仲里依紗と東出昌大、“笑いながら怒る”怖さ 『あなそれ』の真髄は滑稽さにアリ

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 ドラマ『あなたのことはそれほど』(TBS系)では、“お天道様は見ている”というキーワードが随所に散りばめられている。第7話では、有島光軌(鈴木伸之)の妻・麗華(仲里依紗)が、寓話『 北風と太陽』ばりのお天道様っぷりを発揮した。

参考:『あなたのことはそれほど』はなぜ共感できないのに人気なのか? 不倫経験者が見るポイント

 「母さんが私のこと、自分みたいにならなくて本当によかったって、光軌に感謝してた」奇しくも、父と同じようにキレイでかわいくてワガママな女(美都)と不倫をしている有島の罪悪感をジリジリと照らし出し、娘をくれて「本当にありがとう」と微笑む麗華。お天道様の熱視線に負けた有島は、ついに自分から「バカだった。軽いノリと昔の思い出と……」と心の鎧を脱ぎ始めるのだった。

 「昔からお前に対してだけは自然なんだよ。だからな、 俺はバカだったけれども、何があっても……」疑惑を認めようとする有島の言葉を遮るように、麗華は「光軌、なんの話?」とピシャリ。その顔は、もはや穏やかなお天道様ではない。固く心を閉ざされた、冷ややかな眼差し。きっとカマをかけるときは、首を刈るくらいの覚悟が必要なのだ。疑惑を抱いた段階で、最悪のシナリオが脳内に再生されており、認めたらもちろんクロ。認めずに濁されたところでグレー。シロでよかったよかった、なんて展開は待っていないのだ。修復できると思っているうちは、黙っていた麗華。だが、もはや限界。静かな口調の中から、そんなエネルギーを感じた。

 『あなたのことはそれほど』というタイトルは、主人公の美都(波瑠)が「2番目に好きな人」の夫・涼太(東出昌大)に対して「あなたのことはそれ(運命の人)ほど、愛していない」と言いそうな言葉だなと感じていた。だが、もしかしたら、この言葉は麗華の本音なのではないかと、頭をよぎった。

 麗華にとって“幸せな家庭”も、不相応な名前のような“華やかな場所”も、自分には縁遠いものだと思っていた。だが、有島と知り合ったことで、自分もそんな世界が見られるかもしれない、と感じたのではないか。有島は、環境の変化に必要な人だった。だから、1人の男性としての興味は「それほど」だった……とも見て取れたのだ。その環境を守れない(暴露して壊そうとする)有島なら、むしろいらない。

 美都のようにわかりやすく陶芸のドロで汚れてはいないが、不倫を認めた有島の手もまたドロにまみれた汚い手に見えてくる。そんな手で娘に触れてほしくない。「手、洗ってください」笑いながら怒る人が1番怖い。今、麗華にとって“いてほしい”のは、有島ではなく娘だけなのだという強い拒絶に見えた。お天道様は、笑いながら怒る。

 笑いながら怒るといえば、やはり今回も涼太の狂気っぷりは健在。美都が意を決して差し出した離婚届にひらがなで名前を記入して、「あ、ごめーん(笑)」と笑いながら書類を破る。 美都の自分勝手さもエスカレート。そんなおかしな涼太にしてしまったのは自分なのに「最悪」と心の中で悪態をつく始末。もはや、このふたりのやり取りにはホラーコメディのような滑稽さがある。

 滑稽さ。それこそが、このドラマの真髄なのだろう。脳内お花畑の美都、SNSで幸せアピールをする涼太、軽いノリで女遊びをして妻のカンの良さに怯える有島、ジワジワと詰めよる麗華……登場人物の誰にも共感どころか、理解もしにくいドラマだと感じていた。だが、 それがリアルな不倫劇なのかもしれない。

 美都が不倫を反対する親友・香子(大政絢)に「知らないくせに」と思ったように、 不倫の当事者たちの本当の気持ちは周囲にはわからない。かつて描かれてきた不倫ドラマでは、主人公の葛藤もあった。“それならば不倫相手に惹かれるのは仕方ない”、“自分もそんな立場だったら”と視聴者に想像させる余地があった。でも、このドラマは納得の理由は描かれない。実際の不倫も、往々にしてそうなのではないか。芸能ゴシップであろうと、ご近所の噂話であろうと、友人からの告白であろうと、心から共感することも理解することもむずかしい。それが、不倫なのだ。わかってもらえないということは、孤独になるということ。社会のルールを逸脱するというのは、そういうことだ。

 「足るを知る」という涼太の同僚・小田原(山崎育三郎) の言葉が妙に耳に残る。自分のなかの“これがあれば幸せ”は何か。それを見失うと、あっという間に道を踏み間違える。人はそれくらい弱くて、図々しくて、自分勝手なのだ。『あなそれ』を滑稽だと笑えるうちは、まだ大丈夫。このドラマに出てこない“幸せな結婚”とは何かを、教えてもらうのではなく、自分たちで考えていこうではないか。

(文=佐藤結衣)