寝ても怒りは忘れられない(写真はイメージです)

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【美と若さの新常識】(NHKBSプレミアム)2017年5月18日放送

怒りは美の大敵! イライラ解消術

最近ムカッときたり、イライラしたりすることはないだろうか。怒りによって本当に傷ついているのはアナタの美と健康。いつも怒っている人は肌荒れになりやすく、1日5回以上怒ると心臓病のリスクが増大する研究もある。

最新科学が明らかにした「怒り」の正体をひも解きながら、怒りの上手な対処法を探る。後編では、体に悪い怒りやイライラの効果的な解消法を紹介する。

ラットの実験でも適度に怒りを発散させないとダメ

MCのお笑い芸人・後藤輝基「みなさんは怒った時に怒りをどのように紛らわしていますか。ためこむといかに健康に悪いか、お見せしましょう」

番組では、久留米大学名誉教授の田中正敏さんが29年前に行なった、伝説的な実験の映像を公開した。その内容は現在の心療内科の教科書に掲載され、基本データになっている。実験では、2匹のラットを仰向けにして手足を縛りつけた。ラットは体の自由を奪われ、当然、怒りをつのらせる。その後、1匹の口に箸を差し出すと、ラットは怒りをぶつけて激しくかみついた。もう一方はそのまま放置した。

10分後、2匹のラットを解放してゲージに戻し、唾液に含まれるストレスホルモンの変化を比べた。すると、箸をかまなかったラットは50分後もストレスホルモンを高いレベルで出し続けた。しかし、箸をかんだラットは、ストレスホルモンの量が急激に減り、50分後に平常値に戻った。

田中名誉教授「お箸にガーっと噛みつくことで怒りを出したんです。ところが、それができなかったラットは脳の中の変化が収まらず、ずっと怒ったままだった。だから、怒りは適当に出すことが大切で、出さないといつまでもそれが溜まっていることになるんです」

「やけ酒」と「さっさと寝る」が悪い理由

では、どうやって怒りを発散させるといいのだろうか。街頭で女性たちに聞くと、「スポーツをする」「やけ酒を飲む」「やけ食いをする」「さっさと寝る」「思いを誰かに聞いてもらう」が多かった。この中で、「スポーツをする」ことが良いことは誰でもわかる。残り4つのうち一番よくないのはどれか。意外なことに「さっさと寝る」ことだという。

その理由を脳と情動の専門家、自然科学研究機構生理学研究所の柿木隆介教授はこう説明する。

柿木隆介教授「すごく怒っている状態でそのまま寝ちゃうと、まずいことが起こります。睡眠には、記憶を定着させる働きがあります。怒ったまま寝てしまうと、その嫌な記憶が脳にしっかりと根づいてしまいます。怒っている時は、悪い記憶をいい記憶で上書きしてから寝ることが大切です」

やけ酒も同じだ。翌朝、前の晩のことを覚えていない人は多いだろう。飲んだ時の記憶は忘れているから、悪い記憶にいい記憶は上書きされず、さっさと寝るのと変わらない。やけ食いの場合は、美味しい味の記憶が上書きされるので、やけ酒よりはましだが、肥満という別の健康面の心配が出てくる。

そこで、「スポーツをする」に次いで怒りの解消によいのが「思いを誰かに聞いてもらう」ことだ。ただし、怒っている人を救うカギを握るのは「聞き手の態度」にある。番組では、前編に出演したフリーアナ・大神いずみさんの夫、元木大介さん(元巨人選手)に協力してもらい、実験を行なった。元木さんに、3人の女性のイライラエピソードを聞いてもらい、どのような態度で聞くとイライラが収まるかを、九州大学病院心療内科の吉原一文医師がMRI(磁気共鳴画像)を使って3人の脳の反応から調べた。

最初は丁寧にあいづちをしながら女性たちの話を聞いていた元木さんだが、そのうち飽きてきたようだ。腕組みをしたり、貧乏ゆすりをしたり、最後は女性たちの話をさえぎり、「少しは我慢しなくちゃ」「俺が選手だった頃は」などと説教を始めた。とたんに女性たちの脳が反応した。話を聞いてもらってリラックスした脳が、またイライラし始めたのだ。

吉原医師「元木さん、人の話を聞く態度としてはNGの連発ですね。聞き方で一番大事なのは『共感』です。目線をそらさず、うなずき、話をさえぎらないで話を聞くこと。心療内科医師のテクニックに『傾聴』がありますが、聞き役に必要なのが傾聴の姿勢。重要なのは、相手が大事なことを言った時に、もう一度繰り返し聞いて誘導してゆく。そこがポイントなのだな、と相手に気づかせるのです。相手にはいろんな思いがあるわけだから、説教したり、正解・不正解を言ったりしてはいけない。『私、なんでこんなことで怒っているのだろう』と気づくように促す。キーワードは『受容・支持・共感』です」

日記が効果的だが、SNSはやめておこう

さて、怒ってしまった時に最も大事な心構えとは何か。怒りを鎮めるスペシャリスト、筑波大学の湯川進太郎准教授(心理学)によると、怒りやすい人にはある傾向がみられる。それは「怒りの反すう」だ。怒りが何度もわき上がってくる状態だ。思い出してはまた腹が立つ経験の繰り返しがストレスの元となり、体や心に悪影響を及ぼす。それを防ぐには、怒りがわき上がる瞬間を知ることが大切だ。

湯川准教授は、大学内でめい想(ヨガ)教室を開き、そのノウハウを教えている。たとえば、人間の体の中で、顔に次いで神経が張り巡らされているのが手のひらだ。だから、手のひらの感覚を研ぎ澄まし、そこに意識を集中してめい想すると、怒りなど自分の感情の変化にイチ早く気づくようになる。湯川教授は胡坐をかくと、まず手のひらを何度もこすり合わせた。そして、ヒリヒリさせた手のひらを空に開き、めい想を始めた。

湯川教授は「こうすると、手のひらから感情がカーっとなってきた感じがわかるようになり、後で色々思い出した時にそれに引っ張られなくなります。意識を心や呼吸、体に向け続ける練習をするのです」

湯川教授によると、もう一つ自分の怒りの状態を客観的に見て、反すうさせない手軽な方法がある。「筆記開示法」、いわゆる日記だ。怒ってしまった日、寝る前に日記を書く。文字にすることで客観的に見えるようになり、怒りとの距離を置くことができる。書き方にはちょっとしたコツがある。

(1)出来事を細かく、丁寧に「事実」として書き、さらに「感情」も書く。

(2)「誰が」「どうして」「どうなった」から、「こういう気持ちを抱いた」「こういうふうに感じた」などと具体的に書く。

(3)SNSやブログではなく、誰にも見せないことを前提に正直に書く。

大事なことは「事実」と「感情」の両方を書くこと。そして「誰にも見せない前提」で書くことだ。

湯川准教授「日記で自分の気持ちを書くと、モニターして整理整頓できます。事実と感情の両方を書くと、少し冷静になった後に相手の視点や相手の気持ちなど、いろいろなものが見えてくるのです」