「Thinkstock」より

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 ずいぶん昔のこと、人物に焦点を当てたドキュメンタリー番組で、ある国立大学の教授が取り上げられていた。その先生の専門は有機ELディスプレイで、世界をリードしており、研究の価値を高く評価した日本の大手メーカーも支援しているという内容であったと思う。

 画面が薄い、自由に曲がる、低消費電力といった新しいディスプレイに感心した半面、日本のエレクトロニクス商品のお決まりのパターンともいえる、「世界に先駆け、市場に投入し、ある程度の利益は上げるものの、市場が拡大するころには海外メーカーにシェアを奪われるという事態に陥らなければよいが」とも懸念したことを記憶している。しかし、こうした危惧は完全に杞憂に終わった。残念ながら悪い意味で。

 4月28日付日本経済新聞によると、韓国・サムスン電子の2017年1〜3月期の営業利益は過去2番目の高水準となり、その主たる要因はディスプレイ部門の貢献であったという。こうしたディスプレイ部門のなかでも、有機ELは1000億円規模の利益をあげた。今後はアップルへの供給が本格化するなど、ますます大きな事業へ成長していくと予想されている。

 一方、日本メーカーに注目すると、ジャパンディスプレイやシャープといった大手でも、いまだ試作ラインの整備を行っている状況である。ソニーは04年に有機ELディスプレイの量産に成功し、07年には世界に先駆け有機ELディスプレイを採用したテレビを市場に投入したものの、採算が取れず10年に撤退している。17年に入り、有機ELテレビ市場に再参入したが、ディスプレイは韓国・LGエレクトロニクスから調達するという状況である。

 つまり、有機ELディスプレイに関しては、「市場が拡大した成熟期こそ、海外メーカーにシェアを奪われ、大きくは稼ぎきれないケースが目立っていたものの、世界に先駆けて商品を投入することにより、少なくとも導入期や成長期にはある程度の利益は上げてきた」という、従来の日本のお決まりパターンすら成立していないのだ。

 通常、成熟期には多くのライバルが存在し、厳しい低価格競争が展開される。コスト優位性に乏しい日本メーカーがこうした競争を勝ち抜くことは難しく、販売量こそ少ないものの、ライバルが少ないために比較的高価格で販売できる場合が多い導入期や成長期で稼ぐという苦肉の策すら、展開できなくなっているのである。

 こうした事態に、ブランド力やイノベーション力の強化などが一般には指摘されているが、海外大手メーカーと比較して、大きな収益をあげることが困難になってきている日本メーカーに、どれほどの資源を投入することが可能なのだろうか。

 構造的悪循環に陥らないことを祈るばかりである。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)