以前より弾道ミサイル防衛強化の手段として俎上に上がっていたのが、「THAAD」(終末高高度防衛ミサイル:Terminal High Altitude Area Defense missile)と「イージス・アショア」である。

 各種報道で「イージス・アショアは、THAADより迎撃範囲が広く、少ない配備数で済むほか、洋上で警戒任務を続けるイージス艦の負担を減らせる」(ニューズウィーク、5月13日)、「コスト面の利点」がある(日本経済新聞、5月22日)などと伝えられ、イージス・アショアを推す声は多い。

 だが、本当だろうか。以下では本当にイージス・アショアにTHAADを上回る効果があるのかを検証したい。

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THAADとイージス・アショアの違い

 そもそもTHAADとイージス・アショアとはどのような違いがあるのだろうか。

 THAADは車載型で自由に動け、イージス艦から発射するSM-3ミサイルよりも低高度、パトリオットPAC-3ミサイル(地対空誘導弾)よりも高高度で迎撃を実施し、導入すれば3段構えの防衛が可能となる。ただし、日本全土をカバーするには3〜4基が必要となり、しかも1基1000億円以上となる。

 イージス・アショアとは、イージス艦から弾道ミサイル防衛機能を抜き出して地上に配備したものである。基本的には固定配備となり、SM-3を発射してミッドコース(弾道ミサイルの放物線の頂点付近の速度が遅い時点)で迎撃する。日本全土をカバーするには2基必要で、1基700億円以上とされる。

 こうしてみると、確かにイージス・アショアの方が費用対効果が良いように見える。だが、それだけで決めてしまってよいのだろうか。以下ではイージス・アショアが抱える3つの問題を指摘したい。

戦略的縦深性のないイージス・アショア

 イージス・アショアの第1の問題は、システムが基本的にイージス艦と同じであるため、SM-3では迎撃困難な弾道の場合、もしくは迎撃に失敗した場合、いきなりPAC-3になってしまうということである。PAC-3は射程が短いので防衛できる範囲が極めて狭く、またPAC-3での迎撃時には弾道ミサイルが相当高速になっているために迎撃の可能性は低下する。

 一方、THAADであれば、イージス艦によるSM-3での迎撃失敗後に、もう1段階の防御網を設定できる。

 こうした点を加味すると、特に北朝鮮や中国が多種多様な弾道ミサイル戦力を強化していることに鑑みれば、本当にイージス・アショアで良いのか疑問が残る。むしろ、迎撃の縦深性を高めてくれるTHAADを導入するべきではないか。

海自の負担を増やすイージス・アショア

 第2の問題は、ただでさえ人員が不足している海自の負担をさらに増やすことになる点だ。

 弾道ミサイル防衛が海自のローテーションに悪影響を与えているのは確かである。現有6隻のイージス艦は、定期的なドックでの整備や整備明けの練度回復の訓練を考えれば、3隻程度しか投入できない。ここからミサイル防衛のために2隻を回すのはかなり苦しい。南西方面や海賊対処には1隻程度しか投入できなくなるからである。しかも、ミサイル防衛対処中は任務に専念するため、訓練もできずに通常戦闘の練度はどんどん低下していく。

 こうした現状を思えば、地上配備型のイージス・アショアは一見良い選択肢に見える。しかし、地球が丸いことによるレーダーの限界を考えれば、どのみち1隻は日本海に浮かべておく必要があるので、海自にとってさほどの軽減にはならない。

 しかも、イージス・アショア1基でイージス艦1隻の配備を軽減しても、実は軽減にはならない。当然ながらイージスシステムを運用する人員が必要になるからである。

 だが、海上自衛隊の職種ごとの充足率が最も低いのがイージスシステム関連なのだ。しかも、今後、イージス艦は6隻から8隻への増勢が決まっており、ここにイージス・アショアが加われば、1.5倍の人員が必要になる。人員の増加は見込めないので、隊員の負担はますます悪化することになる。また、イージスシステムの習熟は困難であり、人員の育成にも時間がかかる。

