダ』でオスカー主演女優賞にノミネートされたこともある女優サルマ・ハエックです。実は彼女、「Kering」のCEO、フランソワ=アンリ・ピノーの奥さんなんですね〜。ということでパネルに毎年登場する彼女、その言葉はめちゃめちゃパワフルなものでした。

悲しいことには、男より女が金を生み出せるのは、ファッションとポルノだけ。こうした種の映画製作においては、私たちはビッグスターなの。だって性的な存在として価値があるから。そこには、「私たちが何者か」に対する無知な見方しかない。彼らに本当のところを理解させるのはすごく難しいことよ。だって私たちは悪循環の中にあるから。女性は声を上げる十分な機会を与えられていないし、自分たちが何者で、何を求めていて、何を見たいのか、表現したことがないのよ。(中略)でも忘れてはいけないのは、今や巨大な経済力を持つ頭のいいX世代の女性が存在すること。これまでとは違う。私たちは大きな成功を手に入れ、自分のお金を持ってるし、強力な消費者なの。(中略)だから彼らを議論に巻き込むために、財力を見せてやるのよ。

「Kering」のディナー会場に現れたイザベル・ユペール(左)とサルマ・ハエック(右)

彼女はメキシコ出身で、さらにラティーノとアラブ系のハーフ、そりゃ美しくもなるわ!という民族的出自があるのですが、それゆえにハリウッドではより強い差別も感じてきたのかもしれません。いやでもその存在感はとにかく圧倒的で、一緒に参加したイケメン俳優マチアス・スーナルツは完全にたじたじ(笑)。でも美と財力と兼ね備えたこういう人が頑張ってくれたら、女子としてはこれほど心強いことはありません。

ちなみに今年の映画祭では、ロビン・ライト・ペン、クリステン・スチュアート、そして御年80歳の名女優、ヴァネッサ・レッドグレープも、監督として短編映画を発表しました。世代を超えて、女子たち、チャレンジし続けています。

そして、やっぱり最後はユペール先生。「女優として先細ってもおかしくない年齢に活躍し続けるための、心の持ちようを教えてください」という質問に、彼女は軽やかなしたたかさで、こう答えたのでした。

「その質問には、20年後に戻ってきたら、その時にお答えしましょう」