ドラッグストア業界において22年間守り抜いてきた売上1位の座を、ついに明け渡す事態となったマツモトキヨシ。圧倒的な知名度を誇る同社に一体何が起きたのでしょうか。無料メルマガ『ビジネスマン必読!1日3分で身につけるMBA講座』では著者でMBAホルダーの安部徹也さんがその理由を探るとともに、マツモトキヨシが首位奪還のためにすべきこと、そしてそこに立ちはだかる「イオンの壁」の超え方について記しています。

マツモトキヨシが首位から3位転落の危機!

2017年3月期の決算でドラッグストア業界最大手のマツモトキヨシホールディングスが22年振りに首位の座を明け渡すことが確定しました。

マツモトキヨシホールディングスの2017年3月期の売上高は、前期から0.2%減少して5,351億円となり、一足先に2017年2月期の決算で前年比18%増の6232億円という売上高を発表しているウエルシアホールディングスに大きく引き離されて、1994年度にコクミンから奪取して22年間死守してきた首位の座から遂に陥落してしまったのです。

加えて、昨年度5275億円で業界3位に付けていたツルハホールディングスが、5月末には前期比10.5%増の5830億円の売上高で決算期を迎える見込みです。

もし、ツルハホールディングスが予定通りの着地となれば、マツモトキヨシは一気に業界首位から3位に転落することになるのです。

 (出典)各社の決算短信より、筆者作成

なぜ、マツモトキヨシは首位から陥落したのか?

ドラッグストア業界は順調に成長を続け、2016年度は前期比5.9%増の6兆4916億円に達しました。特に調剤事業の成長が著しく、2016年度は前期比9.6%増の7849億円を記録するなど、調剤医療費においてドラッグストアのシェアはおよそ10%を占めるまでに拡大してきています。今後も業界では、ドラッグストアで薬の調剤を依頼する顧客の割合を50%以上にまで高めていこうと各社が力を入れているのです。

この調剤事業で圧倒的な強みを発揮するのが業界首位に躍り出たウエルシアホールディングス。

全国に展開する1500店舗のうち、およそ1000店に調剤を併設。2016年度の調剤事業の売上高は1000億円規模に達し、およそ400億円とみられるマツモトキヨシホールディングスの2倍以上にまで規模を拡大し、大きな差をつけているのです。

また、ドラッグストア業界は首位のウエルシアホールディングスが6000億円台、続くツルハホールディングス、マツモトキヨシホールディングス、サンドラックが5000億円規模で続き、コスモス薬品、スギホールディングスが4000億円台、そしてココカラファインが3000億円台と突出したリーダーが存在せず、コンビニなどに比べれば寡占化が進んでいない業界構造になっています。

ただ、業界の特徴として規模の経済が働きやすいために、M&Aによる規模拡大が業界順位を大きく左右することになります。

実際にウエルシアホールディングスは、2013年度までは売上高が3000億円台と首位のマツモトキヨシに遠く及びませんでしたが、2014年11月にイオンの子会社になると、親会社のイオンは関連ドラッグストアの合併を加速させ、短期間で6000億円企業にまで登り詰めてきた経緯があります。

業界2位に浮上する見込みのツルハホールディングスも、イオンの資本が入るなどイオンとつながりの深いドラッグストアチェーンですが、ウエルシアと同じくM&Aで成長を加速させてきました。ツルハはもともと北海道発祥の企業ですが、関東を地盤にする「くすりの福太郎」を傘下に収めたり、四国を拠点とするレディ薬局を買収したりするなど、全国各地にその勢力を拡大してきたのです。

マツモトキヨシホールディングスも同じように、地方のドラッグストアチェーンとの業務提携などで規模を拡大させてきましたが、ウエルシアホールディングスやツルハホールディングスには及ばず、遂に首位を明け渡すことになったのです。

マツモトキヨシが首位を奪還するためにはどのような戦略が必要か?

それでは、マツモトキヨシが再び首位を奪還するためにどのような戦略を取るべきでしょうか?

