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東京農業大学は、世界各地から採取したシロイヌナズナを用いて、自然界において植物が様々な環境に適応する過程で、浸透圧(水分欠乏)耐性を取るか病害抵抗性を取るか、その決め手となっている遺伝子を発見したと発表した。

同研究は、東京農業大学生命科学部バイオサイエンス学科の太治輝昭教授らと、奈良先端科学技術大学院大学・千葉大学・理化学研究所など他機関との共同研究によるもので、同研究成果は、ロンドン時間5月26日に科学雑誌「Nature Plants」(オンライン版)に掲載された。

干害・塩害・冷害は、植物が水を吸えなくなるストレス(浸透圧ストレス)により引き起こされる、農業上最も被害の大きな害である。自然界には極めて高い耐性を示す植物が存在する一方で、同じ種であってもそのような耐性が失われている例があり、植物が同じ種内でも耐性を持つ植物と持たない植物に分かれてきた進化的要因やその背景でどんな遺伝子が働いているのかに関しては不明だった。

モデル植物として広く利用されているシロイヌナズナは、世界中の様々な地域に生息し、その数は1,000以上に上る。先行研究においてそのようなシロイヌナズナ地域個体群350グループの耐塩性を調べたところ、耐性には大きなバリエーションがあることが明らかになった。特に耐性を示すシロイヌナズナの種内グループは、生育に影響を及ぼさない程度の浸透圧(水欠乏)あるいは塩ストレスを一定期間経ることで、極めて高い浸透圧や塩に対する耐性を獲得する「馴化機能」が優れているという。同研究では、この浸透圧耐性の獲得能力について解析を行った。

同研究グループは、解析によって明らかになった、シロイヌナズナ間における耐性のバリエーションを制御しているひとつの遺伝子座をACQuired OSmotolerance(浸透圧馴化耐性)より、ACQOS遺伝子座と命名した。この遺伝子座を特定するため、ACQOS遺伝子座のみ耐性シロイヌナズナであるBu-5グループ由来のDNAを持ち、その他全ての遺伝子領域を浸透圧耐性を持たないシロイヌナズナであるCol-0グループ由来のDNAに置き換えたNIL(準同質遺伝子系統)を作出した。作出したNILの耐性と遺伝子型の解析およびシークエンス解析から、耐性シロイヌナズナと感受性シロイヌナズナで大きな遺伝子欠損を起こしている領域を発見した。この領域に含まれる遺伝子について相補試験を行った結果、シロイヌナズナ間の浸透圧耐性を制御する遺伝子、ACQOS遺伝子を特定することに成功した。

次に、ACQOS遺伝子座のシークエンスを解読したところ、この領域にはACQOS遺伝子と塩基配列の似た遺伝子が1〜4個並んでおり、5種類に分けることができた。最も多いのがACQOS遺伝子を持っていない遺伝子型(2タイプ)で72%、ACQOS遺伝子を有するのは10%と少数派で、その他はACQOS遺伝子を有するものの塩基置換が複数箇所に認められ、遺伝子機能が失われた遺伝子型、あるいはACQOS遺伝子が部分的に欠失(削除)している遺伝子型だった。

これらの浸透圧耐性を調べると、ACQOS遺伝子を有するシロイヌナズナのみが浸透圧耐性を失っており、その他は全て浸透圧耐性を示した。また、ACQOS遺伝子周辺の塩基多様性を調べた結果、ACQOS遺伝子にはその配列を変える方向に高い選択圧がかかっていることが判明した。実際に、塩基置換が複数箇所に認められるACQOS遺伝子は、その塩基置換により機能不全になっていて、浸透圧耐性を抑制しないことが明らかとなった。これらの結果は、ACQOS遺伝子を生み出したシロイヌナズナは浸透圧耐性が抑制されることになったものの、その後にACQOS遺伝子内に点変異や欠失が生じることでその働きを失い、その結果浸透圧耐性を改めて獲得したことを示唆している。

ACQOS遺伝子は既知の浸透圧ストレス応答の制御遺伝子に類似した特徴は持たず、植物の免疫センサーとして働く、TIR-NLRをコードする遺伝子であった。また、その後の調査により「ACQOS を有するシロイヌナズナは病害抵抗性に優れる一方で浸透圧耐性が損なわれる」こと、逆に「ACQOSを失ったシロイヌナズナは高い浸透圧耐性を獲得するものの、病害抵抗性が低下する」ことがわかった。すなわち、ACQOS遺伝子の有無が病害抵抗性を取るか浸透圧耐性を取るかの決め手となることが明らかになった。

ACQOS遺伝子は持つことで病害抵抗性が高まり、欠損することで著しい浸透圧耐性を獲得することから、今後は、植物工場のような乾燥にさらされない環境ではACQOSを有することで病害抵抗性を向上させ、乾燥が頻繁に起こる圃場ではACQOSを無くすことで著しい浸透圧耐性を向上させる等、環境条件に応じて植物のストレス耐性を最適な方向にデザインすることが可能になると期待されるということだ。