手描きのオードリー・ヘプバーン

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 茨城県水戸市で映画看板絵師として活躍すること約60年の大下武夫さんが、オードリー・ヘプバーンや石原裕次郎など映画スターを描いた個展「スクリーンの仲間たち」を5月30日〜7月16日、同市備前町の常陽史料館で開催する。今では数少なくなった映画看板絵師の職人芸を間近で鑑賞できる貴重な機会となりそうだ。(中山治美)

 ひと昔前まで映画館といえば、一般館が主流だった。入り口には上映作品を告知する大きな看板が掲げられ、ド迫力のスター俳優たちのイラストと躍動感溢れる手書きの文字が目を引き、否応なく観客の期待感を煽った。そのイラストは、遠方からの方が役者の表情が立体的に見えるよう、絶妙に甘さと荒さを残しつつ描かれていたという。映画産業全盛期は毎週のように新作が公開されるため、各映画館は専属の絵師を抱えていたこともある。

 今年75歳となった大下さんは、16歳でこの世界に入った。東映直営館の専属絵師を経て、1968年に26歳で独立。繁忙期は1970年代後半から1980年代で、水戸市内にあった11館の映画館全ての看板を手がけていたことから常に締め切りに終われる日々で、大下さんは「今でも楽日(興行の最終日)が頭から離れないし、寝ている時に、無意識に看板を描くように手を動かしているらしい」と笑う。

 だが、時代はシネコンへと移行し看板からポスターへ。さらに手書きからデジタルプリント技術を駆使した宣材が主流となった。大下さんもミニシアター・水戸テアトル西友が2008年に閉館したのに伴い、映画看板の定期的な発注は無くなった。以降は、看板・標識製作業を営む傍ら、水戸で撮影を行った映画『桜田門外ノ変』(2010)や『ローリング』(2015)など、不定期で仕事を請け負っているという。

 しかし昭和レトロな手書き看板を懐かしむ映画ファンは多く、大下さんの作品の一部は、横浜のミニシアター・シネマノヴェチェントに掲示されている。そして今回、水戸に本店を置く常陽銀行が、郷土の歴史や文化芸術を収集・展示するために1995年に創設した常陽史料館から個展の依頼が届いた。

 展示作品は、描きためていたオードリー・ヘプバーンやアラン・ドロンなど往年の映画スターを中心に、新たにグレゴリー・ペックやシルヴェスター・スタローンなど4点を描き下ろした。さらに映画看板は通常、作品が変わるごとに新作を上描きしていくので保存していないのだが、大下さんのお気に入りで作業場に保管しておいた菅原文太主演『わたしのグランパ』(2003)と『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)を展示予定だという。
 大下さんは「映画看板絵師の仕事が忘れられることなく、こうして声をかけていただけて有難い。自分の集大成になると思う」と意気込みを語っている。

「スクリーンの仲間たち」は5月30日〜7月16日、茨城県水戸市の常陽史料館で開催