「女子差別撤廃委員会」も国連所属の機関ではない YONHAP NEWS/AFLO

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 日本人は「国連」という言葉に弱い。世界をとりまとめる“権威”と思い込み、精神的にひれ伏してしまう者も少なくない。そんな日本人の心理を突いた“情報操作”が再び起こった。

 5月12日、国連の人権条約に基づく「拷問禁止委員会」が日韓の慰安婦合意(2015年12月28日)について、「被害者への補償や名誉回復、再発防止策が十分とはいえない」として、見直しを勧告する報告書を発表した。日本の主要メディアはこれを次々に報じた。

「慰安婦合意 国連委見直し勧告 韓国 10億円拠出触れず」(産経新聞5月14日付朝刊)

「国連委、日韓の慰安婦合意見直し勧告=『補償、名誉回復が不十分』」(時事通信5月13日配信)

「慰安婦巡る日韓合意、見直し勧告 国連拷問禁止委 政府、韓国の対応注視」(読売新聞5月13日付夕刊)

 まるで、国連が見直しを勧告したかのようだが、事情は相当に異なる。実は、この「拷問禁止委員会」は国連に属す機関ではないのだ。日本報道検証機構代表で弁護士の楊井人文氏はこう指摘する。

「拷問禁止委員会は、1984年に国連総会で採択された拷問禁止条約に基づいて設置された委員会で、10名の独立専門家で構成されます。

 委員は条約加盟国が任命し(日本は1999年に条約に加入)、国連から任命されているわけではなく、国連に属する機関ではない。委員会の見解は国連から独立した専門家のものであって、国連を代表するものでありません」

 だが、前述のように、主だったメディアは同委員会をあたかも国連内部の組織だと誤解を招くような表現で報じており、その見解が国連を代表するものだとミスリードしかねない。

 現に、潘基文・前国連事務総長が日韓合意直後に「歓迎する」と高く評価していたにもかかわらず、この勧告を受けて、韓国国内では“国連のお墨付きを得た”とばかりに日韓合意の再交渉を正当化するような論調が出始めている。ソウル聯合ニュースは「韓国外交部の当局者」の話として、勧告を「留意」しており、内容について関係官庁と検討中だと伝えた。

 日韓合意については、2016年3月にも「女子差別撤廃委員会」が「被害者を中心に据えたアプローチを採用していない」と批判したが、この「女子差別撤廃委員会」も国連に属す機関ではない。1979年に採択された女子差別撤廃条約に基づき、条約締結国が選出した委員で構成される。つまり、今回とまったく同じ構図だ。

 ちなみに、この委員会は2016年の「最終見解」の原案では、男系男子の皇族のみに皇位継承権があるのは女性への差別だとして「皇室典範」の見直しを求めていたことでも有名だ(日本政府の抗議で最終見解では削除)。

 これら「人権条約機関」の勧告や見解は、独立した専門家の意見だと冷静に捉える必要があるが、なかなかそうなっていない。前出の楊井氏はその背景に“国連信仰”があると指摘する。

「『国連の勧告だから真摯に受け止めるべきだ』と国連の権威を笠に着る者と、『偏った勧告を出すような国連はけしからんから、負担金を削減すべきだ』と国連を批判する者と、双方が“国連という大きな存在”というイメージを利用している。“国連信仰”と言っても過言ではない。

 今回の勧告は、国連の一機関が出した見解ではなく、締結国への法的拘束力もないので、冷静に受け止めるべきです。ただ、日本も条約を締結している以上、その精神に則って問題解決に取り組んできたことをしっかり説明すればよいのではないでしょうか」

 日本政府は22日に拷問禁止委員会に対して日韓合意を見直す必要はないとする反論文書を提出したが、そもそも「専門家」が、ある政治思想を持った人権団体やNGOからの積極的な情報提供、ロビー活動の影響を受けているとの指摘もかねてからある。

 勧告が出てからではなく、日頃の情報発信がますます重要性を増している。

※SAPIO2017年7月号