Ruling Justice and Development Party and main opposition Republican People's Party lawmakers scuffle at the parliament in Ankara during deliberations over a controversial 18-article bill to change the constitution to create an executive presidency January 11, 2017. (c)


 私は公認会計士であるとともに、企業の経営を心理的側面から分析して経営改善を行う経営心理士として、経営コンサルティングを行っている。

 今、「生産性」という言葉が話題となっており、生産性向上のカギを握るのは何かという議論が盛んに行われているが、その1つとして、私は「機嫌」が挙げられると感じている。

 「うちの上司は機嫌が良い時と悪い時の差が激しいんです。機嫌が悪い時はとても話しかけられないので、上司に聞けばすぐ分かるようなことでも自分で何時間もかけて調べることもあります」

 「最近、新しい人が中途で入ってきたんですが、その人はいつもイライラしているので、チームの雰囲気が悪くなったんですよね。チームの雰囲気が悪くなると同じ仕事をしていてもホント疲れます」

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機嫌の良し悪しが生産性を変える

 こういった愚痴を聞くことは珍しくない。このように機嫌の良し悪しは仕事の生産性に影響を与えている。

 人は他者の機嫌に敏感に反応する。この連載の中でも何度かご紹介しているが、人間の感情は無意識のうちに他者に伝染するという性質を持っている。これを「情動伝染」という。

 そのため、チームの中に1人でも機嫌の悪い人間がいると、同じチームの人たちはその感情が無意識的に伝染し、ストレスを感じるようになる。その結果、そのチームの生産性に影響を及ぼすようになる。

 実際、ご自身も過去にそういった経験をしたことはあるのではないだろうか。

 「機嫌は悪くても、別に人に迷惑かけているわけじゃないから問題ないでしょ」

 機嫌が悪いまま仕事をしている人は無意識的にそんな風に思っているかもしれない。しかし、情動伝染の影響を考えると、機嫌が悪いだけで十分に人に迷惑をかけているのだ。

 機嫌良くしている。

 これはチームの生産性を下げないための最低限の貢献であると言える。また、立場が上の者から立場が下の者に対する情動伝染の影響は特に大きい。

 ある会社では仕事がバリバリできるが、普段からイライラしていることが多い人間を昇進させて部長に据えた。その結果、その部署では多くの離職者が出るようになり、業績は低迷していった。

 その会社の社長はいまでもその部長の処遇をどうするかで頭を抱えている。

 仕事はできるが部署の業績を低迷させる人材。

 そういった人材に多くの場合において共通するのが、自らの感情をうまく管理できていないということである。そのため、上司の立場にある人は、自分の感情の管理は自らが想像している以上に重要な仕事だと思われた方がよい。

ネガティブな感情の管理方法

 では、機嫌をよく保つため、ネガティブな感情をどのように管理していけばよいのだろうか。感情が生じるまでには以下の3つの過程がある。

(1):出来事が起きる。
(2):(1)の出来事に対して意味づけを行う。
(3):(2)の意味づけに沿った感情が生じる。

 この過程からも分かるように、感情を管理していくためには、感情の発生源である(2)の意味づけに対してはたらきかけることが効果的である。

 意味づけに関する働きかけを行う前提として、起きる出来事自体にはそもそも「良いこと」「悪いこと」といった意味はないということを理解しておく必要がある。

 「悪いことが起きると自分の機嫌も悪くなる。良いことが起きれば自分の機嫌も良くなる」。そう思っている人は少なくないだろうが、正確には起きた出来事に「悪いこと」と意味づけをするから機嫌が悪くなり、「良いこと」と意味づけをするから機嫌が良くなるのである。

 人間には自分がコントロールできることと、コントロールできないことがある。大切なのはコントロールできないことに意識を向けるのをやめ、コントロールできることに意識を向けて、その状況を変化させるよう努力することである。

 起きた出来事は過去のものであるため今さらコントロールすることはできない。しかし、その出来事に対する意味づけは自分が行っていることであるためコントロールすることができる。

