by Karl-Ludwig Poggemann

遺伝子(ゲノム)編集技術「CRISPR-Cas9」は、生物学を大きく変える力を持った技術として数年前から注目を集めていて、うまく活用することで遺伝性疾患の安全な治療が期待されていますが、対象部位から外れたところまで作用を及ぼす「オフターゲット効果」の存在が知られています。対策の1つとして、アルゴリズムによってオフターゲット効果が作用する領域の予測が行われているのですが、アルゴリズムの予測した領域外にも変化が起きることが指摘されています。

Unexpected mutations after CRISPR-Cas9 editing in vivo : Nature Methods : Nature Research

https://www.nature.com/nmeth/journal/v14/n6/full/nmeth.4293.html



CRISPR Gene Editing Can Cause Hundreds of Unintended Mutations - Columbia University Medical Center

http://newsroom.cumc.columbia.edu/blog/2017/05/30/crispr-gene-editing-can-cause-hundreds-of-unintended-mutations/

この研究はコロンビア大学医療センターのWen-Hsuan Wu氏とスタンフォード大学のKellie A Schaefer氏らによって行われたもの。「CRISPR」は「ZFN」「TALEN」などと並ぶゲノム編集技術の1つで、標的となる遺伝子を容易に変更できたり、複数遺伝子をターゲットにできるなど精度が高く、また従来よりも必要時間が著しく短縮されることから、広く用いられています。

遺伝子編集技術「CRISPR」とは何かがわかるムービー、そして人類の未来はどうなるのか? - GIGAZINE



しかし、標的とする配列以外のゲノム領域に、意図しない突然変異が導入される「オフターゲット効果」が重要課題となっています。対策として、オフターゲット効果が最小のCas9酵素が作られたり、オフターゲット効果の起きる領域を予測するアルゴリズムが作られたりしています。

CRISPRは現在、中国で臨床試験が行われており、2018年からはアメリカでも臨床試験が行われることになっています。しかし、オフターゲット効果の予測は「シャーレの上」ではうまくいっていても、生きた動物でオフターゲット効果を確認するのに全ゲノムシーケンシングが用いられていないのではないかというのが研究チームの指摘です。

研究チームによると、CRISPRでハツカネズミの失明が治った事例において、1500を超えるヌクレオチドの変化や100カ所を超える削除・挿入が、オフターゲット効果の予測アルゴリズムが予測しなかった場所で発生したとのこと。

ただし、論文の共同執筆者で眼科のVinit Mahajan准教授は、こうした新たな治療法には潜在的な副作用があるものだと理解を示した上で、「そのことを我々は知っておく必要がある」と提言しました。研究チームとしては、この論文はCRISPRが危険だと警告するものなのではなく、オフターゲット効果の予測において全ゲノムシーケンシングが用いられるようになり、また、さらなる安全・正確な異なるゲノム編集の方法が検討されることへの助けとなることを願ったものだとのことです。