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ホワイトハウスの貴公子は「英雄」から「悪玉」へ転落

 今米国で一番注目される貴公子は誰か。言わずと知れたホワイトハウスのジャレド・クシュナー上級顧問(36)だ。

 ドナルド・トランプ大統領の娘婿であり懐刀にして、「サイレント・パートナー」。それが政権4カ月にして「ウォーターゲート」事件の再現とすら言われる「ロシアゲート」疑惑の中心人物として世の中を騒がしている。

 米中貿易を手がけている香港出身、中国古典の愛好者であるビジネスマン某氏は、こう宣う(のたまう)。

 「唐納徳・特朗普(ドナルド・トランプ)を『三國志』の群雄に例えてみれば、賣里徳・庫許(ジャレド・クシュナー)は、差し当たり後漢末期の武将、『呂布』じゃないかね」

 「呂布」とは、ご存知、丁原、董卓に仕えた最強の武将。主君を次々と代えながらも、戦場では赤兎馬にまたがり、片天画戟を武器に敵をなぎ倒して武勲を遂げた容姿端麗、若き英雄(だった時期があった)だ。

 身の丈一丈、猛々しくも華やかで、凛々しい若武将・呂布。長身で無口だが、眼光鋭いクシュナー氏とがイメージ的に重なり合うと言うのだ。確かに美しい女性を恋人、妻女にしているのも似ている。

「逆玉」説を吹き飛ばし、義父を大統領にした優れ者

 呂布の強みが「武闘力」だとすれば、差し当たり、クシュナー氏の武器は類まれな「経営力」だ。そして大統領選を経て、その「経営力」は「政治能力」へと深化したようだ。

 「呂布もクシュナー氏もともに主君に忠誠を誓い、主君のために戦っているにもかかわらず、実は主君を操っているのはこちらではないか、と勘繰られる『危うさ』が見え隠れしている」と前述の香港出身のビジネスマンは分析している。

 米ジャーナリストの中にもクシュナー氏を「自らの野望を秘めた悪質なミレニアム世代の典型」と評する者も出ている。同記事には王冠を被ったキングK(クシュナー)が頬杖をついて腰かけている絵が添えらえれている。(参考=https://www.vice.com/en_us/article/jared-kushner-is-every-bad-millennial-stereotype-come-to-life)

経営能力取得は、ハーバードやNYUではなかった

 優れたクシュナー氏はその経営力を自力で習得してきた。ハーバード大学やニューヨーク大学経営大学院(NYU)生時代から不動産売買を始め、利益を得ている。

 知人には「いかにしたら儲かるビジネスをするか、僕は自分で考え、実践してきた」と漏らしている。卒業直後には、父親の不動産会社で即戦力として働いていた。父親は常に若いクシュナーに相談しながら事業経営をしていたという。

 自ら経営能力を習得したという点では、義父トランプ氏によく似ているし、その共通項をトランプ氏は高く評価していたようだ。

 トランプという億万長者の長女と結婚したことからしばしば逆玉のように見られていた。ところが、大統領選を通して示した義父に対する忠誠心と「選挙経営力」に舌を巻いたのは、候補者自身だった。

 娘婿という関係を飛び越えて、この娘婿は大統領に最も信頼される超側近になってしまう。トランプ氏には2人の息子がいるが、トランプ氏の2人に対する信頼度は、クシュナー氏へのそれと比べると、雲泥の差だと、周辺は見ている。

 つまり「婿殿」になったから信用したというのではなく、「婿殿」になろうが、なるまいが、トランプ氏はクシュナーという若いビジネスマンに惚れ込んだのだ。

 クシュナー氏自身、父から譲り受けた自らの有力不動産企業を経営する億万長者だ。カネの面で義父に厄介になるつもりはまずない。経営面でもトランプの厄介には一切なっていない。むしろ「婿殿」に頼ったのは義父の方だ。

 「婿殿」の助けを借りて、「大統領になる」という野望を実現できたという点では借りは義父の方にある。

 あれだけメディアに叩かれ、私生活を暴かれ、共和党エスタブリッシュメントからは「品性劣等な大統領候補」(ミット・ロムニー前共和党大統領候補)とまで言われたトランプ氏。

 負けて当然のような予備選、本選挙で奇跡の勝利を遂げたのは、常に傍にいて、冷静沈着な選挙戦略を貫き通した参謀、クシュナー氏のお陰だった。

 政権発足と同時に、クシュナー氏は上級顧問という役職に就いた。彼はそれを当然のことのように受け入れたという。

 当初、大統領が親族を政府機関に雇用することを禁じる「反縁故法」に抵触するとの批判もあった。しかしこれも無給で働くことでクリアしている。

 カネに困らない大金持ちの特権と言うべきか。司法省はホワイトハウスは政府機関ではない、とのことからも反縁故法に抵触しないとの見解を出している。

絶対バレるはずはないと確信していた「ロシア・コネクション」

 ところが人生、どうなるか、分からない。

 5月に入って、この若き英雄の前途に暗雲が立ち込めてきた。義父の大統領当選が視野に入った昨年12月頃から、何を思ったのか、ウラジーミル・プーチン露大統領の懐に飛び込もうとして蠢いていた事実が露呈されたのだ。

 ロシア側もクシュナー氏のアプローチに戸惑いを見せながら応じていた。彼は大胆にも米情報機関が探知できない秘密のパイプを作ろうと提案していたのだという。

Jared kushner: The Biggest Silent Player in the 2016 Election by Wendall Patkar Kindle Editon Amsazon Digetal Servicers LLC, 2017


