「特殊部隊の兵士たちのストレスレベルは限界に近づいています」

 米連邦議会で5月初旬、こう証言したのは米統合特殊作戦軍(SOCOM:いわゆる特殊部隊)の司令官を務めるレイモンド・トーマス大将である。

 特殊部隊の兵士たちの任務が以前よりも過酷になり、精神的、肉体的、心理的に疲弊してきていると米上院軍事委員会で訴えたのだ。さらに人員配備の観点からも、以前より兵士にしわ寄せが来ている。

 2年前、当欄で特殊部隊についての拙稿を記した(「世界の警官から秘密警官へ、米国の恐ろしい急変ぶり」)。

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オバマ政権下で特殊部隊への比重高まる

 ジョージ・ブッシュ政権からバラク・オバマ政権に移行した後、米国は世界各地に大規模な軍隊を派遣する代わりに、秘密裏に動ける特殊部隊を送り込むようになった現状を報告した。

 端的に述べると、オバマ大統領はブッシュ政権が始めた戦争(アフガニスタン、イラク)をすぐに収束できない反省から、他地域への地上軍派遣を推し進めなかった。「米国はまた戦争を始めた」と内外から反発を招くことを恐れていたこともある。

 そのため、シリア国内のイスラム国(IS)を殲滅する目的で地上軍は派遣しなかった。代わりに特殊部隊を派遣した。現在、シリア国内には約600人の特殊部隊が入り込んでいる。

 もちろんシリアだけではない。2年前の拙稿では、累計で世界135か国に特殊部隊が派遣されてきたと書いた。そして70か国で活動中と書いた。2017年現在、累計では138か国、現在進行形として80か国以上で特殊部隊が展開中だ。

 単純に数字上だけでも特殊部隊への期待と責務が高まっていることがうかがえる。同時に、彼らへの負担が増しているのも事実なのだ。トーマス大将は議会で述べている。

 「特殊部隊の必要性はかつてないほど高まっています。世界中で発生する安全保障の脅威に対応するために、今後は革新と呼べるだけの変革が必須になります。何らかの対応策を講じなくてはいけません」

 議会の証言時、同大将に同席した国防総省(ペンタゴン)のテレサ・ウィラン国防次官補も現状を嘆いた。

 「現状のままでは将来に悪影響が出ます。世界中に展開する特殊部隊に大きな負担がかかってしまいます」

 この負担というのは若い兵士の死をも意味する。戦闘中の死亡だけでなく、過酷な状況から自ら命を絶つ兵士は毎年一定数いるのだ。

 トーマス大将は自殺者の正確な人数については言及しなかったが、「(人員が足りず)兵士たちは年に何度も派遣される状況に陥っています」と、特殊部隊にのしかかる切実な負担を説明した。

終わるはずだったアフガン派遣もいまだ続く

 ペンタゴンが公表している兵士の死亡統計を眺めると、2016年は275人(特殊部隊以外も含む)。PTSD(心的外傷後ストレス障害)などに悩まされる兵士は少なくない。

 特殊部隊のチームによっては1カ月ごとのローテーション任務がある。現地に1カ月間派遣された後、米国内に1カ月戻るというサイクルを繰り返す。現在、約8000人が80か国に散らばっている。

 しかも派遣先や、任務期間が当初の予定と違うこともしばしば起こる。例えば、アフガニスタンへの派遣は本来2014年初頭に終わるはずだったが、現在も継続されたままだ。

 議会の証言時、ジョン・マケイン上院議員がトーマス大将に訊いた。

 「アフガニスタンの戦況は行き詰まっています。現地のニコルソン司令官が今年に入って進展がないと証言しています。その分析に同意しますか」

 「私は司令官やペンタゴンの意向に従うだけです」(トーマス大将)

 「私はあなたの意見を訊いているんです。ありきたりの答えをしないでもらいたい」

 マケイン議員にそう詰め寄られると、同大将は「アフガニスタンの現状は今が堪えどころなのです。特殊部隊の兵士を増員するかどうかを検討しているところです」と言うのが精一杯だった。

 同議員の苛立ちは、特殊部隊への期待度の表れでもある。地上軍は無理でも、特殊部隊であれば多くの国に派遣できる。「秘密部隊」として任務を遂行することができる。期待度は上がるばかりだ。

 またメディアに対して、特殊部隊であれば詳細を公表せずに済む利点もある。トランプ政権になってからもますます依存度が高まるはずだ。前出のウィラン国防次官補は今月中旬、ホワイトハウスに特殊部隊の「新戦略」を提出している。

 そして今月15日、フロリダ州タンパで「特殊部隊産業会議」という年次会議が開かれた。

大盛況だった特殊部隊用の装備見本市

 ペンタゴンの中でも特殊部隊が使用する武器や装備は特殊なものが多いため、特定メーカーが特殊部隊仕様の製品を作っている。

 1万1000人が参加した同会議には、約400のブースが出され、様々な軍用グッズが並んだ。その中には小型潜水艇、地形回避レーダー、全天候型レーダー、精密誘導兵器など、特殊部隊(ペンタゴン)と契約を交わすために多くのメーカーが売り込みをかけた。

 会議で演説をしたトーマス大将は、こうした動きを歓迎して述べた。

 「2001年9月の同時多発テロ事件以降、特殊部隊の役割は大きく変わりました。同時に、我々は変化し続ける世界の脅威に本当に対応できているのかとの疑問がありました」

 「このままじっとしているだけでは、近い将来、危機に直面します。中東だけでなく、ロシアに対しても十分に警戒していかなくてはいけないからです」

 東アジアでも、北朝鮮の挑発によって交戦の緊張が高まっている。特殊部隊が動くのは中東地域やロシア国境だけではない。全世界的なレベルで戦闘能力を向上させ、効率化をはかるために、ペンタゴンは全体的な底上げを図る必要がある。

 カリフォルニア州モントレーの海軍大学院、ジェームズ・ラッセル准教授は「アフガニスタンとイラクでの失敗を受けて、米国は特殊部隊の必要性をいま再認識しなくてはいけない」とブログで述べている。

 米国の同盟国として日本ができることは限定的だが、ペンタゴン内部や議会に「大統領、特殊部隊は首が回りません」という声があることだけでも認識しておくべきだろう。

筆者:堀田 佳男