 結局、イージス・アショアで海自の負担が軽減することはなく、むしろ人員配置上の人手不足の悪化とそれによる退職や転属希望という悪循環を加速しかねない。

 もしくは、「艦艇不適」の人間を乗せるということもあるだろう。「艦艇不適」の人間とは、心に問題を抱えた者、足腰等の損傷を抱えた者、成人病の者、不祥事などの問題行為を起こした者、いじめ等に遭い馴染めずに艦艇をおりた者、艦艇勤務が嫌で拒否した者などを指す。その中からイージス運用可能な人間を集中的に配備するという選択肢である。だが、その場合、イージス・アショアは愚連隊のような海自の人事的掃き溜めになりかねない。これもまた人手不足を加速化するだろう。

 かといって、6個高射群を抱える空自にも余裕はないし、陸自がわざわざイージス運用可能な人員を育成する余裕も意義もない。空や陸がやるのも筋違いであるから、負担を考えれば避けるべきだ。

 THAADであれば、元々が米陸軍の装備なので陸自が管理・運用することは可能であるし、陸自のミサイル戦力強化の嚆矢にもなる。負担がかかる点は同様だが、陸自にとってイージスシステム導入よりは楽であろうし、米陸軍との関係強化にもつながる。

ゲリラコマンドに脆弱なイージス・アショア

 イージス・アショアの第3の問題は、ゲリラコマンドからの脆弱性である。停泊中のイージス艦も同様だが、対物ライフルやドローンでSPYレーダー等に穴を開けられれば無効化されてしまう。長距離から迫撃砲で襲撃されれば抵抗しようがない。

 有事には特殊部隊が真っ先に襲撃してくるだろうし、イージス・アショアを炎上させれば、日本国民に与える心理的な効果も大きいだろう。相手が中国であれば巡航ミサイル攻撃も同時に行ってくるだろうが、弾道ミサイル防衛中のイージス・アショアはイージス艦と同じく防空能力が相当低下するので、これを迎撃するアセットも必要だ。

 もちろん、陸自等が十重二十重に守ることは可能だが、政経中枢施設、陸海空自衛隊の重要拠点(弾薬庫、港湾)、在日米軍、重要インフラ(原発等の発電所等)の防衛すらままならず、警察との連携も進んでいない状態で、十分な戦力を回せるかはかなり怪しいし、負担が増える。イージス・アショアを守って、原発が特殊部隊に襲撃されれば何の意味もない。

 イージス・アショアをどこに配備するかも問題だ。イージス・アショアははっきり言ってかなり巨大であり、それなりの用地が必要だ。しかも、イージス艦と同様のシステムのため、強力な電磁波による健康被害(筆者は気にしないが)などを主張する住民反対運動が起きる可能性も考えられる。

 他方、THAADであれば、こうした問題は低減できる。イージス・アショアに比して小型なので警護もしやすく、すぐに移動できるので、安全な地域やトンネル等への避難も可能である。移動式なので、巡航ミサイルも狙いにくい。

やはりTHAAD導入を図るべき

 このように見てみると、3段階での防衛を可能とするTHAADと、これまでどおりの2段構えしかできず、海自の人的負担をそれほど減らすものでもないイージス・アショアのどちらを導入するべきかは明白だろう。

 THAADの価格が問題ならば、1基で関東のみ、2基で関東・関西のみを防衛するという形にしてもよい。

 どちらにせよ、国民の多額の血税を投入し現場に負担をかける以上、それが日米同盟強化という論証の難しい美名だとしても、これ以上のミサイル防衛強化が乏しい防衛費の中で、そもそも実施すべきかどうかの再検討を行うべきだろう。

 そもそも費用対効果を言うならば、弾道ミサイル防衛偏重の予算投入こそ見直されるべきである。

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筆者:部谷 直亮