 この工作にはすでに事実上解雇されたマイケル・フリン前大統領国家安全保障担当補佐官も深い関わり合いも持っていたとされている。

 本書は、そのクシュナー氏の半生をやや、端折り気味に再現した「主観的な人物論」だ。今人気が出始めているebook(電子書籍)である。

 クシュナー氏の出自に始まり、学生時代に何をやり、いかにビジネス界に足を突っ込んだのか。トランプ氏の長女、イバンカさんとの出会い、敬虔なユダヤ教徒としてどのような日常生活を送っているのかなどについて美辞麗句を一切抜きに記している。

 この本を土台に安易な文章にした児童向けの本も2冊出ている。米資本主義社会では金を儲けて出世した者は「英雄」であり、子供たちには読んでほしい本なのだろう(大統領選挙中にはヒラリー氏の伝記本も出ている=https://www.amazon.com/Amazing-Story-Jared-Kushner-Positive/dp/1546382887/ref=sr_1_11?s=books&ie=UTF8&qid=1496011336&sr=1-11&keywords=jared+kushner)。

 「発売」後、それなりに売れていたそうだが、今年5月、「ロシアゲート」報道が過熱する中で、にわかに売れ行きが急増しているという。

政権運営に企業経営戦略を導入したユダヤ教信者

 著者は、クシュナー氏について以下のような事柄を披露している。

一、ユダヤ教の熱心な信者であること。クシュナー氏は、幼年期から両親から厳しく教えられた伝統的なユダヤ教を日常生活(食生活や信仰生活で)でも徹底して実践したきたという。そのため、金曜日の夜から一切の電化生活を絶ち、食事も豚肉などは食さない。

一、少年期から企業経営に強い関心を持っていたこと。父親はトランプ氏同様、不動産業で財を成した億万長者で、クシュナー氏には不動産売買のすべてを伝授、幼年期からビジネスについて強い関心を抱いてきたという。

一、ハーバード大学やニューヨーク大学(NYU)経営大学院に在学中から不動産売買をやっていたこと。学生時代にすでにマサチューセッツ州ソマービルにあるビルを売り買いして2000万ドルの利益を上げていた。

一、父親が税逃れや不正政治献金で起訴され、服役したことからその間、実際に父親の企業経営を引き受けていた。また父親を起訴したクリス・クリスティ地方検事(のちのニュージャージ州知事)に対する復讐心に燃え、義父が大統領当選後に設置された政権移行チームにいたクリスティ氏を解雇している。徹底した「目には目、歯には歯を」を頑なに守っている。

一、結婚したイバンカさんとは、お互いのプロ経営力を高めることを絆にしていたこと。結婚前にはキリスト教徒だったイバンカさんはユダヤ教徒に改宗している。その後もユダヤ教信仰を夫婦で厳しく守っている。

一、義父の選挙戦には徹底してソーシャル・ネットワークをフル回転させたこと。トランプ氏が「経営最高責任者」(CEO)ならば、クシュナー氏は「執行最高責任者」(COO)という体制だった。選挙選挙戦略に企業経営(マネージメント)指針を導入した。

一、トランプ政権における政策決定と実践は、企業経営方式を導入した速戦即決、実行第一、明確な結果を伴うものでなければならない。

 というのが、「ロシアゲート」疑惑発覚前のクシュナー人物論である。

 自ら習得した企業経営戦略をどう大統領選に生かし、義父のホワイトハウスをどう「改築」し、そこにいかなる人材を配し政治を動かすか、その手法というか戦略はおぼろげながら分かる。

 しかし、今危機に直面している事態にクシュナー氏がどう対処するのか、肝心の点については分からない。

ロシア秘密パイプ構築の指示は誰が?

 休日明けの6月5日からボブ・ムラー特別検察官の捜査と米議会各委員会による真相解明の動きが注目される。おそらくクシュナー氏に問いただしたい質問は以下の点だ。

 「なぜトランプ政権が発足する前からクシュナー氏とフリン氏はロシアのセルゲイ・キスリャック駐米大使らと会って秘密のパイプを設置するよう提案していたのか」

 「その提案はトランプ氏自身の指示によるものだったのか」

 「こうした動きが米諜報機関に探知されていることになぜ気づかなかったのか」

 「対ロ接近はもとより、政権発足直後、クシュナー氏自身がイラクを訪問、習近平主席訪米前の下準備工作、サウジアラビアとの武器供与工作など、外交交渉未経験のクシュナー氏がなぜ米外交の懸案事項を先取りして動いているのか。すべて大統領の意向で動いていたのか」

 クシュナー氏は、「ロシアゲート」疑惑問題を含め、「適当な時期に適当な場所ですべてを話す」と、上院外交委員長のボブ・コーカー委員長(共和党、テネシー州選出)には話しているという。

 同委員長は「レックス・ティラーソン国務長官とロシア側とのシリア和平をめぐる協議の行方がはっきりするまで、クシュナー氏は公けの場で発言するのは控えたいとの感触を得ている」とも発言している。

 それまで何か月かかるのか。モラー特別検察官も議会もクシュナー氏の要望に応じてくれるとは思えない。捜査と真相解明の動きは風雲急を告げているからだ。(参考=https://www.usatoday.com/story/news/politics/onpolitics/2017/05/28/jared-kushner-answer-questions-when-time-right/352457001/)

筆者:高濱 賛