大前氏がM&Aでハマる典型パターンを解説

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 海外M&Aは高度なマネジメントやノウハウが必要だが、とくに日本企業がよく失敗するのが、アメリカなどの投資銀行を絡ませたケースである。東芝は買収したアメリカの原発会社ウェスチングハウス(WH)の経営破綻によって2017年3月期決算の赤字が9500億円に膨らんだ。

 LIXILは、ドイツの水栓金具最大手グローエを買収した際に同社の子会社として一緒に傘下に入った中国企業ジョウユウの破産に伴い最大662億円の損失が生じた。経営コンサルタントの大前研一氏が、M&Aに失敗した事例でよくみられる諸悪の根源、投資銀行の巧妙な手口について解説する。

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 私の印象では、投資銀行が仲介する海外M&Aの成功確率は5%以下である。つまり、95%は手を出さないほうがよい案件なのだ。にもかかわらず、多くの日本企業が投資銀行のM&A話にひっかかる。なぜか?

 たとえばアメリカ市場に本格参入を考えている日本企業があるとすると、投資銀行から「アメリカには御社にとって目の上のたんこぶの強力な競合相手がいますが、我々の情報では、その会社の株主が売ってもいいと言っているんですよ」と誘いの手が伸びてくる。日本企業の経営陣は、業界で憧れの対象だった欧米の大企業が買えるのか、と浮き足だつ。

 あとは羽田空港からプライベートジェット機でアメリカに連れて行かれ、現地ではストレッチリムジンが迎えにきて、豪華なディナーで歓待される。帰る頃には仮契約の書類にサイン……という塩梅だ。投資銀行の手口は十中八九、このパターンである。そんなVIP待遇を経験したことがない日本企業のサラリーマン社長は、これにコロッと騙されてしまうのだ。

 しかも、多くの場合、相手企業の経営者と話してみると、こちらの考えをよく理解している、気に入ったので引き続き彼に経営を任せよう──となる。いわゆる“ゴールデン・カフリンクス(金のカフスボタン)”と呼ばれるもので、買収の際に、たとえば現経営陣は2年間クビにできない、クビにする時は巨額の違約金を払わねばならないというような身分保証契約を結ぶことを言う。

 これが大きな問題で、蓋を開けてみたら経営者はサボるし、社員は不満だらけ、というケースばかりなのだ。

 そもそも、その経営者が本当に優秀だったら、会社が売りに出るわけがないのである。しかし、日本側の社長は自分が続投を頼んだ手前、社員の経営者批判に耳を傾けようとしない。投資銀行に助けを求めても、彼らのビジネスは“焼き畑農業”のようなものなので、M&Aの成功報酬をもらったら後は知らん顔で、次の森を焼きにかかっている。日本側の社長はなすすべがなくなってしまうわけだ。

 M&Aでは、デューデリジェンス(事前に投資対象企業の財務状況や収益性などを精査して資産価値を査定すること)が重要とされる。だが、日本企業はたいがいデューデリが甘くなるか、子会社・孫会社にまでは及んでいない。東芝やLIXILなどの失敗も、それが命取りになった。

※週刊ポスト2017年6月9日号