5月30日で刊行から50周年 ガルシア=マルケス『百年の孤独』にまつわるウラ話

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発売から長い時を経ているにも関わらず、今でも読者や批評家、作家たちから「傑作」と評される小説がある。

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』、フョードル・ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』などが代表的だが、『百年の孤独』(ガブリエル・ガルシア=マルケス)もその一つ。以前、新刊JPが小説家を対象に行ったアンケートでも「影響を受けた作品」として名前があがることが多かった。

読書が好きな人なら一度は名前を聞いたことがあるだろうこの作品。しかし、出版前に作者のガルシア=マルケスが試みた風変わりな試みについてはあまり知られていない。



■完成間近の『百年の孤独』に自信が持てなかったガルシア=マルケスが試みた実験

スペインの日刊紙「El País」の「Los siete capítulos olvidados de ‘Cien años de soledad’(『百年の孤独』の忘れられた7つの章)」と題した記事によると、『百年の孤独』の執筆が終わりに近づいていた時期、マルケスはこの作品の出来に自信が持てなかったようだ。

実際、これまでに書いた部分を読み返した氏は、友人への手紙で「悲劇的というより幸福な小説になると思っていたが、がっかりした」と書いている。

この時点で、小説はまだ書き上げておらず、版元との出版契約もしていなかった。ならば、ということでマルケスは思い切った手段に出た。それまでに書き上げたいくつかの章を新聞や雑誌上で発表してしまい、読者の反応を見ることにしたのだ。

こうして、氏は『百年の孤独』を構成する20章のうち7章分を発表したのだが、おもしろいのは、特定の雑誌に連載のように発表したわけでも、最初から順番通りに発表したわけでもないことだ。

たとえば、1966年5月に最初の章をコロンビアのエスペクタドール紙で発表すると、8月に次の章をスペイン語圏で読まれていた文芸誌「ムンド・ヌエヴォ」に、その5カ月後にはペルーの「アマル」誌に12番目の章を掲載、といった具合だ。その範囲は20カ国以上に及んだ。

■修正箇所は1章だけで42カ所!名作文学はいかに完成したか

この記事では、こうしたマルケスの取り組みを紹介するのと同時に、「『百年の孤独』が完成するまでに、氏は原稿にどのような修正を加えたのか」という点に注目している。

というのも、各雑誌に掲載された章の原稿と、実際に本として発売された完成稿を比べると、用語や人物描写、あるいは構成上のものまで、多くの修正箇所が浮かび上がるからだ。その数は1章だけで実に42カ所。これらはマルケスがいかにこの作品を書き上げたのかを示す足跡でもある。

例として示されている箇所の一つに、物語の主たる登場人物の一人であるアウレリャノ・ブエンディア大佐の誕生シーンがある。書籍では、

母親の胎内で早くも産声をあげ、生まれたとき目がぱっちりあいていた。(新潮社による改訳版P27より引用)

と、英雄的な誕生となっているが、先述のエスペクタドール紙に掲載された当時の原稿では、「産婆が、産声を上げさせるために尻を三回平手打ちした」と、仮死状態で生まれてきたかのような描写になっている。

また、舞台となる「マコンド」という村の場所についても、マルケスは「最後のひと工夫」をしたようだ。雑誌に発表した時の原稿では「マグダレナ川(コロンビア西部を流れる川)のヨーロッパ側の浅瀬近くの村」と書かれているが、本となった原稿では場所を特定するような記述はない。

これは、読者がマコンドをラテンアメリカのどこにでもある村として想像しやすいように、場所に関する記述をマルケスが削除したと考えられる。

『百年の孤独』は、無理を承知でひと言で表すなら「百年に及ぶ、ブエンディア一族の盛衰記」である。つまり、最後には衰退・崩壊が待っているわけで、それをよりドラマチックに表現するために、マルケスは構成上の修正も加えている。

シロアリが家をむしばむ描写は、ブエンディア一族の崩壊を示唆する出来事として描かれるが、雑誌発表時は最初の章にあるのに対して、本ではラスト近くにある。あまりに物語の早い段階で示唆的な描写を入れることでドラマ性が失われてしまうとマルケスは考えたのかもしれない。

 ◇

ことによると、マルケスが読者や批評家の反応を最も知りたかった場面は、「小町娘・レメディオスがシーツとともに昇天する場面」「百年以上生きた一族の始祖・ウルスラが天寿をまっとうする場面」など、今では文学史上の名シーンとなっているが、当時は読者や批評家からどんな意見が出るか予想がつかなかった部分だったかもしれない。

これらの冒険的なシーンについての評判はおおむね良かったようで、『百年の孤独』は無事に完成。1967年にアルゼンチン・ブエノスアイレスの出版社から刊行された。

その初版発売から、今日でちょうど50年である。

(新刊JP編集部・山田洋介)

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