by U.S. Department of Agriculture

世界トップレベルの教育水準を誇るフィンランドですが、新たに「PBL」という教育システムを2016年8月から導入しています。科目という枠組みに捕らわれず、1つの授業で複数のことを学べるPBLについて、イギリスのテレビ局BBCが調査しています。

Could subjects soon be a thing of the past in Finland? - BBC News

http://www.bbc.com/news/world-europe-39889523



フィンランドの子どもは過去20年近くにわたって国際学力調査において高いレベルを収めており、少ない授業日数・長い休暇・比較的軽い宿題・テストなし、という条件で、どうしてこんなにも子どもの学力が高くなるのか?ということが、世界中の研究者の注目を浴びていました。経済協力開発機構(OECD)が2016年12月に発表した学力調査ではシンガポールが数学・国語・科学での1位を独占しておりフィンランドはトップ3から姿を消していますが、依然としてランキング上位に位置しています。

このフィンランドが、学校教育の改革を行い、2016年8月から共同研究的な意味合いの授業を組み込んでいます。phenomenon-based learning(PBL)と呼ばれるこの教育では、子どもたちが自分にあったトピックを選択し、そのトピックに基づく主題に取り掛かります。そしてこの授業では、子どもたちは学校を飛び出し、専門家に話を聞いたり、博物館に訪れたりという方法が取られるとのこと。

例えば、ある学校の12歳の子どもたちのクラスでは、教師がインタラクティブな電子ボードを使い、イタリアのヴェスヴィオ山が噴火してポンペイの街を破壊する再現映像を子どもたちに見せます。その後、グループに分けられた子どもたちはノートPCを配られ、グループ1は古代ローマと現在のフィンランドの土地の形をノートPCを使って比較、グループ2はローマの大浴場と現在のスパを比較、グループ3では古代ローマ時代のコロッセウムと現代のスタジアムを比較する、という形が取られます。各グループの子どもたちは1つの事柄についてのエキスパートになり、その後、発表を行うことによってクラス全体で知識を共有できるというわけです。そして、この歴史の授業では最終的に子どもたちは自分自身で調べた建物などを3Dプリントし、クラスで行われるボードゲームで利用することになりました。

これが、子どもたちがそれぞれトピックを選んで行う歴史の授業の形の1つです。子どもたちは1つの授業でテクノロジーを扱う技術と、研究調査すること、コミュニケーション、文化的な理解という複数の事柄を学ぶことになります。

また「移民」をテーマとした別の授業では、15歳のAleksis Stenholmさんは学校の外に出て町ゆく人々の声を集め、近隣の移民センターを訪れて亡命を求める人々にインタビューを行いました。さらに、移民についての問題を抱えるドイツの学校の生徒とムービーを使って知見をシェアすることもあったとのこと。このような学校という枠組みを越えた授業の中で、生徒たちは反応し、考え、疑問を呈し、意見を交換するようになります。

そして教育現場において、学校で教師らは子どもたちのスマートフォン使用について神経質になりません。教育にスマートフォンを取り入れることによって、スマートフォンが「友人とコミュニケーションを取るためのツール」から「研究に役立つツール」であることが学べるためです。

上記の例からもわかるように、PBLは生まれた時からテクノロジーと密接な関係にある、21世紀の子どもたちが活躍することを目的とした授業となっています。ヘルシンキ大学で教育心理学を研究するKirsti Lonka氏は、「伝統的な教育は、算数や文法のように『子どもたちが身につける事柄』と『あらかじめ決められた科目リスト』を中心に決められていました。しかし現実の生活で、私たちは規則にしたがって明確に区切って考えるわけではなく、もっと全体論的に考えます。また、子どもたちが環境問題・移民・経済・ポスト真実の政治など、現実世界の問題を考える時に、大人が解決のためのツールを与えることなどできません。最も大きな間違いは、大人が子どもたちに『世界は単純である』と信じさせてしまうこと、そして彼らがこれから経験することについて『確かな事実』が存在すると思ってしまうことです。考えるため、そして理解するために学ぶ。これが重要なスキルであり、学ぶことを『楽しいこと』にしてくれ、より好い人生を促進します」と語りました。



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一方で、PBLに対しては国内から反対の声も上がっています。フィンランドの子どもは、これまで学力の格差が小さかったのですが、PBLによって学力差が出てしまうという意見もその1つ。物理の教師であるJussi Tanhuanpaaさんは、「この教育方法は、経験から自分が得るべき知識は何か?ということを理解できる明晰な子どもたちには威力を発揮します。彼らは自分のペースで自由に学べ、準備ができた時に次のステップに進めるでしょう。しかし、自分自身についてよくわかっておらず、もっと指図が必要な子どももいます。これらの子どもたちの格差は広がり、悪い方向に作用することを恐れています」と語りました。加えて、テクノロジーに明るくない高齢の教師に対して、制度が不利に働くことも懸念材料です。また、ヘルシンキ大学の教育学部で研究を行っているJari Salminen氏も、ここ100年で行われた類似の教育システムが失敗に終わっていることを指摘しています。

もちろん、これらの指摘について、フィンランド教育庁も理解しているため、2017年時点では1年に1つのPBL実施が学校に求められるだけに留まっており、PBLはゆっくりとしたペースで取り入れられるそうです。また、現時点でPBLの効果を確かめるために国全体で学力測定などを行う予定はなく、国際学力調査でその結果が明らかになる予定とのことです。



by Jose Carrillo Cabrera