ジャパニーズドリームを果たした森正文氏の唯一の蹉跌

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 5月9日に、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが今春の新入社員を対象とした調査結果を発表した。働く上で求めるものは何か。調査開始以来はじめて、「給料」を「休日」が上回ったという。瞬時に頭をよぎったのは今後の日本経済を考える時に不可欠な「起業家の減少」であり、「やはり『ジャパニーズドリーム』に期待は持てないのか」だった。

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 米国シリコンバレーは、起業家の聖地。業を起こして成功した暁には企業を売却し巨万の富を得る。その後、起業者はアントレプレナー向けの投資家に身を置き換える。

 そんな『アメリカンドリーム』が米国経済の原動力の一つになっている。

 より具体的に言えば「第2の森正文氏は登場してこないのか」という思いだった。「一休.com」で知られた一休の創業者である。「人生は一度、自らの手で事業を」と日本生命時代から思い続けていた。1998年に「何をやる」という思案も定まらないまま「3,000万円余りの軍資金が貯まったから」というだけでスピンアウトした。結果的に「ネット通販」でホテル・旅館の予約取り代行業を起こし、あっという間に成長階段を駆け上がっていったわけだが「いの一番に手掛けたいなと思ったのは、珍妙な輸入雑貨店でした。原宿通り歩いている時に行列ができているその種の店に出会いましてね」と聞いた。

 しかし、よくよく調べてみると、同様の店を出すには5,000万円余り必要。思い悩んだ森氏は諦めきれず、資金の増幅を短期の株式投資(回転売買)に賭けた。結果は、増幅どころか右から左に約2,000万円が消えていった。「起業家の蹉跌でした」と一休.comがトントン拍子に伸び続ける過程で聞かされた。ちなみに落ち込んでいた同氏の元に日生時代の知人から「夜桜見物に好立地のハイアットリージェンシ東京のスイートルームを売る手伝いをしてくれないか」という話が持ち込まれた。「何もしないでいるよりは」と、認知度が高まり始めていた楽天のオークションモールに出店し「ホテル側に他の部屋も売ってくれないか」と大成功。これが一休.com立ち上げの契機にもなった。運も持ち合わせた起業家でもあった。

 そしていま森氏は「ジャパニーズドリーム」の稀有な実践者となった。やはりホテル・旅館予約代行サイトを展開していたヤフー・ジャパンから2015年末に、TOBを介した完全子会社化の申し入れがあった。同氏は思案の間もなく快諾した。「その方が自分の作った会社の一層の発展につながると判断したからだ」とした。TOBの総額は約1,000億円。森氏は保有する全株式を売却し、約400億円を手にした。そして翌年2月に完全子会社化された段階で全ての役職から身を引き、旧一休とは無縁の存在となった。2,000万円の「蹉跌」は2,000倍となって戻ってきた。