現状マツモトキヨシは、次の5つを重点戦略に掲げ、成長を指向しています。

新たなビジネスモデルの構築調剤事業の強化・拡大オムニチャネル化の推進垂直連携体制の構築7つのエリアにおける収益性の向上

確かにこの重点戦略が功を奏し、2017年3月期は営業利益、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益すべてが過去最高を記録しました。

一方、売り上げに関していえば、ウエルシア、ツルハにそれぞれ1000億円、500億円近く引き離されている現状を踏まえれば、自社単独で未開拓の商圏に新規出店を図ったり、延べ4800万人を超えるグループ会員に対して徹底的なマーケティングを実施したりするだけでは、首位を奪還することは難しいといえるでしょう。もちろん、そのような地道な努力も必要不可欠ですが、やはり競合企業同様、M&Aによる規模の拡大を目指す戦略は避けて通ることはできないといえるでしょう。

このM&Aを推進するうえで、マツモトキヨシには「ブランド」という他社が真似できない「コア・コンピタンス」があります。

これまで22年間ドラッグストア業界で首位に君臨し、積み重ねてきたブランドはウエルシアやツルハを凌駕します。この「マツモトキヨシ」というブランドを軸に、他の数千億円規模の売り上げを誇る同業者と業界再編を仕掛けることもできるでしょうし、業界再編に乗り遅れて将来に不安を感じる地方のドラッグストアチェーンを買収することもできるはずです。

このようにM&Aを駆使して事業拡大を図る戦略が、マツモトキヨシが再び首位を奪還する鍵を握ることは間違いないといっても過言ではないでしょう。

マツモトキヨシの首位奪還を阻む障害とは?

ただ、そうやすやすと再び首位に返り咲くことはできないことが予想されます。やはり、マツモトキヨシホールディングスが目的を達成する過程ではいくつもの大きな障害が横たわっているのです。

その最たるものは、連結売上高が8兆円を超えるイオンの壁でしょう。

ドラッグストア業界で悲願の首位奪取を果たしたイオン率いるウエルシアホールディングスは、1995年にイオンがジャスコの時代から業務資本提携を結んでいるツルハホールディングスを含めて、「ハピコム」というドラッグストアグループを形成し、グループ全体では日本全国に4300以上の店舗を展開し、売り上げ規模は1兆円を超えています。

今後もイオンは、セブンイレブン、ローソン、ファミリーマートという3強による寡占化がかなり進んだコンビニ業界で出遅れている傘下企業のミニストップに力を入れるよりは、ドラッグストア事業に注力し、大手コンビニに匹敵する2兆円規模を目指し圧倒的なリーダーとしての地位を確立していくことも十分に考えられます。

その過程で今後もまだまだM&Aを繰り返す可能性も高く、マツモトキヨシにとっては買収や提携による拡大の機会自体を奪われかねないのです。

また、マツモトキヨシは都市型店舗に強みを発揮し、メインの顧客層が働く女性で化粧品の売り上げの比重が高いという特徴があります。一方、地方のドラッグストアチェーンではメイン顧客が主婦層であり、売り上げの比重は食品が高いという特徴があります。このような特徴の違いから、地方ドラッグストアとの提携や買収にあたって、マツモトキヨシの都市型店舗の品揃えの強みが逆に弱みに転じる可能性も考えられるのです。

今後、地方のドラッグストアチェーンにとって魅力的な提携相手となるためには、食品関連のPB商品を拡充するなど今一度商品戦略の見直しも必要になってくるかもしれません。

マツモトキヨシとウエルシアの商品販売構成】

 (出典)両社の2016年度の決算書から筆者作成

いずれにしろ差別化が難しく規模の利益が重要視されるドラッグストア業界では今後もさらに再編が進み、寡占化の道を辿ることは間違いありません。

果たして、業界の趨勢が定まった時にマツモトキヨシは再びトップに立っているのか?

うかうかしていると、第4位のサンドラッグ、第5位のコスモス薬品も、振り返ればわずかな差で追走してきているだけに、一気に5位まで転落するということも決してありえないシナリオではありません。

マツモトキヨシホールディングスにとっては、これから22年間業界のトップを走り続けてきた真価が問われることになりそうです。

image by: Flickr

安部徹也さんの新刊『マンガでやさしくわかるブルー・オーシャン戦略』

日本能率協会マネジメントセンター・刊 好評発売中!

 

『ビジネスマン必読!1日3分で身につけるMBA講座』

著者/安部 徹也(記事一覧/メルマガ)

テレビ東京『WBS』への出演など、マスメディアで活躍するMBAホルダー・安部徹也が、経営戦略やマーケティングなどビジネススクールで学ぶ最先端の理論を、わかり易く解説する無料のMBAメルマガ。

出典元:まぐまぐニュース!