いいものを見せてもらった。試合後の乱闘騒ぎではない。

 たしかに試合終盤と終了後に起きたプロレスのような出来事が後味を悪くしたことは間違いなく、結果的に韓国チームの蛮行がクローズアップされる試合となってしまった。


決勝弾を決めた森脇良太は涙を浮かべながら勝利を喜んだ しかし、本来語られるべきは、ピッチ上で表現された浦和レッズのパフォーマンスだろう。それほどまでに浦和の選手たちは、素晴らしい戦いを披露した。

 AFCチャンピオンズリーグ(ACL)ラウンド16の第2戦。済州ユナイテッドFCのホームで行なわれた第1戦を0-2で落としていた浦和にとって、この試合には段階的な3つのテーマが存在していた。「最低でも2点を奪うこと」「1点も与えないこと」、そして「勝負を決する3点目を奪うこと」。結果的に120分の時間を費やしたものの、浦和は課せられたすべての難題を見事に攻略したのだ。

 ひとつ目のテーマは比較的たやすくクリアできた。立ち上がりから積極性を示すと、18分に左サイドからのFKをFW興梠慎三が頭で合わせて先制。さらに34分には興梠のパスに抜け出したFW李忠成が角度のないところから決めて、前半のうちにトータルスコアをタイに戻すことに成功した。

 ただし浦和は、ただやみくもに攻めればいい状況ではなかった。相手にアウェーゴールを与えてしまえば、その時点で試合は終わってしまいかねない。得点は必要だが、1点でも与えてはいけない。そんなぎりぎりの状況下で、浦和はこの試合を戦っていたのだ。

 それでも浦和が攻勢を保てたのには、ふたつの要因があった。ひとつは徹底したリスクマネジメントだ。

 第1戦の戦いを踏まえても、済州がカウンターに特長のあるチームであることは認識していた。いかにカウンターを発動させないか――。そのためには、無駄なパスミスを減らす必要があった。取った手段はロングフィード。本来浦和は最終ラインからのつなぎに定評のあるチームだが、この日はその選択肢をなるべく排除していた。3バックの中央を担うDF遠藤航は言う。

「くさびをカットされてのカウンターを警戒していました。だからグラウンダーで入れるよりも、前線の動き出しに合わせて裏に長いボールを入れて、セカンドボールを拾う形を狙いました」

 中盤での無駄なボールロストの危険性を減らし、攻撃のスタートポジションを高い位置に設定。相手を後方に押し込むことで、カウンターを封じたのだ。

 そしてもうひとつは、攻から守への切り替えだ。これは前線の選手の功績だろう。

「カウンターだけはやらせたくなかった。(ボールを)取られた奴が取り返すくらいの気持ちでいこうと。最終的にはファウルで止めてもいいと思っていた」

 興梠が振り返ったように、奪われた後のファーストディフェンスの早さが、相手の特長を打ち消していた。なかでも、もっともカウンターを浴びる危険性が高いのはCKの場面。こぼれ球を拾われて速攻を浴びるケースはよく見られるが、この日の浦和はこの場面でも抜かりがなかった。

 象徴的だったのは後半立ち上がりのMF駒井善成のプレーだろう。こぼれ球を拾い、ドリブルで持ち上がろうとした相手に対し、逆サイドから猛然とダッシュし、鋭いタックルをお見舞いする。抜け出されていれば危機にさらされる状況だっただけに、駒井の隠れたファインプレーだった。

 もうひとつ付け加えるとすれば、経験によって育(はぐく)まれたメンタル面になるかもしれない。DF槙野智章は同じラウンド16で敗れた昨年のACL、そしてJリーグチャンピオンシップの例を持ち出し、持論を語った。

「僕らはホーム&アウェーの難しさを知っていた。1戦目で勝ったチームのほうが、第2戦目は難しくなる。僕らは失うものがなかったから、思い切っていくことができた」

 前述のふたつの試合では、ともに浦和は第1戦をモノにしながらも、第2戦で耐えきれず、敗北を味わっている。つまり、追われる側の難しさを理解しているからこそ、精神的に優位に立てたのだ。

 浦和にとって計算外だったのは、相手に退場者が出たことだろう。81分に済州のDFチョ・ヨンヒョンが警告2枚で退場に。これにより、済州は勝ち越し点を奪うことをあきらめ、完全にPK戦狙いに切り替えたのだ。

 人数をかけて後方を固める相手に対し、浦和は「勝負を決する3点目を奪う」という最後のミッションを、なかなかクリアできないでいた。

 それでも、この日の浦和はどこまでも冷静だった。司令塔のMF柏木陽介は、終盤の戦いをこう回顧する。

「延長で1点獲れればいいなと考えていた。80分くらいからは、延長も含めた40分という考え方で試合をしていたので、そういう試合のコントロールの仕方ができた」

 焦って3点目を狙い、カウンターの餌食になってしまえば、元も子もない。延長に入れば、アウェーゴール・ルールが適用されなくなるということも計算に入れたという。もちろんPK戦になれば何が起こるかわからないため、点を獲る必要があったことには変わりはないが、焦(じ)れずに、粘り強く得点機を探り、その時を待ち続けた。

 そして迎えた114分、FW高木俊幸のクロスをDF森脇良太が合わせ、決勝ゴールをマーク。人種差別発言疑惑で騒がせていた男が禊(みそぎ)のゴールを決めるとは、いささか出来すぎのドラマだったかもしれない。しかしそのシナリオは、少しでも破綻があれば、決してハッピーエンドとは成り得なかっただろう。

 120分間にわたり、緻密にプランを遂行しながら勇敢に戦い抜いた浦和の選手たちには、ひじ打ちではなく、心からの拍手を送りたい。

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