『官能植物』木谷 美咲 NHK出版

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 新緑が鮮やかになってくる立夏も過ぎ、梅雨の本格的な訪れを予感させるこの時期。雨降り日は好まなくとも、その雫にしっとり濡れた植物の姿に何かエロティックなものを感じる人もいるかもしれません。

 『官能植物』(NHK出版)は、文筆家かつ食虫植物愛好家の著者・木谷美咲氏が35の植物を取り上げ、「形」「生態」「匂い」「利用法」の4方向から、植物の官能的な側面に光を当てていく書籍です。「花はすべからく性器である」という通奏低音のもと、「生命とは何か」という問いに妖艶に迫っています。

 存在に肉薄するかのような植物写真をフルカラーで数多く掲載しているのも特徴の本書。例えば、「ネペンテス」(ウツボカズラ)の形状については次のように記述しています。

 「捕虫袋は、赤黒いまだら模様で装飾され、中央が少しくびれて細長く、男性器のようでもあり、同時に女体の曲線を思わせる。虫を誘う捕虫袋の入口の部分には、さながら女性器の陰唇に似た赤黒い襞が密集し(中略)まだ蓋の開いていない未成熟の袋の形は、屹立した男性器に酷似し」(本書より)

 見る角度を変えるごとに、男性性と女性性が交互に立ち現れるという著者ならではのエッジーな考察。初めはその独自の視点に驚かせながらも、そのビジュアルを眺めれば眺めるほどに「そうとしか」見えなくなってくるのが不思議です。さらに、そこからギリシア神話の世界で語り継がれた男女両性者の物語にまでたどり着く語りにはどんどん引き込まれ、最後には人間も植物も垣根なく、生物というものの深淵さに驚嘆させられます。

 他にも各章の末尾には、「盆栽と緊縛・『支配ーー被支配』の深い精神性を考える」、「植物の隠語・イマジネーションの豊穣」、「生と性のパラドックス・食虫植物とSM」といったエッセイが綴られています。ちょっとドキッとする単語が並びますが、すべて人の営みと植物の官能との関わりを見つめたもの。それぞれのテーマが、どのように展開していくかは読んでからのお楽しみです。

 著者は執筆中「性に言及することやイメージを膨らませることが、現代ではいかにネガティブに捉えられ、抑圧されているか」ということに思い至ったそう。しかし、本書に掲載されている草花は、「ただ在るだけで」官能性を自然と匂わせています。その自由なあり方そのものが、単なるエロとは異なる、真に官能的な態度というものを示唆させる意欲的一冊です。