転職活動を始めて2ヶ月。国内の企業を立て続けに落とされて、海外の求人に目を向けている――。そう書いただけで、いろいろな反響をいただきました。

 国内で転職活動がうまくいかなかったからと言って、海外に逃げるなんて甘い! とお怒りの向きもあるでしょう。ごもっともです。私だって、我がことでなければ自分のことを「行き当たりばったりで、何にも考えてないクズ野郎だな」と思います。と言うか、我がことながら半ば本気であきれています。

 でも、私は逃亡することに決めたのです。あらゆるものから。

自分を甘やかせるのは、自分しかいない

 全国紙の記者として働いた5年。たった5年ですが、根がグータラな自分にしてはよくやったと思います。

 ですが、自分のキャパシティー以上に働いてしまったのか、気づけば休みの日には疲れすぎて、起き上がれないのが当たり前になっていました。

 さらに、24時間365日社用携帯を肌身離さず持ち、風呂に入るときには浴室前に置いて、髪や体を洗うたびに確認するような生活の影響か、電話やメールの着信音の幻聴が聞こえるようになっていました。携帯が震えた気がして、何度も何度も確認してしまう日々が続きました。


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 グータラのくせに「特ダネ記者でもないんだから、現場にいつでも一番乗りする気概ぐらいは持っておこう」と、気負いすぎていたのかもしれません。そうして、勝手にすり減っていったと言われればそれまでです。

 自分で選んだ仕事です。誰に強制されたわけでもない。それに、仕事自体は楽しくて充実していました。天職だと思ったこともありますし、言われたこともあります。

 それでも、休みの日に身体がだるすぎて、ベッドから一歩も出られないなんて生活、おかしいんじゃないか。ふと、ある時気づいたのです。 

 そんな風に、ちょうどいい塩梅がわからず、自分で過剰に働きすぎて、勝手にすり減ってしまったわけですが、そうやってすり減ってわかったことがあります。

 自分を守り、甘やかせるのは自分しかいないということです。

 仕事柄、過労死、過労自殺、亡くなるまでいかなくても、病気になるなどして働けなくなったという話を耳にすることがありました。

 会社はお金で補償してくれるかもしれません。ですが、健康も命も、失ってしまってから取り戻すことはできません。

 私は、そうなる前に自分を甘やかそうと思いました。

 こればっかりは、どんな誹りを受けても気にしません。究極的には、自分以外誰も自分を甘やかしてくれませんし、自分の健康や命を守れるのは自分だけです。

 だから、私は自分の健康や命のためなら、あらゆるものから、そしてどこへでも逃亡します。胸を張って楽な方に逃げます。

「逃げるは恥だが役に立つ」と言いますし(ドラマは見ていないけれど)。

キヨシマの転職活動メモ
一、「逃げるは恥だが役に立つ」。健康や命のためなら逃げの転職しようぜ。

 とはいえ、です。

 別に、「働きたくない」と言っているわけではなく、もうすこし身の丈と言いましょうか、自分の体力とキャパシティーにみあった仕事をしたい。そして、どうせなら仕事を楽しみたい。

 一度は、いや、二度か三度くらいは天職と思った記者の仕事。人に会って話を聞き、文章にまとめる。単純な仕事かもしれませんが、辞めてもなお面白いと感じるので、似たような仕事がしたいと思いました。

 海外でこうした仕事がしたいとなると、まず思いつくのは日本語のフリーペーパーです。

 前回、帰国後の就職を考えると、アドバンテージにならないので「日本語のフリーペーパーの仕事はおススメしない」と転職エージェントのDODAの方に言われたわけですが、どうせ働くならしたい仕事をしようと、中国や東南アジアでフリーペーパーを発行している企業の編集職を受けることにしました。

 書類選考を突破し、海外企業を受ける際おなじみのSkypeを利用して、一次面接スタート。ですが、とにかく通信状況が悪い。台湾とつないでの面接だったのですが、ブツブツ途切れます。


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 それでも何とか完遂された面接で、担当者から「台湾で、営業から」と説明を受けます。アレ? 私今回、東南アジア、編集職希望で出したんだけどな?

「今回、台湾が新規スタートで人員を募集することにしたんですよ」と面接官。そんなこと募集要項に一つも書いてなかったよね? と思わずツッコみたくなりますが、「希望を出せば東南アジアで編集職も出来る」と言われ、辞退せずにこのまま次の面接に進んでみることにしました。

 次の面接もSkype。相手は社長です。これが最終面接とのこと。

Skype越しのロールプレイ面接!?

 すこし雑談をした後、画面の向こうの社長はボールペンを見せ、こう言いました。

「百貨店の文房具の販売員という設定で、ボールペンを私に売ってください」

 パニックです。完全なる不意打ちです。まさかSkype越しにロールプレイをさせられるとは思ってもみませんでした。とは言え、考えてどうにかなるもんでもないので、とりあえず始めます。

「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」

「ボールペンが壊れたので、新しいものを買おうと」

「そうなんですね。ご予算は?」

「1000円程度かな〜」

「それでしたらこの辺りの商品が、ご予算に合ったものですね。何かこだわりなどございますか?」

「いえ、特には」

「お仕事用ですか?」

「ハイ」

 え〜。何ススメたらえ〜ねん! だって、目の前に何もないんだよ!? 大体ボールペンのことなんて詳しくないし! 

 ヤケクソです。

 胸元からボールペンを取り出すしぐさをします。

「でしたらこちらはいかがですか? 私も使っているんですが、書き味がなめらかで一押しです。それに、お値段もそこまで高くないんですよ。お仕事用だと、よく使うからあまり高くないほうがいいですよね」

「はい、ここまでで」

 社長のその言葉で、ロールプレイは終わりました。もう、頭が真っ白です。手汗もすごいし。

「よかったと思いますよ。営業やったら、上位20%になれる人だと思いました」

 ホンマか!? どこにいいところがあったんだ!? めっちゃ声がうわずってたぞ!

「営業の経験あるんですか?」

「いえ、ただ、百貨店でアルバイトをしたことがあったので、そのときを思い出しながらやりました」

「そうなんですね。よかったんですが、アドバイスを2点。『書いてみますか?』と試してもらう。最後には『買いますか、買いませんか』と意思確認したほうがいいですね」

 へ〜。営業ってそんな感じなんだ。参考になります。でも、百貨店で最後に「買いますか、買いませんか」って聞かないよね、普通。

 しかし、何が役に立つかわからないものです。まさか転職活動で、フリーター時の経験が役に立つとは思いませんでした。

 ありがたいことに後日、内定を頂けましたが、どうしてもこのロールプレイのインパクトで「この会社ではやっていけない気がする」と思ったのと、条件面で折り合わず辞退しました。

 それにしても、転職活動を通して、いちばん記憶に残る面接でした。営業の人って、こんな面接が普通なんでしょうか。普通じゃないことを祈ります。普通なら、今まで以上に尊敬します。

キヨシマの転職活動メモ
一、転職活動、意外な経験が役立つこともある。

 ※この連載は、新聞記者として5年働いたキヨシマによる、「脱力系」転職活動記です。書かれていることは全て現在進行形のノンフィクションです。

(キヨシマ)