 この点、精神を病む人やイライラしやすい人などは、コントロール可能な意味づけに意識を向けるのではなく、コントロール不可能な過去に意識を向け続け、ネガティブな感情を生じさせている傾向があると言われている。

 「こんなことが起きなければこんな目に遭わずに済んだのに!」といった具合に。

 「他人と過去は変えられない。自分と未来は変えられる」

 これはカナダの精神科医、エリック・バーンの言葉である。この言葉は、変えられるものと変えられないものを見極め、変えられないものは甘んじて受け入れ、変えられるものを変える努力をすることが健全な精神を保つうえでは重要だという意味を持つ。

 また、出来事に対する意味づけを変えるためには、できるだけ意味づけのパターンを幅広く持つことが重要になる。思い込みが強く、偏った物の見方しかできなければ意味づけを変えることは難しい。

 そんな思い込みから離れ、出来事に対する意味を柔軟に考えるきっかけとして参考になる話がある。中国の書物「淮南子(えなんじ)」に書かれている「人間万事塞翁が馬」という話である。

中国の故事が教える柔軟な発想

 中国の北の国境にある城塞の近くに占い上手な老人が住んでいた。ある時、その老人の馬が北の胡の国の方角に逃げていった。近所の人々は気の毒がって老人を慰めたが、老人は残念がる様子もなく言った。

 「このことが不幸であるとは限らない」

 しばらく経ったある日、逃げ出した馬が胡の良馬をたくさん連れて帰ってきた。そこで近所の人たちがお祝いを言うと、老人は首を振って言った。

 「このことが災いにならないとも限らない」

 しばらくすると、老人の息子がその馬から落ちて足の骨を折ってしまった。近所の人たちがかわいそうに思ってなぐさめに行くと、老人は平然と言った。

 「このことが不幸であるとは限らない」

 1年が経ったころ胡の異民族たちが城塞に襲撃してきた。城塞近くの若者は戦いに行き、胡人から城塞を守ることができたものの、多くの若者は戦いで命を落とした。しかし、老人の息子は足を負傷していたため、戦いに行かずに済み、無事だった。

 この話から、出来事が持つ意味は、その時々によって変わるものであり、出来事自体が唯一絶対の意味を持つわけではないことがお分かりいただけるだろう。

 一方で、どう考えてもポジティブな意味づけができないということもある。その場合はネガティブな意味づけに基づいてネガティブな感情が出てくる。

 そういった感情を抑えるために効果的なのが、丹田に意識を向けるという方法である。丹田とはへそから下に10センチ、そこからさらに腹の内部に10センチ入ったあたりを言う。

 江戸時代の儒学者である貝原益軒は著書「養生訓」の中でこう述べている。

イライラしたら舟田に気を集める

 「丹田には生命の根本が集中している。気を養う術は、腰を正しく据え、気を丹田に集め、呼吸を静めて荒くせず、事にあたっては胸中からしばしば軽く気を吐き出して、胸中に気を集めないで、丹田に気を集めるとよい」

 「こうすれば気はのぼらないし、胸騒がずして、身体に力がみなぎる。位の高い人にものを言うときも、大事の変に臨んで多忙なときも、このようにするがよい」

 「やむを得ず人と是非を論じるときも、怒り過ぎて気を損じたり、気が浮くようなことにもならず、間違いは生じない。芸術家が芸術に励み、武家が武術に励んで敵と戦うときにも、皆こうした心がけを主とするがよい」

 「(中略)これは邪念を去って心を静かにする工夫であって、術者の秘訣といえるものであろう」

 イライラしているなと感じた場合は、丹田に意識を向け、少し呼吸を深くして、感情を整えるトレーニングをしてみてほしい。感覚が掴めてくれば徐々にイライラを抑えることができるようになるだろう。

 企業の生産性を上げるためには、個々のメンバーが自らの機嫌に意識を向け、チーム全体の感情の状態を良く保つよう心がけることも重要な要素である。

 特に、上司の立場にある人は自らの機嫌に今一度、注意を向けてみてほしい。そこにチームの生産性向上の大きなヒントがあるかもしれない。

筆者:藤田 耕司