Base Ball Bearの小出祐介が部長となり、ミュージシャン仲間と映画を観てひたすら語り合うプライベート課外活動連載。今回は、原作が濃いSFファンから支持されてきた『メッセージ』。ネタバレを含みますが、小出部長の真摯な解説を読んでもからでもより映画を楽しむことができるのではないでしょうか。


活動第35回[後編]「メッセージ」

参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、福岡晃子(チャットモンチー)、オカモトレイジ(OKAMOTO’S)



原作ファンの小出部長が『メッセージ』の世界観を解説する[前編]はこちら


ドラムを叩くことが好きな俺がいて、目の前にドラムセットがあるから、いま俺がドラムを叩く


レイジ 話を整理すると、ルイーズは未来予知能力を手に入れた、というわけでもないってことですよね。


小出 厳密に言えば、未来予知能力という種類のものではないだろうね。結果的に「未来がわかる」ようになったけど。


──人類的文脈でいえば、彼女だけ予知能力者になったように見えるってことでしょうね。


レイジ なるほど。なんか突然、すごく音楽的な話をしますけど、いいですか? 俺、ドラムやるときによく意識してることがあるんです。若干「運命」のような話なんですけど、ここにドラムを叩くことが好きな俺がいて、目の前にドラムセットがあるから、いま俺がドラムを叩くことというのもあらかじめ決まってることだと思っていて、自分の握っているスティックがドラムに当たるまでの間のことをよく考えるんです。


たぶん「結果」より「過程」って、そういうことですよね。演奏する曲も知っているし、ドラムパターンも基本的には決まっている。この曲を間違えないように叩くっていう「結果」はいつも決まっているけど、大事なのはその「過程」だっていう。


ドラムのグルーヴなんかもその「過程」のことだと思うんです。スティックを持ち上げて、叩きつける瞬間までの連続。自分は「そこをできるだけ濃く感じよう」という。


小出 なるほどね。結構そういうことだと思うよ、本当に。


──【AからBに到達する】という事実は固定されているけど、そのプロセスをどう生きるかで音楽の質も変わってくる、と。


レイジ そうです。その間の腕の動きや、この腕の中で何が自分はできているのかと想像したり。それはちょっとルイーズ的な、へプタポッド的言語の思想を知った人間の考え方に近いのかもしれない。


 


時間感覚を踏まえて歌詞を書いているのがユーミン


小出 原作を改めて読み返していて思ったのは、歌詞哲学のことなんだよね。J-POPの歌詞って特に「Bへの自由意志の作用」を意識するものばっかりなんだよね。 Bっていう結末が、Aからスタートして過程を歩んでいる自分の意志によって左右されるって信じてやまない。自分の努力や信念、あるいは根性みたいなものがBっていう結果に強く作用するっていう考えを前提とした、「運命は変えられる」っていう意味の歌詞がすごい多いじゃない。


レイジ “輝く明日へ”“夢に向かって”みたいなノリですね(笑)。


小出 そうそう。過去と現在と未来がどう作用し合って存在しているかさえ、自由意志が決定付けがちなことをずっと疑問に思っていて。


──理想のB地点ありきで、Aを逆算しているのが一般的ですよね。


小出 願いと結果が前置きもなくイコールで結ばれていることが多いんですよ。確かに自由意志もBを決定付ける要素のひとつではあるから間違いではないけれど、意識していない選択肢も多い、っていうかそのほうが本当は多いはずですよね。


こんなごちゃごちゃした前置きポップスには無粋かもしれないけど、この雑味の多い前置きこそ本来的に人間的だと思うから四捨五入することにどうも違和感があるんですよ。


……っていうような力学への意識とか、今日話したような時間感覚の話を踏まえて歌詞を書いているのがユーミン(松任谷由実)さんだったりするよね。


──ふふふ。ユーミン=へプタポッド説。


小出 いや、本当にね、マジで怖いなと思ったもん。「やさしさに包まれたなら」の歌詞とか、よく読むと。あれはユーミンが「荒井由実」時代の、ハタチくらいに書いた曲なんだけど。


レイジ ♪小さい頃は神さまがいて〜


小出 そう、歌い出しは“小さい頃は神さまがいて”。まず、その神さまがなんなのか。


福岡 私、最近めっちゃユーミン聴いてる。


小出 大人になってくるとヤバさがどんどんわかってくる。


福岡 ヤバいよね。わかってくるよね。


レイジ SF?


小出 SFよ。実際、ユーミンは80年代にすごいSF感をまとうのよね。


レイジ そうなんですね、SF好きなんだ。


小出 当時、世の中がSFブームを迎えたのもあるかもしれないけどね。アルバムでも『時のないホテル』っていうコンセプトアルバムがあったり、最新作も『宇宙図書館』っていうタイトルで、時間についての曲が何曲もあったり。


さっきの「やさしさに包まれたなら」は70年代の曲だけど、“小さい頃は神さまがいて 不思議に夢をかなえてくれた”。そこから、“カーテンを開いて 静かな木洩れ陽の やさしさに包まれたなら きっと 目にうつる全てのことは メッセージ”!


福岡 うおー、超怖い!


レイジ こわっ!


小出 ヤバいでしょ?


福岡 ヤバい。へプタポッドや!


小出 時間について意識していないと、ああいう歌詞は書けないと思うんだよね。“小さい頃は神さまがいて”だから、今はきっと神さまがいない大人になった時期。じゃあその神さまを奪ったのは? ……とか、いろいろ意味が読み取れたりするんだよね。


レイジ すごい。


小出 生きるとか死ぬとかとっくに超えてるというか。ユーミンはこの世界をどこから見てるのかなぁ。


福岡 あはははは。みんな結局「B」に行くんだから、「A」のことなんて問題外、みたいな。


レイジ ユーミンすげえ! って話になっちゃった。ユーミンさんがこの『メッセージ』を観たら、どういう感想を持たれるんでしょう?


TEXT BY 森 直人(映画評論家・ライター)


観賞を終え、いざ感想会の喫茶店へ。この合間は作品の感想を多く語らないのが、映画部の暗黙のルール。