「嘘を許す」西島秀俊と「嘘をつく」石田ゆり子の結末は? 『CRISIS』“手の甲”の意味

写真拡大

 「目に見えないものに目を配るんだぞ」。5月30日に放送された『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(カンテレ・フジテレビ系)の第8話。公安の協力者として新興宗教団体“神の光教団”に潜入している林智史(眞島秀和)から、妻の千種(石田ゆり子)を介して「重大な情報を手に入れた」と田丸(西島秀俊)が連絡を受けたことから物語は始まる。これまで、付かず離れずの微妙な距離感を保ち続けてきた田丸と千種だったが、今回の一連の事件がキッカケで、ついにその関係性に終止符を打つことになるのだった。

参考:西島秀俊と石田ゆり子は“ただならぬ関係性”だ 『CRISIS』共演に漂う艶っぽさ

 千種は田丸にたくさんの“嘘”をついていた。そして田丸もまたその“嘘”を知りながらも、気づかないフリをしていた。“重大な情報”を知りながらも「内容は聞いていません」という千種の嘘と、「嘘を見抜いてたならこんな取引なんかしないで、私を尋問して情報を引き出せばよかったのに」という千種に対して、「確信があったわけではありません」という田丸の嘘。

 第8話の中盤で田丸は稲見(小栗旬)に、“神の光教団”の潜入者に林を選んだ理由について、「国家のためと大義名分を背負って、弱い立場の人間を利用することになんの疑いも持たないよう自分を騙してた。いや……そんなのは全て見栄えのいい言い訳で、本当は美しい妻に心を奪われたせいかもしれない」と、明かしていた。田丸は千種に出会った瞬間からずっと心惹かれていたのだろう。そして、その想いは自分の“心”が自身の“信念を裏切るほど”、深かったのだ。だが、最後まで田丸は千種に想いを伝えなかった。千種に対しても自分自身にも“嘘”をつき通したのである。

 人は誰しも嘘をつく。“嘘をつかずに生きていけるのは、ほんとに強い人だけ”なのだ。千種は“弱い人”である。そして田丸もまた“強くないから、嘘をつく人(千種)の気持ちがよくわかった”のだろう。田丸は、決して千種を責めない。そして、千種を受け入れることも突き放すこともできないのだった。そんな彼の優しさはある意味とても残酷である。千種は言う、「嘘つきね。でも、優しいのね」、と。

 これまでに同ドラマでは“テロ”や“潜入捜査”という内容を何度も扱ってきている。今回も今まで同様に林は“捨て駒”として切られるのでは? 闇落ちしてしまうのでは? と不安に思った視聴者も少なくないだろう。だが、今まで積み重ねてきた経験により“覚悟”が備わり、“固い絆”を結んだ公安機動捜査隊特捜班は、彼を“闇の奥”から救い出すのだった。

 しかし、本当の意味で彼を救い出せたのかはわからない。一筋縄でいかないのがドラマ『CRISIS』なのである。今後、教団の残党から狙われる可能性があるため、慣れない土地、海外での生活を強いられる林夫婦。そして何よりも自分のことを愛していない妻とのふたりきりでの生活だ。元々うまくいってなかった夫婦生活、ましてや2年も会ってなかったふたりが新しい土地でうまくいくとは到底思えない。加えて、千種は田丸を愛しており、田丸との暮らしを望んでいた。これから林と千種は、お互いの気持ちを押し殺して“偽り”の夫婦として生活していくのだろうか。

 “嘘”や“偽り”は目に見えない。「この世界で起こることの大半は、目に見えないものがキッカケで始まって終わる。因果ってやつだ。“人間の業”と言い換えてもいいだろう」という鍛冶(長塚京三)の言葉が頭をよぎる。千種が田丸に対して抱いている想いも、自分をほったらかして出ていった夫への不満感も、2年間に及ぶ人質のような暮らしに対する不安も“目に見えないもの”だ。その“目に見えないもの”こそが、今回の事の発端である、夫がスパイであることを教団側に密告してしまう千種の行動に繋がるのだった。そしてまた、“見殺し”にされる林への罪悪感や責任感、やるせなさ、自身の信念など様々な“目に見えない”感情によって、田丸は“公式”にはどうすることもできない林を助け出しに行く決意を固めるのだ。

 最後の田丸と千種の別れのシーンで、千種は「あなたは嘘をほっとけない人なんだもの。あなたのそういうところを好きになったのよ」と田丸に微笑む。千種の些細な変化に気付き、誰よりも彼女の“嘘”を受け入れる田丸。涙ぐむ千種をじっと見つめながら一言も発さず、ただ“手の甲”でそっと彼女の頬に触れる。“手の甲”(the back of one’s hand)に関するイディオムで、“know……like the back of one’s hand”という言葉がある。これは、“〜を手の甲のように知っている(〜を知り尽くしている)”という意味だ。つまり、田丸は千種に「あなたのことを誰よりも理解している」と言いたかったのではないだろうか。中盤で千種が言っていた「そんなに私のことを理解してくれてるなら、私の気持ちもわかってくれてるでしょ?」という問いに対する、田丸なりの答えだと信じたい。

 鍛冶は千種のことを「田丸にとってのアキレス腱」と言っていた。“アキレス”とはギリシア神話の英雄アキレウスのラテン語名であり、“アキレス腱”の由来は、不死身とされながら、唯一の弱点だった踵を矢で射られて死んだという故事にちなんで付けられたと言われている。つまり、“致命的な欠陥”であるから、田丸の目の前にちらつかないように海外から帰らせるな、と鍛冶は青沼(飯田基祐)に命じていた。田丸と千種にとってあれが本当の別れになってしまったのだとするならば、切なすぎる終わり方だ。

 最後に千種が“目に見えるもの”、口の動きだけで田丸に伝えた言葉は一体なんだったのだろうか。夫である林には申し訳ないが、「またね」であってほしいとどこか願ってしまう。(文=戸塚安友奈)